第143話 【姉・2】


 それから私は家に居ながらも、国に家の情報を流してこれまでの悪事を一つずつ紐解いていった。

 そうして一年の歳月が経ち、ようやくラージニア家の取り潰しが決まった。


「ようやく、この長い戦いが終わったわね」


「お疲れさまでした。ヘレナ様」


「ええ、ありがとね。ルル」


 ルル、彼女は私の最初の仲間で半分血の繋がった姉。

 元は普通のメイドだったが、私が家の事を疑い始めた頃、自分の過去を事を話してくれて味方になってくれた。


「それで貴女はどうするの? 貴女の家を滅茶苦茶にした、私の母は死刑で死んだから貴女の目的は達成したでしょ?」


「そうですね。ラージニア家のせいで、私の家族はもうこの世にいないので戻る場所もないですから、このままヘレナ様について行こうと思いますよ。良いですか?」


「そう。なら、今度から私の事はヘレナ様じゃなくてヘレナで良いわよ。よろしくねルルお姉ちゃん」


「ッ! いつも無表情の癖に、こういう時だけ笑顔見せるのはズルいわよ! 全く、もう……」


 それから私は調査協力をした事で得たお金を旅の資金として、ルルと一緒にラージニア家のせいで人生を狂わされた人達の所を回って謝罪を行った。

 謝罪を受け取る者もいれば、もう関わりたくないと拒絶された事も沢山ある。

 中には石を投げられた事もあって、精神的・肉体的に本当に辛い旅だった。

 そんな旅を二年続け、ようやくラージニア家によって人生を狂わされた最後の人、ジンの所へと訪れた。



 まさか、そんな事があったのか……成程な、それでゲームの本編では全く出なかったのか。

 ゲームでも多分、独自に調べていたと思うけど、闇堕ちしたジンのせいで事件はもみ消された。

 それで彼女は家から消え、ゲーム本編でも語られる事は無かったのだろう。


「まさか、姉さんがそんな事をしてたなんて知らなかったよ」


「これでも演劇とか好きだったから、普段は害の無い子供を装っていたのよ」


「そうだったんですね。というか、今の話が本当なら姉さんは子供の頃から色々と抱えていたんですね」


 彼女の話が本当なら、俺と姉であるヘレナとの歳の差は3つしか変わらない。

 だとすれば、彼女は三歳の頃から一人で戦っていたことになる。


「ええ、そうね。色々と見て来たから辛い時もあったわ……でも、ジンとノーラさんの境遇に比べたら全然マシだったわ、自分にもっと力があればって何度も思ったわ」


 そうヘレナは言うと、一瞬だけ悲しげな表情を浮かべたが直ぐにいつもの無表情に戻った。


「私ね。ジンが追い出されると聞いて、本当はあの時凄く驚いてたのよ?」


「いつも通り、顔に全く出てなかったのでそんな事気付かなかったよ。マジで驚いてたの?」


「ええ、何度も確認をとって本当に居なくなったのを確認して、ああ本当に出られたんだって安心したわ」


 まさか、姉がここまでジンの事を考えていたとは知らなかった。

 彼女は基本、何事にも関わらないそういった性格の人だから、ジンなんて別に関係のない半分血が繋がった相手としか思って無いと考えていた。


「あれ? でも、姉さんにはもう一人本当の弟が居ましたけど、そっちは何も思わないんですか? あいつ死刑で死んだんでしょ?」


「えっ、アレを弟とは思った事無いわよ? ラージニア家の血を色濃く受け継いで、10歳でもう殆どの犯罪に手を付けていたのよ? 姉の裸を見て、欲情までしていたのよ?」


 そういや、アルフォンスってそういう人間だったな。

 というか、実の姉の裸を見て欲情って……。

 そこまで設定資料に書かれてなかったけど、それが本当なら〝最低キャラ〟って異名はアルフォンスの方がお似合いだろう。


「だから、父達と一緒に処刑してもらったのよ。アレが生きてて、良い事はないもの、ジンもそう思うでしょ?」


「……まあ、確かにね。しかし、おかしな話ですね。半分血が繋がってるだけの俺の事は気にしてて、本当の弟の事は〝アレ〟呼ばわりって」


 そう俺が言うと、ヘレナは「ん~、これ今更いうのもあれなんだけど」と前置きをして、驚く内容を口にした。


「私とジン、全く血が繋がってないわよ」


「……え? いやいや、姉さんはラージニア家の長女だよね!?」


「ええ、そうだけど、これね。私も調べて分かった事だけど、私の母親は確かにヘレン・フォン・ラージニアだったのよ。でも、父親は違う相手だったみたいなのよね。だから、アルフォンスとは半分だけ血が繋がってるけど、ジンとは全く血が繋がってないのよ。ちなみにさっき、ラージニア家の血を色濃く受け継いでるって言った意味はアルフォンスだけ両親がちゃんとラージニア家という意味も含めてるのよ」


「へっ?」


 その驚きの内容に俺は理解が出来ず、フラッと立ち眩みがしてベッドに座り頭を抱えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る