第267話 【貴族令嬢との模擬戦闘・1】


 エミリアとの出会いから数日後、俺達は姫様に呼ばれて城へとやって来ていた。

 今回、呼び出された理由は帝国の動きについての経過報告と、情報交換が目的と聞いていた。


「ハンゾウの情報は正確だったって事ですね」


「ええ、お父様達も知らずに居たら大変にな事になっていたって言って、ジンに物凄く感謝していたわ」


 そう姫様は言うと、取り敢えず今回の情報提供のお礼として金貨を頂いた。

 その後、ゴブリン商人から貰った情報も姫様に渡し、姫様からは今の帝国の戦力や今後の動きについて話し合いをした。


「それと一つだけ重要な事実が明らかになったわ……帝国と一緒に魔王軍に手を貸してる国だけど、一部は確かに帝国からの圧力で協力してたけど、いくつかの国は自分達の国の利益の為に協力していたわ」


「……まあ、居るとは思ってましたけど本当に居たんですね。同じ種族としては、悲しい事実ですね」


 ゲームではイロス帝国だけが魔王軍と協力しているとなっていたが、この世界では多くの国が魔王軍と協力している。

 それの何がヤバいのかと言うと、魔王軍が何処に隠れているのかこちら側では特定が難しくなるという事だ。

 魔王自体は魔王城から離れる事は無いが、その他の魔王軍がいつどこから襲ってくるのか現状ではこちら側は分からなくなっている。


「それで、帝国やその他の動きについては今後も監視を続ける事になったわ。いつ牙を向けられるか分からないからね」


 そう姫様は言うと、俺達にもいつでも戦えるように準備だけはしておいて欲しいと言って来た。


「そう言えば、勇者達はどうですか?」


「そうね。離れていた期間が少しあったからなのか、少しだけ連携にミスがあったけど最近は以前に増してお互いを信頼して連携力も上がっているわ。城での訓練も終えて、今は近くのダンジョンで最終確認をしている所よ。それが終わり次第、軍と共に魔王軍と戦う予定ね」


「もうそこまで来ていたんですね。前に聞いた時は、勇者さんと戦女さん達の間に少しだけ溝が出来ているって聞いて、心配してました」


 クロエがそう言うと、姫様は「仲を取り持つの本当に苦労したわ……」と疲労感たっぷりの顔でそう言った。


「男女の仲を何で姫の私がするんだろうと思いつつ、私しか言える立場に居ないから仕方なく仲を取り持っていたけど、ほんっとうに嫌な時間だったわ……」


「姫様がそこまで言うって事は、相当酷かったんですね……」


「恋愛事は俺には分からんが、そんな酷いのか?」


 姫様の言葉に同情するクロエとは正反対に、レンはどう大変だったのかイマイチ分かっていない様子だった。


「レン。今は、お前は恋とは物凄く遠い所にいるけど魔王軍との戦いが終われば、必ず女性が寄って来るだろう。その時に、姫様の苦労が身に染みて分かると思うぞ」


「双子の私が言うのもあれだけど、レン君って顔も良いし、お金も持ってるから沢山人が来ると思うよ。その時のレン君の慌てる顔、楽しみだね」


 そう俺とレイが言うと、レンは「そんなに酷いのか?」と少し不安そうな顔をしていった。


「はぁ、本当に魔王軍との戦いが終わったら一年位はゆっくりと過ごしたいわね……多分、無理だと思うけど」


「そうですね。予想される所で言うと、聖女として活躍した姫様の元には沢山の人から婚姻してほしいみたいな手紙が来るでしょうね」


「あれ、返答するのも面倒だってティアナ達が言ってたのよね……ああ、そう言えば忘れてたわ。ティアナがまた今度、時間がある時でいいからジン達に久しぶりに会いたいって言ってたわよ」


 ティアナとミリアーナ、彼女達とは姫様が学園を卒業した後、俺とクロエは変装していた事を打ち明けている。

 打ち明けた理由の一つとして、姫様の数少ない友人という事で隠していても仕方がないと思った俺はクロエに話してもいいか許可を取り二人に教えた。

 始めは驚いていたが、ティアナは俺達の噂を知っていたらしく、色々と納得していた。


「ティアナさんがですか? まあ、今なら時間は作ろうと思えば作れるので向こうの予定が空いてる日に合わせますよ」


「ええ、分かったわ。ティアナ達に直ぐに連絡して、日付が決まったらジン達の所に知らせに行くわね」


「はい、お願いします」


 その後、今日の話し合いは終わり、また新しい情報を手に入ったら教えてと姫様に言われて俺達は転移で宿へと帰宅した。

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