第279話 【黒色の悪魔・1】


 帝国軍と戦った場所に戻ると、沢山あった死体が綺麗になくなっていた。

 それも魔物の死体はそのままで、人間の死体だけが綺麗になくなっていた。


「……遅かったか」


 禍々しい魔力を感じた俺はそう呟き、その魔力を発する方へと視線を向けた。

 そこには全身が黒に統一された悪魔が、俺の事を待っていたかのように佇んでいた。


「待っていたぞ、ジン」


「俺は待ってなかったけどな……お前黒色の悪魔ベルロスか?」


「お~、俺様の名前を知ってるのか。どっちから聞いたんだ? フィオロか、それともレドラスか?」


 纏っている衣服と同じ黒の名を持つ悪魔、こいつは悪魔界最上位種の中でも最も強い個体としてゲームに登場していた。

 フィオロがジンの闇落ちの原因だとすると、こいつはジンが最悪のキャラになった原因だ。

 こいつの持つ能力は人を殺す事に特化していて、ジンはそれを使い多くの人間を殺した。


「お前は帝国の者達に呼び出されたのか?」


「んっ? そうだぞ、まあ召喚者は殺しちまったから今は誰の指図も受けてないけどな」


 ちっ、この悪魔の中でも厄介な奴が野放しって事かよ。

 悪魔は召喚されると、召喚者との間に契約を結び現世に留まる。

 しかし、こいつは自ら召喚者を殺して自由に行動できる権利を手に入れた。

 自由にできるのは長くても一日だが、こいつが一日現世に居るだけでもそれだけでかなりの被害になるだろう。

 それにこいつを呼び出す際に使われた人間の数が多すぎて、本来のこいつの力よりも強化された状態で召喚されている。


「おっ、もうやるのか?」


「お前も一刻も早く悪魔世界に追い返したいからな、さっさと帰ってもらうぞ」


「ハハッ、俺はお前と戦えたらそれでいいからな! 久しぶりの強者だ。楽しませてくれよ!」


 ベルロスはそう言うと、魔力を開放させ俺に突っ込んできた。

 ベルロスの能力は様々で剣技も扱え、魔法も得意と設定資料に書かれていた。

 更にそこにこいつは死霊術の能力も持っていて、、それを使われたら俺もかなりヤバい。


「さっさと終わらすッ」


 時間をかけたら不利になるのはこっちだと分かっている俺は、突っ込んできたベルロスに刀で受け止め攻撃を仕掛けた。

 俺からの反撃に一瞬だけ驚いたベルロスだが、直ぐに対応してきて笑みを浮かべながら戦いを続けた。

 師匠達との修行をしていてよかった……もししてなかったら、俺はベルロスに攻撃を与えることはできなかっただろう。


「……魔界から見てた時はハッキリと確認できなかったが、それがジンの強さか。面白い!」


 ベルロスはそう叫ぶと、更に速度を上げて攻撃を仕掛けてきた。

 こいつの能力も知っているし、どういう奴なのかも知っている。

 だから俺はあえてこいつが戦いに夢中になるように仕掛け、こいつが戦いに夢中になって隙をつこうと考えていた。


「おい、それは無いだろ? こっちは真剣に戦ってんだからよ。お前も真剣にやれ」


「——」


 ベルロスは急に立ち止まりそう言うと、俺の体は押さえつけられるような圧力を感じ取った。

 本来よりも生贄の数が多く、設定資料に書かれていた時以上の力を持っていると分かってたが、俺の作戦に気づく程に力がついていたのか。


「これは、もう当たって砕けるしかなさそうだな……」


 色々と策を練っていた俺だが、どれも通用しないと今の発言で気づき、俺の持つすべての力を使い。

 悪魔の中でも、最強クラスのベルロスを仕留めるしか方法は無さそうだ。

 はぁ、こうなるなら師匠には近くに見てもらっていて、あの技を使わせてもらえばよかったな……。


「後悔してももう遅いからな、それに王都に師匠が居た方が安心だ」


 師匠が王都を守ってくれてるのさえ奇跡に近いからな、俺はこうしていれば良かったという考えを振り払い、目の前のベルロスを見つめた。

 俺が今まで戦ってきて相手の中で、師匠、竜王に次ぐ3番目の強者。

 それも今回はガチの殺し合い、どちらか死ぬまで終わらない戦い。


「ふ~……ッし、ベルロス。覚悟しろ、今から本気で行くぞ」


「いつでも来い。俺はいつでもいいぞ!」


 ニヤリと笑みを浮かべるベルロスは、俺の言葉にそう言葉を返して俺達の激しい戦いは始まった。

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