第268話 【貴族令嬢との模擬戦闘・2】


 それから数日後、ティアナ達との話し合いの日程は直ぐに決まって今日会う事になっている。


「ティアナさん達と会うの久しぶりだね。クロエちゃん、またティアナさんと魔法の勝負するの?」


「う~ん、どうだろう。話では【空間魔法】も扱えるようになって、更に魔法の腕を上げてるって聞いたから心配だね」


 レイの質問に対して、クロエは少し自信なさそうにそう言った。

 クロエが自信を無くすのは、何となくだが分かる。

 ティアナの魔法の腕は、学生時代から更に力を上げている。


「彼女の成長は本当に凄いからな、魔法の腕だけで言えば間違いなくこの世代で一番の使い手だろうな。一度だけ、師匠もティアナさんの事を見たらしいんだけど、師匠も褒めていた位だからね」


 師匠が褒めた。

 その事実だけで、魔法使いとして実力者という事が分かる。

 それから俺達は今回ティアナ達と会う店へと到着して、中に入り予約していた部屋に案内してもらった。

 ここは前世で言うと高級料亭みたいな所で、多数の貴族が話し合いに使ったりもする程、防音と食事の味がいいと有名な店だ。

 市民からしたら高くて行けない様な場所だから、貴族専用みたいな感じてはあるが、金さえ払えれば一般人でも食べには来れる。


「あれ、俺達が最後だったんですか。すみません」


「いいのよ。私達が少し早く着いただけだから」


 部屋について扉を開けると、既に姫様達が待っていた。

 俺は直ぐに謝ると、姫様はそう言葉を返して俺達は部屋の中に入った。


「久しぶり~、最後に会ってから半年振りだね~」


「お久しぶりです。ジンさん達の活躍、よく姫から聞いてます」


「お久しぶりです。ミリアーナさん、ティアナさん」


 前回会ったのは、約半年ほど前で王都に戻ってきたタイミングで会っている。

 その時は、主に旅をしていた間に起こった出来事をメインに二人と話をした。


「ねぇねぇ、ジン君。四天王を倒したって聞いたけど、どんな風に倒したの? 勇者も負けた相手に勝ったんだよね?」


 ミリアーナは俺が四天王と戦った時の事が気になっていたのか、興奮気味にそう聞いて来た。

 数ヵ月だけ共に学園で生活したミリアーナだが、あの頃からあまり変わって居らず元気娘で若干レイと似ている。


「もう四天王ぼっこぼこにしてたよ!」


「わ~、私も見たかったな~」


 似ているレイと相性がいいのか、初めて会った時から昔馴染みの友人の様に二人は接している。

 まあ、貴族と平民で壁が出来るよりかマシだけど、まさかあそこまで仲良くなるとは思わなかった。


「クロエさん、魔法使いとしてかなり成長したと聞いてます。今度、時間がある時で構わないので手合わせをお願いできませんか?」


「えっ、私がですか? はい! 勿論です。私もティアナさんと久しぶりに手合わせしたいと思っていたんです」


「ふふっ、それは私も嬉しいです。ジンさんもどうですか?」


「そうですね。世代一の魔法使いの腕前を改めて確認したいのでお願いしたいです。日程は、後で話し合いましょうか」


 ティアナからの申し出に俺とクロエが受けると、ティアナは「楽しみです」微笑みながら言った。

 学生時代からミリアーナとは違い、落ち着いた女性として育ったティアナは〝世代一の魔法使い〟とは別に美しい女性としても有名だ。


「ティアナってズルいよね。いつも大人しいから、私とは違って落ち着いたイメージが付いてるけど実際は私よりも戦いが好きなのに……」


「日頃の行いよ。ミリアーナはもう少し落ち着いた方が良いって、私でも思うわよ」


「フィーちゃんに言われるのだけは嫌。外に出られるようになってから、直ぐに事件起こしてたでしょ」


「あ、あれは仕方ないでしょ。加減が分からなかったんだから……」


 ミリアーナの言った姫の事件とは、姫様が聖女に選ばれ外に出られるようになった頃の話だ。

 当時、今まで王都から外に出られない生活を強いられていた姫様だったが、聖女として魔王討伐に向けて戦いの勉強を始める事になった。

 手始めに王都から出て弱い魔物相手に戦いに慣れて行こうと、ユリウス達は計画していた。

 だがしかし、外に出られた喜びで姫様は今までの鬱憤を晴らすかのように暴れた。

 それはもう激しく、近くの生態系が危うく変わるまで姫様は暴れた。

 当時の事を姫様は「外に出られた嬉しさから、少しだけ我を忘れたのよ……」と黒歴史と思っている。


「まあ、姫様の事はいいとして、ねえジン君。私とも戦ってくれる? 前から少しだけ魔法の腕上がったと思うのよ」


「構いませんよ。でしたら、ティアナさんとの手合わせの日に一緒にやりましょうか。その方が楽しいと思いますし」


「良いね! フィーちゃんはどうする? 参加する?」


「参加するに決まってるでしょ? そんな楽しそうな事、私が見逃す筈がないでしょ」


 姫様はそう言うと、後で話そうと思っていた日程の話し合いを進めた。

 そうして話し合いの結果、丁度明日それぞれ予定が無い事が分かり、王城に集まる事が決まった。

 ちなみにレンは、別に戦いに興味ないからその日は研究に時間を使うと言って一人だけ参加はしない事になった。

 その後、本題の半年間の出来事をティアナとミリアーナから聞かれ、俺達が答えると言った時間を過ごした。

 そうして解散間際、明日も集まるのに最後までミリアーナは駄々をこねていて、明日も集まるんだからと姫様に怒られていた。

 翌日、予定時間よりも少し早めに王城にやってくると姫様から「ジン君、ごめんなさい」と部屋に入って直ぐに謝罪をされた。


「えっ、どうしたんですか? 何かあったんですか?」


「……実は、今この城に勇者と戦女の子が全員揃ってるのよ。なるべく、ジンと会わない様に予定を合わせたんだけど、昨日話し合いが楽しくてこの事を忘れてたの」


 謝罪の内容を聞いた俺は、何か大事が起きた訳ではないみたいで安心して、謝る姫様に「大丈夫ですよ」と声を掛けた。


「なるべく会いたくないだけでのすで、姫様がそんな謝る事は無いですよ」


「うう、ごめんね。次は無いように気を付けわ……でも、どうしようかしら今日は止めておく?」


「どうするジン君? ティアナさん達との手合わせ、また別の日にする?」


「ティアナさん達なら、話せば分かってくれると思うし別の日に変える?」


 姫様の言葉にクロエとレイもそう言って来たが、俺は「いや、変えなくていいですよ」と言った。


「勇者と会いたくないのは俺だけの問題ですから、その為だけに皆の時間を変えるのは勿体無いです。それに既に勇者や、戦女の何人かとは既に面識もありますから、そこまでして避けなくても大丈夫ですよ」


「分かったわ。取り敢えず、城の従者に勇者達とジンを極力会わせないようにするように手配しておくわね」


「ありがとうございます」


 姫様はそれから直ぐに外に居る従者を呼び出し、俺と勇者達が接触しないようにと伝達をしてくれた。

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