第212話 【隠れ里のエルフ・3】


 戦いの音がする方へと進んで行った俺達は、奥の方で数人のエルフが水を纏ってる魔王軍と戦ってる姿が目に入った。


「ハンゾウとキールさんはエルフ族のサポートに回って、レンは俺に付与魔法を掛けた後はエルフ達の介護に行ってくれ」


 そう指示を出すと、レンは俺に【付与魔法】を掛け、ハンゾウは文句を言う事無くキールとレンと共にエルフの方へと向かって行った。

 三人の姿を見届けた俺は、一度立ち止まり深呼吸をした。

 四天王の中で二番目に強い〝水〟の四天王。

 得意な属性は水属性の魔法で、範囲攻撃を得意とする。

 聖剣勇者と七人の戦女の数少ない、負けイベントの一つだ。


「だけど既に負けイベントは消化済みだし、勇者にしか倒せない魔王とは違い。四天王は仲間だけでも倒せるのは、ゲームで試した事がある。倒せない相手ではない筈だ……」


 まあ、万が一四天王が倒せない相手だったら、ドラゴン族の場所に一度転移して勇者を引っ張ってくれば倒す事は可能だ。

 そう俺は考え、エルフ族と四天王の間に入り、刀を四天王に向けた。


「あら、こんな所に人間だなんて珍しいわね? 前に倒した勇者ちゃんじゃないみたいだけど、貴方は誰かしら?」


 水の四天王ミザリニスは、俺を見ると首を傾げながらそう言った。


「勇者に変わって俺が討伐してやるよ」


「ふふっ、生意気な事を言う子ね!」


 ミザリニスは俺の言葉に対して、得意技である超巨大な水の球を放ってきた。

 俺はその水の球を刀で切り裂いて、そのままミザリニスの懐へと突っ込んだ。


「なっ!? あたしの魔法を切った!?」


 魔法を切られた事に動揺したミザリニスだが、近づいて来た俺に気が付くと一瞬にして後ろへと下がった。

 そんなミザリニスに対して俺は普段の魔物だったら、多少余裕を見せながら戦うが相手は一度は勇者を倒した相手。

 余裕など見せず、一気に押し切ろうと魔法を使いながら攻め続けた。


「くっ、普通こんな痛めつけた相手に対して余裕出すでしょ! 何なのよあんた!」


「……勇者を一度倒した相手に余裕を見せる馬鹿は居ないだろ? 大人しく、この世から消えろ」


 相手に魔力を削りながら戦っていた俺は、次の攻撃で仕留める為に魔力を溜め始めた。

 ミザリニスはその攻撃の危険と勘付き、逃走を図ろうとした。

 しかし、そこで様子をうかがっていたレンの魔法で逃げるのが遅れてしまった。

 俺の攻撃が直撃したミザリニスは最後まで「いやだ! いやだ! 死にたくない!」と叫んでいたが、ミザリニスの全てをこの世から消滅させた。


「……ふぅ」


 正直、悪魔も倒せるほどに力を付けた俺だったら倒せると分かっていたが、俺が全力を出してしまうと修復が不可能レベルに森を破壊してしまいそうだと思った。

 その為、何とかミザリニスに効果があるが、森にはあまり被害が及ばない様に戦っていたが、ふと周りを見るとかなりの惨状だった。

 許可を貰ってるとは言え、こんなに森を駄目にしてしまった事には申し訳ないな……。


「ジン、大丈夫か?」


「ああ、大丈夫だ。何処も怪我はしてない、エルフ族の方達はどうだ?」


「そっちも大丈夫。秘薬を持ってたみたいで、ジンが戦い始めてから薬を飲んで休んでたから」


 そうレンが言うと、キールと共にエルフ族が寄って来た。

 その中の一人、明らかに一人だけ身分が高そうな雰囲気を纏ってる老エルフが俺に対して頭を下げた。


「儂の名はギルゼル。隠れ里のエルフの族長をしておる。此度は、我らの里を救っていただき感謝します」


「ありがとうございます」


 ギルゼルと名乗ったエルフの感謝の言葉に続いて、残りエルフ達もそう感謝の言葉を口にした。

 その後、俺はギルゼル達と共にクロエ達の所に戻ると、そちらも戦闘が終わっていてエルフ達が既に森の修復を殆ど終わらせていた。

 リウスのブレスでほぼ破壊されてたのに、この速度で修復してるってマジで隠れ里のエルフ族は凄いな……。


「ジン君、レン君。大丈夫だった?」


「怪我とかしてない?」


「きゅ~!」


 クロエ、レイ、リウスは俺達が戻ってくると走って俺達の所に寄って来て、そう俺とレンの体を怪我をしてないかチェックした。

 クロエ達に俺は「大丈夫だから、落ち着いて」と言い、レンも溜息を吐きつつ捲れた服を戻していた。

 それから俺達はエルフ族から改めてお礼を言いたいと言われ、隠れ里のエルフ族達が住む真の里へと案内された。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る