第168話 【孵化・3】


「あ~、楽しかった!」


 あの後、体が大きくなった【無魂獣】を見た俺はその背中に乗り空の旅を一時間程した。

 道中、空島に住むドラゴンと会って、最初は知らないドラゴンが飛んでると警戒されたが背中に乗る俺を見てその警戒を解いてくれた。

 そしてそのドラゴン達から話を聞いたのか、スカイが師匠の家がある空島へとやって来た。


「というと、マリアンナが渡した卵からそのドラゴンの見た目をしてる子が生まれたの?」


「はい。俺もまさかドラゴンに似た【無魂獣】が生まれるとは思って無くて、朝見た時驚きました」


 そう言うとスカイは「それは驚くだろうね」と言いながら、【無魂獣】をジッと見つめるとニコリを笑みを浮かべた。


「生まれたばかりだけど、この子の力は大分強い方だね。流石、ジンの【無魂獣】だね」


「そうなんですよね。ステータスもレベル1なのに俺と同じですし……スカイさんは【無魂獣】について何か知ってたりしますか? その師匠からそんなに詳しく聞いてないんですよね」


「う~ん、そこまで詳しくないけど卵に魔力を与えていた者の力を具現化した獣が生まれるってマリアンナは言ってたよ。マリアンナの犬も普段は、可愛い見た目してるけど別の形に変身するから、あの変身した姿をみたらジンは驚くと思うよ」


 魔力を渡した者の力を具現化した獣が生まれるか、って事は俺の魔力で孵ったこの【無魂獣】の姿から察するに俺の力はドラゴンという事になるのか?

 そう俺が頭を悩ませていると、スカイから「まあ、説明が間違ってるかも知れないから、マリアンナが帰ってきたらまた聞くと良いよ」と言われた。

 そんなスカイは【無魂獣】のドラゴンを撫でながら、名前は何か聞かれた。


「まだ名前決めてないんですよね。突然、現れて先に力を確認しに空島に来ちゃったんです」


「そうだったんだ。じゃあ、今から名付けをするんだね。どんな名前にするの?」


「そうですね……リウス。この子の名前は、リウスにします」


 直感的にそう名前を決めると、スカイは「いい名前だね」と褒め、リウスと名付けられた【無魂獣】は嬉しそうに鳴いた。

 その後、スカイはリウスに空の飛び方を教えて来ると言って、リウスを連れて空へと飛んで行き、俺はスカイ達を見送り一旦宿に戻る事にした。


「空島からかなり離れてるここまでリウスの魔力を感じるな、これが従魔を持つという感覚か……」


 さっきチラッと確認したステータスのスキル欄の一番最後に、ちゃんと【使役】というスキルが追加されていた。

 このスキルは以前から少し欲しいと思っていたスキルの一つだから、こんな形で手に入れられるとは思ってなかった。

 【使役】があれば普通の魔物も従えさせ、魔物を戦力として扱えるようになる。

 

「おはようジン。……なんか嬉しそうだけど、何か良い事でもあったのか?」


 朝食を食べに下に向かうと、先に起きて待っていたレンから挨拶と同時にそう言われた。


「そんなに顔に出てたか?」


「まあ、普段よりなんかウキウキしたような感じだったな」


「そうか、まあそうだな良い事は起きたよ。遂に【無魂獣】が孵化して、中から獣が生まれたんだ」


 そう俺は言って、今朝の出来事をレンに話した。

 そして俺の【無魂獣】がドラゴンの姿をした生物というと、レンは「驚く事はもうないと思ってたけど、予想の斜め上の報告だよ……」と呆れた感じにそう言った。

 その後、少し遅れた起きて来たクロエ達にも朝の出来事を伝え、リウスの事を聞いたクロエ達は「その子に会ってみたい!」と興奮気味に言った。

 元々、皆には会わせるつもりだった俺はクロエ達のお願いに対して「勿論、良いよ」と返事をして朝食を食べた後、皆を連れて空島へと移動して来た。


「丁度、戻って来たみたいだね」


 空島に移動してくると、丁度遠くの方からスカイとリウスがこちらに向かってくる姿が目に入った。

 リウスは俺の姿が目に入ると、一直線に俺の方へと飛んできた。


「きゅ~」


「よしよし、随分と楽しんだみたいだな。ほら、リウス。皆に挨拶をしなさい」


 スカイとの空の旅が楽しかったのを感じた俺は、頭を撫でながらそう言ってクロエ達に顔を向けさせた。

 そしてリウスは、クロエ達の顔を確認すると「きゅ!」と皆に挨拶をした。

 その仕草が可愛かったのか、クロエとレイは「可愛い!」と叫び、レンもリウスに興味がわいたような顔をしていた。

 その後、リウスを皆が仲良くさせる為、今日は訓練をお休みにして遊ぶことにした。

 念の為、遊びに参加するかフィオロに聞いたが「今は止めておくわ」と断られ、一人だけ訓練をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る