第112話 【事前準備・2】


「リーザ、今大丈夫か?」


 店に入ると、店頭にはリーザの姿が無かった。

 勝手に奥に入るのはと思い、カウンターからリーザを呼ぶと、奥から作業服姿のリーザが出て来た。


「ジンか、今日来る予定だったか?」


「いや、ちょっと相談をしたいと思ってな、今時間大丈夫か?」


「ん~……一時間待っててくれたら、話せるが」


 一時間か、それなら店の裏にある所で剣の稽古をしていたら過ぎてるだろう。


「ああ、大丈夫。待ってる間、店の裏で剣の稽古をしていても良いか?」


「いいよ。好きに使ってな」


 リーザはそう言うと、再び作業場の方へと行ったので俺も店の裏に行き、剣の稽古を始めた。

 それから一時間程経ち、俺は再び店の中に戻ると、リーザは丁度作業場から出て来た。


「時間ピッタリね。それで店に来るって事は、何か頼みに来たの?」


「ああ、実はまだ先の事なんだが春先位に旅に出ようと思ってるんだ。その時に合わせて、装備を作って欲しいんだ」


「旅ね。冒険者だからいつか行くと思ってたけど、中々外に行かないから王都で活動するのかと思っていたよ」


「知人からも同じ事を言われたよ。旅に出るには色々と準備が必要だろ? 金も無いのに旅に出て、日銭を稼ぐってやり方も良いとは思うけど、俺はちゃんと準備して旅をしたいんだ」


 そう言うとリーザは納得した様子で、どんな物が必要なのか聞いて来た。

 それから俺は一先ず、現段階で必要としている物をリーザに伝えた。


「ジンとクロエは成長期だし、装備は旅に出る一月前から作り出す事にするよ。それ以外の物は今から作って、出来次第渡せばいいね」


「ああ、武器の予備は早めに欲しいかな、慣れも必要だろうし」


「分かってるよ」


 リーザはそう言うと、前金を受け取り早速裏で作業を始めたので俺は店を出た。

 リーザの店を出た俺はその後、商業区の普通の店で必要そうな物を買い込んで行き、折角の休日を全て買い出しに使った。


「えっ、ジン君折角の休みの日に買い出しで全部使ったの? 折角のお休みなのに?」


 お休みが終わり、クロエと集合場所で集まった俺はクロエから休日どんな事をしていたのか聞かれた。

 そして正直に二日間、買い出しに使ったと言ったら、驚いた顔をしてそういわれた。


「俺の場合、休んだ所で宿で過ごすだけだから有効活用しただけだよ。そこまで気にしなくて良い」


「でも、私だけ休んだ感じで気になるよ……」


「う~ん、別に休めてない訳でも無いからな……まあでも、これからは休日ってお互いが決めた日はなるべく、パーティーでの事はしないようにするよ」


 そう俺はクロエと約束をして、俺達は馬車に乗り〝岩石山のダンジョン〟へと移動した。

 俺達が唯一、現状で安心して金を稼げる場所と言えばここしかない。

 来る者は少なく、依頼でもくるような場所ではない。

 それなのにゴーレムの素材は中々の値段で売れるし、今は二人分の採掘道具もちゃんと揃っている。


「前回、ユリウスさんを助ける為に30層まで降りて転移が出来るようになったおかげで、人の気配が全くしない場所で気楽に作業が出来るな」


「そうだね。まあ、元々ここって人があんまり来ないから、人の気配何て感じた事無いけどね」


 俺の言葉にそうクロエは返しながら、俺達は楽々とゴーレムを倒している。

 訓練のおかげでゴーレム程度は楽に倒せる位には成長した俺達は、個々で倒す時もあれば協力して連携したりと、色々と試していた。


「うん、前までより連携もよくなってるな。別々で訓練していたけど、お互いの事を意識して訓練していたおかげだな」


「どうやったらジン君のサポートが出来るか考えてた事が、実際にすんなりと決まって訓練の成果を感じるよ」


「俺もクロエならここで魔法を使ってくれるなって意識が出来て、楽に動けてるよ」


 一時間程狩りをした俺達は一旦、30層の安全地帯に戻って来て休憩しながら久しぶりの狩りの感想を言い合った。

 正直、クロエが強い事はゲームで知っていたし、最近の頑張りも知っていたけど……。

 ステータスでは見る事の出来ない、連携力や咄嗟の判断力は以前よりも上がっていて、魔法の訓練をずっと受けた事でそういった力も上がったんだろう。


「……所で、ジン君。キッチンの方に前は無かった調理道具が沢山あるけど、もしかして料理するの?」


「これから先、王都から出たらどっちかが料理しないといけないだろ? なら、今の内から練習しておこうと思ってな」


 鍋やフライパン等々、そこそこ良い材料でリーザに作って貰った調理道具がキッチンにある。

 市販の物でも良いかと思ったけど、ここは本気で取り組もうと思い道具から良い物を揃えた。

 それを聞いたクロエは「私も頑張ってみようかな」と言ったので、交互に料理をして今から訓練をしようと話し合って決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る