第155話 【最強種とのおいかけっこ・2】


 修行開始と共に、俺は全力で転移でその場から離れた。

 30秒間の猶予の間に出来るだけ遠く、かつ魔力の痕跡を極力残さないように移動した。


「ジン、バレバレだよ!」


「ッ!」


 開始と共に俺の真上に現れたスカイ。

 巨大な手を振り下ろされた俺は瞬時に転移を使い、その場から離れた。

 だが転移した先に既にスカイが居て、俺はアッサリと捕まった。


「弟子ちゃん、そんな分かりやすい魔力の痕跡の消し方じゃ、ドラゴンのスカイから逃げるのは一生無理よ~、もっと分かりにくく消さないと」


 捕まった後、直ぐに俺は師匠からそう言われた。


「分かりにくくって、かなり分かりにくく消してるつもりなんですけど……」


「う~ん、そうね。確かに弟子ちゃんの魔力の消し方、人間相手とかだと確かに分かりにくいけど、ドラゴンや高位の存在相手だと逆に不自然な違和感が残ってる状態なのよ。分かりやすく説明すると、汚れたテーブルの上に新しく汚してしまいその部分だけ綺麗にする感じって言ったら分かるかしら? 消すにしても、分かりにくく消さないといけないのよ」


 ふむ……師匠の言ってる言葉、何となくだけど理解出来た。

 痕跡を消すにしても、空気中にある魔力も今は俺は消している。

 だけど本来そこに魔力はある筈なのに、俺が消してしまってるから魔力の扱いが上手い人からすると逆に違和感を感じられてしまうのだろう。


「師匠、説明上手いですね。今の言葉で自分のやってた事の間違いに気付きましたよ」


「えへへ、これでも師匠になる為に色々と勉強したのよ」


 師匠は俺から褒められると、嬉しそうな顔をしてそう言った。

 それからもう一度、スカイとの鬼ごっこをする事にした。


「今度は一分くらいは逃げられると良いね」


「ああ、頑張るよ」


 二戦目、俺は最初の転移から早速教え通りに魔力の消しすぎないように転移を行った。

 だがその消し方に集中するあまり、距離が全然稼げなくてアッサリとスカイに掴まった。

 続けて三戦目、今度は少し無理をしつつ距離を稼いで魔力の消し方にも気を付けていたのだが、やはりスカイの速度が異常な為、1分逃げる事すら出来ない。


「転移の技術は確かに劣ってるのは師匠も気付いてる筈だ。それでも、スカイさんとのおいかけっこを提案をしたという事は俺が何か気づいていない点がある筈だ……」


 無茶な提案をさせられてる可能性もあるが、こんな序盤でそんな事は無いだろうし師匠も無理難題を押し付けてる訳ではないと思う。 

 だとすれば、俺自身が【空間魔法】で気付けてない点が何かある筈だ。

 師匠はどんな風に使っていた? 本にはどんな事が書かれていた?

 俺はそんな事を考えながら、おいかけっこを行った。


「ジン、大丈夫?」


「大丈夫です。ちょっと、休憩したらすぐにやりましょう」


 修行開始から約四時間が経過して、既に百戦以上おいかけっこを行った。

 だが俺は一度たりとも一分以上、スカイから逃げ切る事は出来ていない。

 ただ全く成長して無い訳でもない、考えながら転移を使っていたからか、距離は少し伸びて【空間魔法】のスキルレベルも4に上がっていた。


「成長はしてる筈だ。だけど、何が足りないんだ……」


「……ジン。マリアンナの転移の技術はこの世界で一番だと思うから、参考にしたらどうかな? ジンなら、少し位はマリアンナの転移技術を見て何か感じた事とかない?」


「師匠の転移を見て、感じた事?」


 悩む俺にみかねたスカイからの言葉に、俺は頭の中で師匠の転移を思いだした。

 師匠の転移を見たのは、まだ数回だが、その中でも特に印象に残ってるのが初めて師匠とあった宿の部屋。

 あの時、数m離れていた師匠は一瞬にして俺の近くに現れていた。

 魔法を使った痕跡も殆ど感じられず、感覚的には一歩歩いただけの様に見えた。


「……歩く?」


 その言葉に俺はピンッと来て、立ち上がりスカイに「もう一戦お願いします」と頭を下げ、直ぐに実戦に使おうと考えた。

 開始の合図と共に、これまでは勢いよく遠くを見てその場に〝一瞬〟で向かおうと考えていた。

 だが今回は、焦らず精神を落ち着かせ、一歩軽く足を動かした。

 そして目的の場所に転移した俺は、これまで何度もやって上達した魔力の痕跡を不自然内容に消して、更に一歩足を動かした。


「ジン、飲み込みが速いね! でもまだ逃がさないよ!」


 一分、二分と、着々と時間が進むとスカイは更に速度を上げて追いかけて来た。

 だが俺は焦らず、一歩空間を歩くように落ち着いて転移を使い、五分が経過したタイミングで魔力が少し乱れ、先回りされたスカイに掴まってしまった。


「弟子ちゃん、凄いわね。たった百数回おいかけっこしただけで五分間も逃げ切るなんて、流石私が選んだ弟子ちゃんだわ」


「スカイさんのおかげですよ。師匠の転移の技術を思いだして、感じた事は無いかって……俺は今まで転移は指定した場所に瞬間移動するイメージで使ってました。ですけど、師匠の考える転移は今居る自分の空間とその場所の空間を一歩で行ける感じで考えてますよね?」


「ふふっ、たったそれだけの助言でそこに辿り着いたのは流石だわ。こんなに早く、正解に辿り着くなんて思ってなかったのよ? 弟子ちゃん、本当に凄いわ」


 師匠からそう褒められた後、俺は少しだけ休憩して魔力を完全回復させて再びスカイとのおいかけっこを行った。

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