第111話 【事前準備・1】


 翌日、夜遅くまでどんちゃん騒ぎをしていた為、少し遅い時間に起きた俺は朝食を食べに食堂に向かった。

 昨日まで、強面のオッサンしか居なかった食堂に、美人な女性と可愛らしい女の子が加わり、今までと少し空気が違っていた。


「女性二人が加わるだけで、ここまで変わるなんてな……リカルドは、もう裏方に回った方がいいんじゃないか?」


「俺はここの店主だぞ? 店主が裏方ってどういうことだよ……まあ、でも俺だけの時よりも空気が違うのはなんとなく俺も感じてる」


 リカルドはそう言うと、俺の言葉を気にしてなのか「裏に回った方がいいのかな……」と小声で言った。


「冗談だぞ、俺はリカルドの顔が見えない方が寂しいと思うしな。それにアイラさん達だけだと、変な輩が入って来る可能性もあるだろうし、怖いオッサンが居た方がいいと思うぞ」


「……確かにそうだな、裏方に回る話は無しだな」


 奥さんと娘が変な男に寄られると想像したリカルドは、怖い顔をしてそう言った。

 そんなリカルドに「パパ、また怖い顔してるよ」と、エプロンを着てるルリに怒られていた。


「ジンさん、はい今日の朝ごはん。昨日、ジンさん色々食べさせられてたから軽い物にしておいたよ」


「気を使ってくれたのか、ありがとう。ルリさん」


 昨日、挨拶の時は俺より年下と思っていたルリ。

 だが実際は、俺より2つも年上だった。

 元々小柄なルリだったらしいのだが、病のせいで成長が止まってしまったらしく身長も140㎝程しかなく、女性特有の膨らみも殆ど無い。

 母のアイラさんはある方の女性だから、本来ならルリもあれくらい……。


「ジンさん、今何か変な事考えてた?」


「イエ、ナニモカンガエテマセンヨ」


「……ジン、女ってのは男の考えてる事を勘で当てて来るから、気を付けろよ」


 そうリカルドから注意された俺は頷き、静かに朝食を食べた。

 その後、宿を出た俺はシンシアの店へと向かった。


「いらっしゃい、ジン。今日は何を買いに来たの?」


「いつものアイテムと、旅に必要そうな物を買いに来た」


「旅に必要な物? えっ!? ジン達、王都を出る予定なの?」


 俺が旅に出るというと、シンシアは驚いた顔をしてそう言った。


「春先にちょっとな、ずっと王都で活動するのも良いけど、冒険者と言えば色んな所を見るのも醍醐味だろ?」


「まあ、確かにそうね。でも私の中でジン達はずっと王都で活動するのとばかり思っていたから、少し寂しいわね」


「まあ、長い期間出ていく予定では無いからな、クロエの両親が王都に住んでるから定期的に帰ってくる予定ではいるよ」


 寂しくなると言われた俺は、何年も姿を消すわけでは無いとシンシアに言った。

 それを聞いたシンシアは安心したのか「そっか、それじゃ帰って来た時は顔を見せてね」と約束をした。

 まあ、正直当初の予定では王都を出たら、取り敢えず魔王討伐がされるまではこの国から出る予定で居た。


 だけど、色々と準備している間に王都には色々と繋がりを作ってしまった。

 だから俺は計画を変更して、魔王討伐が遅れ、魔王軍に王都や俺の知り合いの所に攻めた場合の時の為に、色々と策を練る事にした。

 まっ、表に自分の姿が出ると、目立つから影から助ける予定だから、色々と難しいと思うけど、この世界の勇者の力がどれ程なのか分からないしな。

 準備しておいて、損はないという事は昨日の件で改めて思った。


「それにしても、今日は特に色々と買うのね。そんなに買って、お金は大丈夫なの? もしパーティーのお金なら、クロエちゃんも一緒の方がいいんじゃないの?」


「大丈夫だ。ここ最近、色々と大金を手にしたから、それで今後に役立つ物を買って来るってクロエにも言ってるから」


「それならいいけど……それにしても、よくそんなにお金を使えるわね。最初、会っ時はまだ新米の冒険者だったのに」


「色々あったんだよ。色々な……」


 そう言って俺は最後にシンシアの店を見て回って、特に見落としが無い事を確認してから店を出た。

 シンシアの店には定期的に新商品が並ぶ、今購入できる物でも数日後には無くなってる可能性もある。

 今後、春先まで定期的に訪れて、使える物は片っ端から購入しておこう。

 それを買う為の資金は、この数ヵ月間で稼いでいるからな。


「とは言っても、使い続けたら金は無くなってしまうからな、稼ぐ必要はあるが……」


 冒険者で稼ぐとなると、依頼を受けて報酬を受け取る。

 そうすると、達成度が溜まってしまい昇格する可能性が出て来る。


「それは俺にとっては不都合だしな、他の事で金を稼ぐ事にするか」


 他の事、依頼を受けずに魔物の素材を売るなのだが、王都周辺の魔物はそこまで高くない。

 ダンジョンに行けば、それなりの値段の魔物の素材もあるだろうが、人がいる場所でずっと狩りをしていたら、それはそれで目立つ事になるだろうし……。

 まあ、考えた所で行く場所は一つだな。

 そう俺は思いながら歩いていると、次の目的地のリーザの店の前に着いていた。

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