第323話 【破滅へ・3】


 姫様の所へと来ると、姫様は俺の顔を見て「何があったの?」と真剣な顔で聞いてきた。


「姉さん達が神聖国の兵士に襲われました。こちらが証拠です」


 俺は証拠となる記録用魔道具と、ハンゾウが集めた資料をテーブルに置いた。

 姫様は恐る恐る映像と資料を見て、俺の顔をジッと見つめた。


「……あの国は、手を出しちゃいけない所に手を出したという事なのね。ジン、神聖国をどうするつもりなの?」


「潰します。神聖国と言う名の国をこの世から消します」


「物騒な言い方ね……まあ、でもそれだけジンが怒ってるって事ね」


「はい。今回ばかりは俺も直ぐに手を出そうかと思う程でしたが、相手が国ですので先に姫様には話をしておこうと思い、踏み留まりました。まあ、クロエ達の気持ちの整理も必要でしたから丁度良かったですけど」


 俺の言葉に対して、姫様は「クロエ達もその制裁に参加するの?」と聞いた。


「はい。今のジン君はちょっと危険ですから、近くに私達が居た方が良いと思いますし、それに私達もヘレナさん達を襲ったことには怒ってるので」


「そうなのね。確かに、今のジンを一人にしたら神聖国だけじゃなくて、神聖国と仲良くしてる国まで手を出しそうな勢いだものね」


「流石にそこまではしませんよ? 神聖国に制裁を加えたうえで、どう立ち振る舞うのか見て決めますよ。今回は、神聖国の兵士と悪魔が姉さん達を襲ったのでそいつらを地獄に叩き落すだけです」


「本気の目をしてて、怖いわね……神聖国も馬鹿ね。一番、怒らせたらいけない相手の唯一我慢が出来ない部分を直接攻撃してくるなんて……」


 姫様は呆れた様子でそう言うと、外に居る従者に国王に対して手紙を渡して、部屋に呼ぶように告げた。

 そしてそれから数分後、慌てた様子で国王が部屋にやって来た。


「ジン、神聖国を潰すという話は本当なのか?」


「はい。本気です」


「……フィアリス。一体何があったんだい? ジンがここまで怒るなんて、初めてじゃないか?」


 国王は姫様にそう聞くと、姫様は何故俺が怒っているのか一から説明をした。

 その際、記録用の魔道具とハンゾウの資料も見て、国王は大きな溜め息を吐いた。


「うん。ジンが我慢できない理由が分かった……対話はもう厳しいのだろ?」


「無理ですね。正直、今こうして話し合いをしてるだけでも、俺はかなり我慢してます。一秒でも早く、神聖国を潰し、神聖国が何をしていたのか世間に知らせたい気持ちしかありません」


「……そうかい。わかった。今回ばかりは儂も止められそうにない、ジンが好きなようにすると良い。後処理は我が国がしておくから、思う存分やりなさい」


 国王の言葉に俺は驚き、「後処理をしてくれるんですか?」と聞き返した。


「うむ、今までジンには色々と世話になっておるからな、フィアリスも良いだろ?」


「はい。元々、そういうつもりでお父様をお呼びしましたからね。国を一つ消した場合、後処理はかなり面倒ですから先にお伝えしておこうと思ったんです」


 国王と姫様のそんな話を聞き、俺は少しだけ冷静になり「ありがとうございます」とお礼を口にした。

 その後、俺達は王城から空島の師匠の所へと移動した。


「師匠。俺、神聖国を潰します」


「そうなのね。わかったわ、私も協力してあげるわ」


「……えっ、師匠がですか!?」


 師匠の所に来たのは、報告だけのつもりだったのに師匠はやる気満々といった様子でそう言った。


「ええ、昨日の夜に弟子ちゃんの魔力が荒ぶったのを感じ取って、何かあったんだろうって思ってみてたのよ。そしたら、ヘレナちゃん達が神聖国に襲われたんでしょ? 弟子ちゃんの家族を狙ったんだもの、私も少なくとも少しは憤りを感じてるのよ」


「そうだったんですか……その、ありがとうございます。正直、国を相手に戦うので師匠が仲間になってくれるのは、本当に心強いです」


「ふふっ、そう言ってくれると私も嬉しいわ」


 師匠と俺がそんな話をしていると、一緒に部屋に居るクロエ達がこそこそと何か話をしていた。


「……魔女が国との戦いに参加って、歴史上無いんじゃない?」


「うん。それもジン君と一緒にだよ? 神聖国のあった土地、跡形もなく消えるんじゃない?」


「人の死というより、大陸に穴が出来るかもな……」


 そんな話声が聞こえてきたが、そうなる未来が俺にも見えてるので否定はしなかった。

 それから師匠と話をしていると、家の中に居たヘレナーザとナシャリーが話し合っていたリビングへとやって来た。


「楽しそうな話が聞こえて来たけど、何かあったの?」


「うん。弟子ちゃん達と一緒に、神聖国を潰そうって話をしていたのよ」


「えっ? あの国は面倒だから、相手はしないって言って無かった?」


「言ってたわよ。でも、今回やる事はその国自体を無くす予定なのよ。弟子ちゃんが既にデュルド国の王と話を付けてきてるから、弟子ちゃんの仲間として参加すれば今までの鬱憤を晴らせるわよ?」


 師匠のその言葉に、ヘレナーザは目を輝かせ「私も参加するわ、良いかしらジン?」と聞いてきた。


「ヘレナーザさんもいれば、頼もしいので是非参加してください。ナシャリーさんはどうしますか?」


「ん~、私も迷惑掛けられたことあるから参加する」


 こうして神聖国討伐仲間に、この世界で三人しかいない魔女が全員参加する事になった。

 そしてそんな話をしていると、家の玄関の呼び鈴がなり、玄関に行くとそこにはドラゴン族の面々が集まっていた。


「ジン達が楽しそうな話をしてたから、親父達を連れて来たよ」


「あの神聖国を潰すんだろ? 退屈をしておったから、丁度良いと思ってな、我らも参加しても良いか?」


「勿論良いですよ。一緒に神聖国を潰しましょう」


 三人の魔女に加え、竜王ヴェルドとドラゴン族数百体が俺達の仲間に加わり、俺達の戦力は更に拡大された。

 その後、俺は師匠達とヴォルドさんと話し合いを行った。


「作戦なんて考えません。とにかく、神聖国を潰します」


「大体な考えだな……だがそれだと、民間人はどうするんだ?」


「戦う意思のない人達に関して、手を出したくはないです。一番の目的は、国の中枢に居る奴等です。なので出来るだけ、民間人には手を出さないようにお願いします」


「うむ、民間人以外はやってよいという事だな、分かりやすくていいな」


 ヴェルドさんは俺の言葉に笑いながら言うと、師匠は「民間人に関しては、私に任せて」と言った。


「戦う意思のない人達に関しては、魔法で安全な場所に移動させるわ」


「流石は魔女だな、数万規模の相手を転移させる気か?」


「その位、簡単よ。ただ人の気持ちまでは分からないから、戦いを始める前に数分間、確認をとる時間が欲しいわ」


「……わかりました。それでは、国に着いたら宣戦布告をします。その間に意思の確認を行い。戦う意思の無い人、民間人は師匠の魔法で移動させてください。その後は、思う存分暴れます」


 最初は無差別に行こうと思っていたが、師匠の言葉にそこは踏み止まりそういう作戦で行く事にした。

 既に全員、戦闘準備は出来ている為、俺達はドラゴンに乗って神聖国へと向かう事にした。

 数百体のドラゴンなんて、人が見たら絶望するだろうけど神聖国には絶望だけでは許されない程の罪がある。


「待っていろよ。クズ共が……」


 神聖国をどう潰そうか、俺は到着まで目を瞑りそれだけを考える事にした。

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