第288話 【世界樹・1】


 世界樹の種が人に変化したのを見届けた俺は、ナシャリーと抱き合う世界樹を見ていた。

 世界樹はそんな俺の視線に気づいたのか、ナシャリーから離れ俺に頭を下げて挨拶をした。


「はじめまして、私は世界樹のセシリアと申します」


 セシリアと名乗った世界樹に対し、俺は内心「名前あったのか」と驚いていた。

 そんな俺の考えを読み取ったのか、ナシャリーが「名前は私が付けたのよ」と教えてくれた。


「あの、さっきのナシャリーさんの話って本当なんですか? 世界樹が燃えた時に、偽物の種を用意して姿を隠したって」


「はい、本当の事です。私は自分の能力で自分を守る事が出来ません。なので、守ってもらえる方を探そうとナシャリー様にお願いをしたのです」


「……それ、ナシャリーさんに守ってもらう事って考えなかったんですか?」


「私に世界樹の育成は無理。だって、この子話好きで素材を取りに行くだけなら良いけど、一緒に暮らすのは私が嫌だったわ。マリアンナとヘレナーザも一度考えたけど、二人の性格からして無理だと判断したわ」


 そうナシャリーが本音を語ると、セシリアは悲し気な表情をした。

 他の魔女である師匠やヘレナーザも、癖のある人達だから多分無理だっただろう。


「そう言う訳でナシャリー様には、時間を稼ぐだけでもいいのでと協力をしてもらって私は自分の守護者を探す旅を始めたんです。幸い、種になっても多生の力は使えたのでそれを駆使して、色んな場所を回りました」


 セシリアは、自分の旅の事を話してくれた。

 多くの国を回り、色んな人間を見て来た。

 中には英雄と呼ばれる者達を何度か見てきたが、自分の考える器ではない為、我慢して更に旅を続けたと語った。


「そして数十年前、休む目的で比較的安全なあの国に私は行き着いて休んでいたんです。次はどこに行くべきか、そう悩んでいるとある力を感じ取ったんです。それが、ジン様でした」


「俺ですか?」


「はい、ジン様の力はジン様が生まれた時から私は感じ取ってました。この方は物凄い才能の方だと、それから私は暫くジン様を様子しようとこの国の宝物庫からジン様の成長を見守ってきました」


 そのセシリアの言葉に対し、俺はまさか自分の事を見られていたなんて知らず驚いていた。


「そうして見守り続けた私はジン様が守護者として適任だと感じ、ジン様の所に種が行くように仕込んだんです」


「……だからですか、世界に3つしかない世界樹の種を何で俺に来たのかずっと考えてましたけど、そう言う理由だったんですか」


「はい、ジン様には悩ませる結果になってしまいましたが、どうしてもジン様とお会いしなければと思い、少しだけ無理を通してしまいました」


 そこに関してはすみませんでしたと、セシリアは頭を下げて謝罪をした。

 しかし、まさか俺が世界樹の守護者か……。


「あれ、でも世界樹って基本的に寿命が無いですよね? そんな世界樹の守護者の俺って、寿命とかどうなるんですか?」


「……不老に近い状態になります。で、ですが守護者になると沢山いい事があります! まず、世界樹である私の素材を好きに使えます! それに力も今よりも増え、回復力も上がります!」


「う~ん、でも不老に近いって事は今の仲間達や姉さん達と別れる事になりますよね……それは、ちょっと嫌だな」


「あわわ、どうしまょうナシャリー様! 人は不老になれば、喜ぶと昔言ってたじゃないですか!」


 俺の言葉にセシリアは慌てた様子でナシャリーに泣きついた。


「私達、魔女や世界樹は元から寿命という常識に囚われてない存在だから、そこまで気にしてないけど、ジンは人間だから不老に慣れる事がうれしいとは限らないわよね」


「はい、正直不老不死に一度は憧れた事もありますが、ふと考えたら寂しいという事に気づきましたから、あまりなりたいとは」


 前世で一度、不老不死について考えたことがあった。

 最初こそ、不老なんていいじゃんと思ったが、よくよく考えたら自分だけがずっと生き続けるって寂しいなと感じた。

 知り合いや友人と別れ、ただ一人生き抜くのは俺には耐えれそうにない。


「弟子ちゃんの考えがそうなら、セシリアちゃんは諦めるしかないわね」


「あわわ、折角見つけた守護者様なのに……」


 師匠の言葉に更に焦るセシリアは、涙を流してナシャリーに泣きついた。

 そんなセシリアの姿に、セシリア以外は溜息を吐き、どうするべきか考える事にした。

 世界樹の目的は〝安全な生活〟であるならば、守護者を作らなくとも強い者達に守られる場所で生きる事はどうかと提案した。


「で、ですがそんな場所そんな簡単には見つかりはしないですよ。私、この数百年の間、色んな所を旅してそんな場所はないと確信しましたもん」


「竜人国とかも行ったんですか?」


「はい、ですが竜人国の土地と私では相性が悪かったんです……」


 竜人国を提案すると、セシリアは相性が悪く竜人国の土地では生活が厳しいと言った。

 ならば、この空島は? と提案すると、地上に生えてこそ世界樹だからと、空島も却下された。


「セシリア、あなた文句が多いわね……」


「し、仕方ないじゃないですか。世界樹にも色々と制限があるんです! それにちゃんと成長しないと、ナシャリー様にもう二度と素材は渡せなくなりますよ!」


「……それは困るわね」


 ナシャリーはセシリアの言葉を聞き、これまで積極的ではなかったが初めて積極的に話し合いに参加をした。

 その光景を見たセシリアは、ナシャリーに対して「ナシャリー様……」と何故か感動していた。

 少ししかまだセシリアと接してないが、セシリアはかなりの天然な性格だなと感じた。

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