第322話 【破滅へ・2】


 見回りをすると決めた俺達は、宿を出ようとすると宿の出入り口で出かけていたリカルドと会った。


「あれ、また見回りか?」


「ああ、なんか嫌な予感がするからもう一度行く事にした」


「そうか、まあお前等なら大丈夫だと思うが、気を付けてな」


 リカルドにそう言われた後、俺達はいつも通り二手に分かれて見回りへと出掛けた。

 その結果、一度目と同じく特に騒ぎが起きてる様子もなく、ここ最近では珍しく平和な感じだった。

 それには王都の人達も少し違和感を感じていて、もしかしてなにか起きる前兆か? と噂してる人も居た。


「結局、何も無かったな……」


 二度目の見回りを終えて宿に帰宅した俺達は、部屋に集まり互いに報告を行うと、どちらも何も起きていなかったと言った。


「そうだね。でもなんだか嫌な予感だけはずっとするんだけど、ジン君はどう?」


「同じくだ。なんか言葉に言い表せないけど、何かが起きそうとだけは感じるな」


「ジンとクロエがそう言うって、マジで何か起きるんじゃないか?」


 俺とクロエの言葉に、レンがそう不安そうに言った。

 レンの言葉に続けて、レイも「ジン君達の勘ってかなり当たるもんね」と同じく不安に感じていた。

 報告会を終えた後、俺達は一階に降りて食堂へと向かい、夕食を食べる事にした。


「……あれ、いつもならこの時間だと姉さん達は戻って来てる筈だけど、今日って泊りでどこか行くとか言って無かったよな?」


「言ってなかったと思うけど……」


「うん。普通にいつも通り、依頼をして帰ってくるって言ってたよね?」


 普段、帰宅する時間に姉さん達が戻って来てない事に、俺達は夕食を食べてる途中に気が付いた。

 姉さん達は偶に泊りで依頼を受けに行く時もあるが、その時は俺に絶対に言って出かけている。

 ……嫌な予感って、もしかして姉さん達の事か!?


「クロエ達は王都の中を見回ってくれるか? 俺はギルドに行って、姉さん達が受けて依頼の場所を聞いてそっちに見てくる」


「「「了解!」」」


 俺の考えすぎなら良いが……。

 そう思いながら、俺達は直ぐに行動に移った。

 装備に着替え、冒険者ギルドへと転移して移動した俺は、直ぐに姉さん達がどの依頼を受けたのか聞いた。

 姉さん達が受けたのは、簡単な採取依頼で王都から少し離れた所ではあるが、一日掛けるような依頼では無かった。


「直ぐに向かおう」


 俺はそう言って、依頼の場所を確認して転移で向かった。

 その場所は普通の森で、強い魔物も出るような場所ではない。


「……この戦いの痕跡は何だ?」


 なのにその場所には、巨大なクレーターが出来ていたりと激しい戦いの痕跡が残っていた。

 いくら魔物が出て来たとしても、姉さん達がこんな森を破壊するような戦い方はしない。

 俺はそう考え【魔力探知】で辺りを見ると、微かに姉さん達の魔力を感じ取る事が出来た。


「ッ! 姉さん……」


 姉さん達の魔力を感じ取った場所に転移で向かうと、そこには傷だらけの姉さんと姉さんの仲間達が居た。

 傷がかなり酷く、出血も大量で全員意識を失っていた。

 俺はそんな姉さん達の姿を見て、発狂しそうになるが唇を噛み、何とか耐えて姉さん達を連れて拠点の方へと転移で移動させた。

 拠点へと姉さん達を移した後、拠点に居たレドラスに王都を見回っているクロエ達を呼んで欲しいと言って、姉さん達の治療に専念した。


「ジン、レドラスからある程度は聞いた。ヘレナさん達は大丈夫なのか?」


「出血が酷かったが。世界樹の薬を使って、何とか息も安定してる」


 レンの言葉に俺はそう返答して、深く溜息を吐き、クロエ達が来るまでに決めていた事を告げた。


「神聖国は潰す。あの国があって、良い事は何も無い」


「ジン君……」


 俺の言葉に、クロエは悲し気な表情で俺の名を呼んだ。


「潰すって、神聖国は今じゃ多数の国から嫌われてるけど、大きな国である事は変わりないぞ? どうやって潰すんだ?」


「どうもこうも無い。これまではネチネチと騒ぎを起こす程度だったが、武力で攻撃して来たんだ。だったら俺達も、やり返すだけだ」


「……ヘレナさん達を襲ったの神聖国って分かってるの?」


「姉さんやルークさん達には、もしもの事があった時の為に記録用の魔道具を持たせていたんだ」


 俺はそう言いながら、姉さん達が傷だらけになってでも守った記録用の魔道具を起動させた。

 そこには統率のとれた敵が、姉さん達を襲ってる映像が残っていた。

 フィオロは姉さん達を守りながら戦っていたが、相手にも悪魔が居て防戦一方だった。

 結果的にフィオロの魔法で逃げる事は出来たが、魔力が底をつき、俺が見つけた場所に姉さん達と一緒に気絶した状態で居た。


「この戦い方、そしてこいつらの武器は神聖国の物だ。ハンゾウが手に入れた資料と見比べたら、クロエ達も分かると思う」


「確かに、この戦い方はハンゾウさんから貰った資料通りだね……」


 クロエ達は映像を見ながら、資料に目を通してこの襲った相手が神聖国だと理解した。


「取り合えず、明日姫様の所に行ってこの件について話をして、神聖国を潰す方向で話を進める。クロエ達が人との戦いに慣れてない事も知ってるから、今回の戦いに参加できないなら明日までに言って欲しい。今回、帝国との戦い以上に人が死ぬと思うから」


「「「……」」」


 俺の言葉にクロエ達は黙り、一先ず宿には拠点で過ごすと連絡を送り、俺達は拠点で寝る事にした。

 そして翌日、クロエ達にどうするか決めたのか聞いた。


「人との戦いにまだ慣れてないけど、ヘレナさん達を襲ったのは許せない。だから、私は今回の戦いに参加するよ」


「ヘレナさん達を襲った事は許せないし、神聖国のやり方も嫌い。人との戦いに慣れてなくて、足手まといになる可能性もあるけど、ジン君の力になりたいから、私も戦いに参加したい」


「正直、俺の手で人を殺めたくはない。だけど、知り合いを襲撃されて黙ってる程、俺もよく出来た人間じゃない。それにジン一人だけに背負わせたくもないからな」


「……皆、ありがとう。既に王城には、姫様の部下を通じて連絡を入れてるから行こうか」


 皆の気持ちを聞いた俺はお礼を言って、皆と一緒に姫様の所へと転移で向かった。

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