第287話 【宴・3】


 翌日、目が覚めた俺は朝食を食べた後に空島の方へと行き、師匠に世界樹の種について話を聞きに行った。


「久しぶりに見たわ。世界樹の種、まだこの状態で残ってる種があったのね」


「やっぱり、師匠は世界樹についても知ってるんですね」


「まあ、沢山色んな事を見て来たからね~。でも、世界樹の種を見たのは数百年振りよ。最後に見たのは、獣人国が世界樹を移送する時にちょっと手伝ったくらいね」


 流石、師匠だな俺が予想していた以上の返答だ。


「それで、弟子ちゃんはこの種をどうやって手に入れたの?」


「はい、最後の一つを持ってたデュルド国から国を救ったお礼としてもらいました。正直、貰ったところで育て方も知らないからどうしようと悩んで、師匠に助言を貰いに来たんです」


「成程、そうだったのね……でも、ごめんなさい。流石の私でも、世界樹の育て方は知らないわ。多分、そっちの分野ならナシャリーの方が詳しいと思うから、ナシャリーに聞いてみましょう」


 師匠はそう言うと、立ち上がると部屋の奥へと行き、ナシャリーの部屋に向かった。

 そして少しして、眠そうなナシャリーを連れて戻ってきた。


「もう。なに? 気持ちよく寝てたのに……」


「ナシャリーさん、すみません。ちょっと、お聞きしたいことがあって呼んでもらったんです」


 俺はそう言いながら、【異空間ボックス】から世界樹の種を取り出した。

 すると、その種を見たナシャリーは驚いた顔をして「世界樹の種ね」と呟いた。


「ジン、どうしたのこれ?」


 ナシャリーにそう聞かれた俺は、師匠に話した事と同じ事を伝えた。

 話を聞きながらナシャリーは、世界樹の種の周りをグルッと回って種の様子を見ると何かに気づいた様子で立ち止まった。


「ねえ、ジンは世界樹が焼けた後に世界樹が3つの種になったのは知ってる?」


「はい」


「3つの種に分かれた理由、それは世界樹が自身を守る為に自身を守れる器の所まで隠れる為に3つの種に分裂したの」


「そ、そうだったんですね……って、ナシャリーさんは何でそんな事を知ってるんですか?」


 師匠ですら知らない情報を話すナシャリーに、俺は疑問を感じながらそう質問した。 

 すると、ナシャリーは「だって、そうしたの私だもの」と衝撃の発言をした。


「世界樹が焼けた後、本当は一つの種だったのよ。世界樹は時間さえあれば復活は出来るけど、痛いのは変わりないからって自分を守れる器を探す為に時間を作ってほしいと頼まれて、それなら世界を惑わす為に偽物の世界樹の種を作ったらどうかしらって提案したのよ」


「そ、そんな事があったんですね……」


「世界樹に人格があるとは知ってたけど、まさか世界樹と貴女が知り合いだったとは知らなかったわ。引きこもりの貴女がよく、世界樹と知り合いだったわね」


 師匠がそう言うと、ナシャリーは「世界樹の材料欲しさに、昔よく会ってたのよ」と言葉を返した。


「それで世界樹は私の提案にのって偽物の種を作り、本体は自分を守れる器探しの為に世界を回る事にしたのよ。流石の私でも、本来の世界樹と同じ物は作れないから本体を逆に偽物に近づける様にして、本体を隠す事にしたのよ」


「そんな事をしていたのね。知らなかったわ……でも待って、世界を回るって種なのにどうやって回るのよ?」


「精神系の力で自分の守れる器が居なかったら、他の所に移動するって本人は言っていたわね。まあ、世界樹の力なんて私達同様に計り知れないから特に聞かなかったわ」


 ナシャリーがそう言うと、これまだ全く反応が無かった世界樹の種が動き、周囲から魔力を吸収し始めた。

 膨大な魔力の吸収が始まり、何かが起こるのか? と慌てているとナシャリーは「やっと、起きるようね」と、落ち着いてそう言った。


「起きる? えっ、まさか世界樹がここに出来るんですか?」


「大丈夫。この子も流石にそこまで迷惑な事はしないわ。見てたら、分かるわよ」


 その言葉通り、光り輝いていた世界樹の種は木になる事は無く、徐々に人の形へと変わっていった。

 そして世界樹の種があった場所に、緑髪をした美しい女性が現れた。

 種から人が出てくるとは思わなかった俺は、驚いたが更に驚いたのはその女性が何も着ていなかった事だ。

 俺は慌てて後ろを向くと、その女性に師匠が「これ着て頂戴ね」と言って服を渡してくれた。


「昔と変わらないわね。そのおっちょこちょいな部分は、久しぶりね」


「えへへ、その寝起きで忘れてました……お久しぶりです。ナシャリー様、そしてありがとうございます」


「いいのよ。こうして、また会えて嬉しいわ」


 ナシャリーと世界樹の種から現れた女性は、お互いに懐かしみあうと抱き合った。

 普段、無表情のナシャリーもこの時ばかりは笑みを浮かべていた。

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