第101話 【偽装・3】


 そして翌日、俺はユリウスと共に城を出てギルドへと訪れ、ユリウスの冒険者登録を行っていた。

 本来だと受付でする事なのだが、フィーネさんが事情を知っている為、いつも使ってる相談室でやってくれる事になった。


「ユリウスさんは冒険者として活動というより、アンジュさんと会う為に冒険者になるんですよね?」


「まあ、そうだね。姫からは、一応冒険者としての活動もちゃんとするようには言われてるけど、基本的にそっちを優先しても良いって言われてる」


「だったら、俺みたいにパートナー登録をしておいた方がいいと思いますよ。俺もこれのおかげで大分、素性を隠しながら活動出来ています。ユリウスさんの場合、目立てばアンジュさんと会うのも難しくなると思いますから」


 そう俺がアドバイスをすると、ユリウスは「では私もパートナー登録をしておきます」とフィーネさんに言った。

 その後、ユリウスの冒険者登録を終えた俺達は、そのまま帰るのではなく別室に待っていたアンジュの元に向かった。


「それで、昔の名前で今後は冒険者としても活動するの?」


「うん、アンジュには迷惑を掛けられないからね」


「まあ、私としても変に貴族に目を付けられないなら良いけど……ジンに迷惑掛け過ぎじゃない? いくら任務で受けてるとは言え、内容は〝姫様の護衛兼話相手〟でしょ? 聞いたわよ。この装飾品のミスリルを取る為に、大騒ぎ起こしてジンに助けて貰ったって」


「あっ、それは……」


 アンジュに詰められたユリウスは、笑顔だったのが一瞬にして焦った様子へと変わった。

 まあ、確かに依頼内容の中にはユリウスを助けるなんて書いてない。

 金級冒険者のアンジュとしては、依頼内容に書いてない事をさせている兄に怒りを抱いてるんだろう。


「アンジュさん、一応そこは俺達が勝手にやった事なんで多めに見てやってください。それに今は、ユリウスさんに剣を習ったりして対価は貰ってますから」


「……ジンが良いなら私が強く言う必要ないけど、それでも今後は気を付けてよね?」


「はい! ごめんなさい!」


 アンジュに注意されたユリウスは、頭を下げてそう謝罪をした。


「それとジン、ユリウスの剣術に飽きたら私の所にきてもいいのよ? ユリウスに剣術教えたのは私だからね」


「……えっ?」


 アンジュとユリウスのやり取りを見て笑っていた俺に、アンジュは特大の爆弾発言をしたきた。

 剣聖ユリウスに剣術を教えたのがアンジュだって!?

 そんな事、設定資料にも書かれていなかった筈だぞ?


「それ、本当ですか?」


「うん、だって元々孤児のユリウスが姫様に認められる程、剣が上手いなんておかしいでしょ? 私が何も知らないユリウスに一から教えたのよ」


 そう言ったアンジュの言葉が信じられない俺は、隣に頭を下げた状態のユリウスへと視線をやった。


「それは本当だよ。私の剣の師匠はアンジュだよ。まあ、でも今やったらどっちが勝つか分からないけどね?」


「へ~、あの頃はたった一度も勝てなかったのに、そんな大口叩いて平気なの? ジンの前だからって強きになって、後で恥をかくのはユリウスよ?」


「ふふっ、これでも剣聖として名に恥じない努力と経験をしてきたからね。あの頃とは私は違うんだよ」


 うん、完全にこの二人やる気になってるな……。

 義兄妹って言ってたけど、本当は血が繋がってるんじゃないか?

 そう思っていると、二人は久しぶりに再会を祝してお互いの成長の確認も含めて戦う事を決めた。


「ちょっ、ちょっとアンジュさんユリウスさん? そんな急に戦うって、ギルド側も準備がありますから、無理ですよ?」


「大丈夫よ。こうなるかも知れないから、先にレイナに場所の準備をお願いしておいたわ」


「昔から準備が良かったけど、そこは変わってないみたいだね」


「一人でここまで成り上がった私だもの、これくらいで感心してもらったら困るわ」


 お互いに睨み合う二人は、場所の準備が出来たと言いに来たレイナさんの声に反応して部屋を出て行った。

 まあ、でも俺の知らないアンジュの実力をこの眼で見れそうだし、これはこれでよかったな。

 面倒な役割をしてるなと思っていたけど、この機会を逃さなくて良かったと俺は思いつつ二人の後ろをついて行った。


「レイナさん、あの二人大丈夫ですかね」


「大丈夫だと思いますよ。私も兄が居るから何となく分かりますけど、アンジュさんはただユリウス様に再会できて嬉しいんだと思います」


 二人の様子に心配した俺の言葉に、レイナさんは笑みを浮かべてそう言った。

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