第154話 【最強種とのおいかけっこ・1】


 空島の案内は何気に時間がかかり、時間的に昼食を食べてからはじめての修行を行うと師匠から言われた。

 その為、一度王都の方に戻って来て、食事をして再び空島へと戻って来た。


「それじゃ、弟子ちゃん。今日から早速、私の技の伝授と弟子ちゃんを強くする為の修行をはじめるわよ」


「はい、よろしくお願いします! ……ところで師匠。何故、俺の隣に先程、気絶させられたドラゴンさんが居るんですか?」


 何故か先程、空島の案内をする前に師匠に倒されたドラゴンが俺の隣に座っている。

 この状況、普通に嫌な予感しかしないんだけど……まさか、ドラゴンと戦えとか言わないよな?


「ふふっ、さっき邪魔にお詫びにこの子には修行に付き合ってもらう事にしたのよ。ほらっ、ちゃんと挨拶しなさい」


「は、はじめましてだ。我は白竜族の王子スカイ。マリアンナとは古くからの友である為、お主の修行を手伝わせてもらう事になった……こ、こんな感じでいいのかマリアンナ?」


「まあ、古くからって言葉は要らなかったけど、妥協点って所かしら?」


 師匠の言葉にスカイと名乗ったドラゴンは、安心した様子で一息ついた。

 うん、完全に師匠のが上の立場みたいだな……いや、俺の師匠ヤバすぎだろ!?


「あの、無理に口調変えなくてもいいですよ?」


「……ほらっ、やっぱり気付かれた! だから無理に威厳ある風に喋らなくてもいいでしょって、言ったのに! 親父のばかぁぁぁ」


 スカイは俺の言葉を聞くと、地面をドンドンと殴りそう叫んだ。


「あ、あの師匠。スカイさんはどうしたんですか?」


「スカイは、竜王の子って言ったでしょ? 父親から人間に会った時は、威厳を見せる為に口調も変えろって言われてるのよ。でも、スカイはそんな器用じゃなくてね。私は別に指摘しなかったけど、ジンが指摘しちゃって恥ずかしい気持ちでああなってるのよ」


 師匠から説明された俺は、その説明で理解して「その、ごめん」とスカイに謝罪した。

 スカイは俺の謝罪に対し、「マリアンナの弟子が悪い訳じゃないから気にしないで」と涙を目に浮かべながらそう言った。

 ドラゴンはそんな簡単に泣かないとか聞いた事有るけど、普通に今目の前で竜王の子が恥ずかしすぎて涙を流してるんだけど、採取してた方がいいかな?

 そんな事を思いながら俺は、スカイが落ち着くまで待つ事にした。

 ちなみにスカイは自分の涙が貴重な物だという事を師匠から教えられてたのか、流した涙をとってくれて師匠と俺に半分ずつ渡してくれた。

 多分だけど、これだけでも金貨数百枚の価値はあると思う。


「ふぅ……二人共ごめんね、時間を取らせちゃって」


「良いわよ。貴重な物を貰えたし」


「俺も同じです。こんな貴重な物をこんな所で貰えるなんて、思ってもいませんでした」


 師匠に続いてそう言うと、スカイは「人間って不思議だね。涙なんかが貴重って」と不思議そうにそういった。


「ドラゴンの素材は、何でも貴重な物よ。スカイの排泄物なんかも売りに出されたら、かなりの価値がすると思うわよ」


「ええ、排泄物なんか売りたくないよ。汚いでしょ……」


 師匠の言葉にスカイはウェッとした表情をした。

 まあ本人からしたらそんな気持ちだろうな、俺も自分の排泄物が高価な値段で取引されるなんて聞かされたら同じ顔をするだろう。


「……師匠、例えが悪いですよ。スカイさんの鱗一枚ですら、価値がある物と言った方が綺麗でしょ」


「まあ、そうだけどスカイがこんなにコロコロ表情を変えた事無かったら、つい楽しくなってね」


 フフフと笑いながらそう師匠が言うと、スカイは「こんな人の弟子に本当になったのか?」と見るかのような眼で俺を見て来た。


「そう言えば、マリアンナの弟子の名前を聞いてなかったね。名前は何て言うの?」


「あっ、忘れてました。ジンと言います。これから、よろしくお願いします」


「うん、よろしく」


 スカイは器用に尻尾を使って、俺が差し出した手と握手を交わした。

 その後、スカイとの修行内容を師匠から言われた俺は驚き、聞きなおした。


「師匠、今なんて言いました?」


「だから、まずは追いかけるスカイから弟子ちゃんが10分間逃げ切る。それが最初の修行よ。勿論、スカイに攻撃するのは無しよ。使っていいのは転移だけよ」


 ニコニコと笑顔を浮かべる師匠の言葉に、俺はドラゴンと追いかけっこをしろと言われた事を理解して、心の中で「無理だろ!」と叫んだ。

 だがしかし、それが修行ならやるしかないので、俺は準備運動と口の中に飴を入れて、早速修行をはじめる事にした。


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