第331話 【その後・3】


 それから師匠は、赤面するフィオロに力の一部を開放させて、俺とフィオロを連れて宿へと帰宅した。


「ジン。言っておくけど、さっきの事をヘレナ達の前では言わないでよ? 言ったら、私も我慢しないからね?」


「わかったわかった。もう遅い時間なんだから、さっさとシャワー入って寝たいんだよ」


 詰め寄って忠告をしてきたフィオロに対し、俺はそう言ってフィオロと別れてシャワーを浴びて部屋に戻って来た。

 久しぶりにクロエ達と会えたけど、ちゃんと表情筋も戻って来たようで良かった。


「本当に焦ったよ。まさか、あそこまで俺が精神的におかしくなるとは思いもしなかったな……」


 神聖国の上層部は悪魔の者以外は殺しはしなかったが、あの時でさえ俺は自分を制御できなくなっていた。

 自分がおかしくなっていってると気づいていた俺は、騒動が終わった後、直ぐに師匠と話をして暫く絶対安静を取る事にした。

 初日、様子を見に来た師匠は俺の顔を見て「笑顔出来る?」と言い、俺は自分ではしてるつもりだったが全く出来ていなかった。

 それ程、俺は人を何百と殺した事で精神的に汚染されてしまい、俺は表情筋を失っていた。


「取り合えず、これだけ元に戻れば姫様の所にも行けるだろう」


 そう考えた俺は、姫様に向けての手紙を書いて、宿に待機してる姫様の部下の一人に手紙を渡して、その日は休む事にした。

 翌日、少しおさめに起きると部屋の扉の下に手紙があり、中を確認すると今日ならいつでも空いてると姫様からの手紙だった。


「飯を食べたら、姫様の所に行くか」


 まだ休暇期間の為、クロエ達は既に朝食を食べ終えて居なくなっていたので、俺は一人で食事をして姫様の所へと向かった。


「久しぶりね。ジン」


「お久しぶりです。姫様、そして心配をおかけしました」


「……本当よ。何日も人との接点を切って、どうしたのかって王城でも騒ぎになってたんだからね?」


 初日の二日目は特になんともなかったが、三日目に姫様の所から俺の元にある手紙が届いた。

 その内容には、何処か悪い病気だったら教えて欲しいという内容で、俺はその手紙に対して、今の自分は人と会えない状況だと説明をした。


「それで今こうして会ってるという事は、治ったの?」


「ええ、治りました。元々、人を殺した事があったので自分の状況が分からなくなるほどでは無かったんです。上層部を相手してる時に、これはまずいと思ってそれ以上は人を殺さずに何とか持ちこたえて、この数日間ずっと瞑想をして落ち着かせていたんです」


「偶に兵士になったばかりの人が、人を殺して自分で制御が出来なくなるという話は聞いた事があるけど、ジンがそれになるなんてね」


「今回は数が多かったですからね。クロエ達も戦ってはいましたが、とどめは俺が刺したりしてたいたのでそれで蓄積されていったんだと思います」


 クロエ達からしたら俺の負担を減らす為、一緒に戦っていたけど俺は俺でクロエ達に負担になってほしくないとも思っていた。

 だからあえて人を殺すという最終的に行為は、俺が率先して行っていた。

 そのせいもあり、上層部達を集めた建物の前の時点で俺は自分に違和感を感じていて、クロエ達と離れる作戦をあの場で伝えた。


「まあ、自分で分かってて壊れる前に元に戻せて良かったわ」


 姫様はそう言うと、俺の話は終わって神聖国の話へと変わった。


「そう言えば、上層部の奴等は尋問してると聞きましたけど、どうですか捗ってます?」


「ええ、聞いてない事も喋ってくれてるから情報の整理が終わったら、処刑日を発表すると思うわ。それにしても、あそこまで人間が変わるなんてジンは一体何をしたの?」


「絶望の底まで落としただけですよ」


「その言葉だけでも怖いわね。本当にジンが私達の味方に居てくれて、本当に良かったわ」


 ゲームの世界だと、ジンは悪役として魔王以上に世界を破壊していたくらいだからな。

 そう俺は思いながら、尋問が上手くいってるみたいなので俺は特に手を貸す事も無さそうだった。


「それで、ジンはこれからは何するの?」


「そうですね。尋問が上手く行ってるのでしたら、俺は冒険者活動をしつつ、竜人国の土地となった元神聖国跡地の修繕でもしようと思います。ボロボロにしたのは、俺達ですから人が住める程度には元に戻さないと、なんだか気分が悪いですから」


「それは竜人国としても有難いと思うけど、大丈夫なの? かなり広範囲にボロボロの状態よ。ジンは病み上がりで見てないと思うけど、相当酷いわよ」


 姫様は俺の言葉にそんな風に言って、俺は「出来る事はしようと思います」と言葉を返した。

 その後、姫様とはまた何かあったら連絡を下さいと言って、俺は姫様の部屋から宿へと帰宅した。

 帰宅後、俺はまずは神聖国の跡地の確認でもしようと思い、元神聖国の土地の場所へ様子を見に行く事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る