第102話 【ユリウス対アンジュ・1】
それから訓練場へと移動してユリウス達は、それぞれ準備運動を始めた。
その様子から二人共、ガチでやるというオーラを感じる。
「二人共ガチで戦うみたいですね」
「そうですね。アンジユさんは、ユリウス様との戦いを楽しみにしていたんだと思います。ユリウス様と再会してから、ここ最近ずっと剣術の訓練を本気でやっていましたから」
成程な、顔には出してなかったけどアンジュもユリウスと再会できたのが嬉しかったのか……。
あれ? だとしたら、おかしくないか?
「アンジュさんってユリウスさんがこの国に居る事知ってたのに、自分からは会おうとはしなかったんですか? ユリウスさんは王都には居ないだろうって思いこんで、王都を探していませんでしたけど」
「……一応、アンジュさんなりにユリウス様にヒントは出していたんですよ。ただそのヒントに気付かないユリウス様に呆れて、ここ最近は何もしてなかったんです」
レイナさんはそう言うと、アンジュがやったヒントについて教えてくれた。
元孤児の冒険者は他にも沢山いる中、アンジュは一人で活動を続けていた。
最初の頃は、自分の名が知れて貴族に知れても良いからユリウスに自分の居場所を伝える為にあえて隠していなかったらしい。
しかし、自分が銅級冒険者まで一人で上げたのにユリウスが気付く様子無かった。
その状況でアンジュは、自分の事を探してないと思い込み、自分の情報は全てを隠す様になったとレイナさんは話してくれた。
「正直、あの頃のアンジュさんは冒険者の中でも一目置かれた人でしたから知ってもおかしくないと思っていたんですけど、私の方でその時の事を調べてみると、時期的にユリウス様が国外にアンジュさんの事を探している時と一致してしまって」
「ああ、見事に行き違いをしたという事ですか……」
「はい、アンジュさんもその事を聞いて、あの時の事は水に流したのですが……それでも帰国後に噂ぐらいは耳にするでしょ! と言って、少しの間、不貞腐れてました……」
まあ、アンジュさんの言い分も分かるけど、ユリウスが悪いとは言い切れないな。
アンジュさんがどういう思いで過ごしてきたのか俺は分からないが、ユリウスがアンジュに対して大切な思いを抱いていた。
というのは、あの事件で目の当たりにしている。
「まあ、今はそんな感情は無く、ただお互いに成長した力を比べたいという思いしかなさそうですけどね」
そうレイナは笑いながら言うと、審判役として二人の間へと移動した。
金級冒険者のアンジュ対剣聖ユリウスの試合か……こんな面白いの起きたって、姫様が知ったら起こりそうだな……。
「っと、試合始まったみたいだな、ちゃんと見て後で報告すれば怒られはしないだろう」
そう思いながら俺は、ユリウス達の試合を見る事に集中した。
試合開始直後、両者同時に飛び出し剣と剣がぶつかり合い、凄まじい風圧が起きた。
「ッ、目、目に砂が……」
目を離さないように集中してみていた俺は、見事に目の中に砂が入り一瞬にして視界を奪われてしまった。
くっ、こんな事してる場合じゃない! 早く見なきゃ!
俺は急いで水魔法で目を洗って、視界を戻してユリウス達の方へと視線を戻した。
「……すげぇ~」
これまで沢山の戦いを見て来たが、ここまで凄い戦いはまだ見た事が無い。
ユリウスが強いのか知ってたけど、アンジュもあそこまで強かったのか……。
以前はギルドの試験官として、魔道具で力を抑えられていたからここまでの強さを感じなかったけど、今はその枷が無い。
この強さ、普通の金級冒険者以上だろうな……俺と同じで目立ちたくないというアンジュは、力を隠すうえで昇級せずにいるのだろう。
俺も本当だったら、今はまだ鉄級で細々と依頼を受けていたんだが、どっかの誰かさんに邪魔されたからな……。
「ハァッ!」
アンジュとユリウス、ユリウスが上だろうと勝手に思っていたが俺の予想とは違いユリウスは防戦一方だった。
「くっ、アンジュ。あの時から、また更に腕を上げたみたいだね」
「当たり前でしょ? あれから何年経ってるのよ? 成長して無い方がおかしいでしょ、そういうユリウスは能力は上がってるみたいだけど、肝心の剣術はあの時からあまり変わってないわね」
嬉しそうに言うユリウスに対して、アンジュは辛辣な言葉をユリウスに対して言った。
そのアンジュの言葉にユリウスは驚き、すぐさま反論した。
「そ、そんな事は」
「そう? だったら、何でまだあの時に注意した癖が残ってるの?」
アンジュはそう言うと、左右にブレながら動くとサッとユリウスに接近して足払いをした。
ユリウスはアンジュの動きについていけなかったのか、その攻撃も簡単に食らっていた。
あのユリウスが簡単に攻撃を受けた? マジかよ……。
「目に頼りきりになる癖、まだ治ってないわね。前に注意した事を治してないって、それでも成長したっていうの?」
「……ふふ、アンジュ。やっぱり、凄いね」
溜息交じりにアンジュはそう言うと、ユリウスは俯いていた顔を上げると嬉しそうな顔を浮かべてアンジュを見た。
「ごめんねアンジュ。アンジュと戦ってると昔の事を思いだして、昔の癖が戻っちゃってたみたい」
そうユリウスは言いながら起き上がると、先程までとは違う剣の構え方をした。
その様子の変化にアンジュは何か気付くと、フッと笑うと剣を構えなおした。
そう言えば、さっきまでのユリウスの剣術、いつも見てる剣術じゃなかったな……もしかして、ユリウスの奴ワザと昔の剣術で勝負してたのか?
そう俺が驚いていると、ユリウスは普段の剣術でアンジュと戦い始め、さっきまで防戦一方だったのがいい戦いをしている。
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