第297話 【魔王討伐・1】


 勇者達が魔王城へと侵入して少し経った頃、俺達は魔王城の付近で監視を続けていた。


「……魔王と勇者達の戦いが始まったみたいだな」


 強大な魔力と魔力の衝突を感じ、俺は魔王城を見ながらそう言った。

 魔力の衝突はクロエ達も気づいていて、「始まったね」と一緒に魔王城を見つめた。


「姫様達大丈夫かな?」


「まあ、問題児達次第だと思うな。正直、ドラゴン族の所で訓練した勇者は勿論強くなってるし、姫様やユリウスさんも鍛えられているから負けるって事はほぼないと思う。まあ、それは本来の力を出せた時の話だけどね」


「……流石に、魔王城だし喧嘩はしないんじゃ」


「魔王城前でもしてた人達なんだろ? なら、喧嘩も理由があったらしてそうだな……」


 レンのその言葉に、俺達は言葉を無くして「シーン」となった。

 まあ、レンの言葉通り喧嘩してそうだけど、既に魔王と戦い始めたし、流石に大丈夫だろう。

 その後、俺達は魔王城付近の監視を続けていると、魔王城の中に入った筈のユリウスが外に出て来た。


「あれ、ユリウスさん? どうしたんですか?」


「……ジン君、ごめん。魔王との戦いに力を貸して欲しい」


 普段、ニコニコと笑顔を浮かべるユリウスさんは深刻な顔をして、そんな事を言った。


「……偽物に騙される程、俺達は馬鹿じゃないぞ?」


「ッ!」


 俺の言葉にユリウスさんに化けた魔物は、俺達から距離を取った。


「ど、どうして分かった!」


「いや、分かるだろ。お前から、ユリウスさん程の強者の強さを感じなかった」


「なっ! ちゃんと似せていただろ!」


「……いや、あれで似てるって言われても無理があるだろ」


 そう言いながらクロエ達に「そうだよね?」と聞くと、クロエ達は頷いていた。

 そして俺は逃走を図ろうとした魔物の背後をとり、そのまま倒す事にした。

 知り合いに似た顔を倒すのは、少し心が痛かったが魔物だから仕方ない。


「それにしても、こんな魔物が私達の所に来るって変だよね」


「……確かにな、魔力の衝突もあれから殆どないし、魔王城の中がどうなってるか気になるな」


 既に魔王討伐の為に勇者達に魔王城に入って、30分程が経過している。

 しかし、最初の魔力の衝突以降は特に魔王城から戦いの気配を感じ取れない。


「ジン達の索敵で魔王城の中の様子、確認出来ないのか?」


「やってるけど、強い結界があって確認できないんだよね……」


「クロエでそれなら、俺は尚更無理だな……気にはなるけど、流石に勇者達だし魔王に負けるなんてことは……」


 そんな事を話していると、レイが何かを見つけた様で「あれ、なんだろ?」と空を見上げながらそう言った。

 レイに言葉に俺達も空を見上げると、そこには巨大な魔法陣があった。


「……なんか、やばそうだな。壊すか」


「えっ、壊せるの?」


「うん、多分」


 ヒシヒシとヤバい感じが伝わってきた俺は、刀を取り出した。

 そして鞘に入れた状態で魔力を溜めた俺は、抜刀と同時に魔法陣に向かって斬撃を飛ばした。

 その斬撃は一直線に魔法陣へと向かっていくと、中央の何か小さな物体に直撃して、その瞬間、魔法陣は綺麗になくなった。


「なんか最後、魔法陣の中央のなんかにあたったけど、なんだったんだ?」


「えっ、そんなのあったの?」


「うん、確かに何かあったね。私も流石にこの距離だし、ちゃんと

確認出来なかったな」


「ジンとクロエの視力は異常だな……」


 魔法陣の中央に何かあったというと、クロエは同じものを見たと言い、レンにそんな風に言われた。

 そして俺とクロエは、さっきのは何だったんだろ? と考えながら、魔王城の方を見ていると、再び魔力の衝突が起きた。


「あっ、勇者達はまだ戦ってるみたいだな。もしかして、さっきの魔法陣がなにかしら勇者達を縛ってたりしてたのかな?」


「……そういや、さっきの魔法陣。ナシャリー様に付与魔法を教わってた時に、魔王が使う技の中に付与魔法に似た物があるって言われて見せてもらったのと同じだったかも知れない」


 俺の言葉にレンがそう言うと、考え込み「なんだっけ……」と記憶の中を探っていた。

 そして少し経ち、レンはさっきの魔法陣の事を思い出したようだった。

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