第92話 【会議・3】
「しかし、見れば見るほど、お主のその才能は興味がそそるの~」
「そ、そうですかね? まあ、少し魔法の才能はありますけど、レーヴィン様にそこまで言われる程では……」
まずいぞ、この流れは……何となく、この単語聞き覚えがある。
確か、レーヴィンは自分が気に入った者を弟子にとりたがる性格をしていると設定に書かれていた。
その為、ゲームでも俺と同じく【瞑想】を持っていて、更に勇者という肩書に興味を示したレーヴィンは勇者を弟子にとり魔法を教えていた。
「うむ、そうじゃジンといったかのう。お主、儂の弟子にならぬか?」
終わった~、言われてしまったよ……。
公爵家であり、国の重要人物のレーヴィンの誘いを平民である俺が断れる訳ないだろ……。
「レーヴィン様、ジン君は誰かに弟子入りする事はありませんよ」
レーヴィンの返答に困っていると、ユリウスがそう助け舟を出してくれた。
ユリウス! 助かったぞ、本当にマジでナイスタイミングだッ!
「ぬっ、ユリウス殿。そう言えば、お主に剣を教えてもらってると言っておったが、弟子では無いと言ってたの」
「はい、ジン君は誰かの弟子になるのを嫌な様なんですよ」
「ふむ……偶にそう言う性格の者がおるのは知っておるが、ジンもそっちタイプの人間なんじゃな……う~む、じゃがここまでの才能の持ち主を育てられんのはもどかしいの……」
レーヴィンは俺の性格を理解したが、それでも弟子に出来ないか悩んでいる。
良かったレーヴィンがまだ人の事を考えてくれる性格の人で、無理矢理弟子にするような奴もこのゲームには居るからな……。
「う~む……そうじゃ! ジン、儂もお主にアドバイスするだけなら良いかの? 弟子にはせんから、爺の小言を聞いてみて納得したら試して欲しいんじゃ!」
「……分かりました。弟子ではないなら、良いです。ですけど、これはユリウスさん達にも言ってますけど、俺は冒険者です。なので事前に連絡を送れず、遠くに行く場合もあります」
「分かっておる。冒険者は自由に動く者達だと儂も理解しておるからの、じゃが暫くは王都に居るんじゃろ? その間でも、爺の小言を聞いて欲しいんじゃ、お主ほどの魔法の才能を持つ者は早々見ないから、何もせず見逃すのは儂は儂自身を止められん!」
熱く語るレーヴィンに近づく者が居た。
「父上、ジンには迷惑をかけないという約束でしたよね? 何故、弟子がどうのこうのと叫んでいるのですか?」
「リオンッ! ちっ、もう帰ってきおったか……ジンと話す為に足止めも用意したというのに……」
「やはりあの者は父上が用意した者達でしたか……すまないねジン。父上が迷惑を掛けなかったか?」
そう優しく声を掛けて来たのは、現魔法騎士団団長リオンだった。
クロエの修行を見ているリオンとは、何度か話しをした事があり、城で気軽に話せる一人だ。
「リオンさん、その迷惑はかけられていないので大丈夫ですよ」
「そうかい、本当はジンも居るから呼ぶつもりは無かったんだが王がどうしても言ったのでね……もしかしなくも、王に頼んだのも父上ですか?」
「勿論、何やら隠し事をしておる気配がしたからのドルスに会議に参加させるように言ったのじゃ」
「……隠居したんなら、そのまま山奥にでも住んでたらいいのに」
エッヘンと胸を張るレーヴィンに対して、リオンはボソッとそう呟いた。
この親子、ティアナの前では家族仲いい様に見せているが、実際の所は仲はそんなに良くはない。
というのもリオンは幼少期、レーヴィンの無茶な修行をさせられ、死ぬ気で魔法を覚えさせられたという過去がある。
確かにその修行のおかげで、今では王国の魔法騎士団団長という職に就いてるが、悪夢のような日々を過ごした事は忘れる事は無く。
今も尚、いつの日かやり返そうとリオンは心の中で思っていると、設定資料に書かれていた。
「それにしても不思議じゃな、リオン。お主がジンの事を知っていて、弟子に取らぬとは意外じゃ」
「ジンの性格は父上以上に知ってます。それと、一応声を掛けて振られた後です」
この二ヵ月、城で暮らしていた俺はリオンから弟子にならないかと声を掛けられていた。
しかし、その時の俺は剣術に集中したいという思いと、弟子になるとこの国に縛られる可能性もあると思い断っていた。
「ふっ、お主は振られ何もしてやられてないようじゃが、儂はアドバイスをする権利を得た。という事は、ジンは儂を選んだという事じゃな」
「ッ! 私は父上の様に無理にお願いしていませんので、ジンなら父上と私なら私を選ぶに決まってますよ。父上の魔法は時代遅れの威力しか考えてない魔法ですからね。私の様な繊細な魔法の方が、ジンには合ってますよ」
「何じゃと! 儂に一度も魔法勝負で勝った事の無い癖に生意気じゃ!」
何故か俺がレーヴィンを選択した事で、リオンとレーヴィンは喧嘩を始めてしまった。
ちょいちょい、こんな会議室でそんな魔力出すなよ! 壁にヒビが入ってるぞ!
「「やめなさいッ!」」
「「ッ!」」
リオンとレーヴィン、一触即発という状況だったのが二人の女性の登場でシンッと静かになった。
睨み合ってた馬鹿親子は声のした方へと顔を向けると、驚いた顔をした。
「エイレーン、お主が何故ここに……」
「リネア、何で君がここにいるんだ……」
レーヴィンとリオンは女性の名を口にすると、女性達から睨まれその場で正座をした。
レーヴィンが口にしたエイレーンという女性、彼女はレーヴィンの奥さんでリオンが口にしたリネアはリオンの奥さんだ。
この親子お互いに嫌い合ってるだが、何処までも似ていて奥さんの尻に敷かれている所まで似ている。
「貴方達が騒動を起こすかもって、王妃様からご連絡を頂いて待機していたのよ。レーヴィン、私に黙っていれば大丈夫とでも思ったのかしら?」
「だ、黙ってはおらぬぞ? 王都に行く用事があると出かけたでは無いか」
「ええ、そう言っていたわね。でも、今日この話し合いがある事は私には黙っていたわよね? 私は王妃様から教えてもらうまで知らなかったわよ?」
「そ、それはじゃな……」
エイレーンからそう詰め寄られたレーヴィンはしどろもどろとしており、その様子をリオンは〝ざまぁ〟と口パクでレーヴィンに言った。
そんなリオンに対して、リネアはリオンの頭に手を置いた。
「リオン、貴方は立派な魔法騎士団団長なのよ? それがなんでお父様との喧嘩の為に、魔法を使ったのかしら?」
「そ、それは違う。魔法は〝まだ〟使ってなかった」
「まだって、それじゃあアレは何かしら?」
リネアはそういうと、天井付近に出来た焼けた後を見る様にリオンの顔を向けさせた。
あれはさっき、リオンがレーヴィンと睨み合ってた時に出した炎で燃えた箇所だな……。
その後、リオンとレーヴィンは共に奥さんに別室に連れて行かれ、その後の話し合いに参加する事は無かった。
「ジンさん、すみません。もう暫くラージニア家に関しては、お時間を頂く形になりました」
会議が終わった後、貴族達が出ていき最後に残った俺にゼフはそう言った。
結局、今回の会議で決まった事は二つ。
一つはラージニア家を今後も監視・調査を続ける事、もう一つはラージニア家を潰した後の事だ。
ゲームでは許されてしまったラージニア家だが、今回は許される事は無く潰す事は決定した。
家の取り潰しで決まっている事は、色々と問題を起こしている現当主の元父と義母の処刑。
子供は調査次第では、両親と同じ処遇になるかもしれないという感じだった。
「いえ、俺としては調べて貰ってるだけでも有難いので、いくら時間がかかっても大丈夫です。それと俺も協力出来る事があれば何でも言ってください、まだ暫くは王都で暮らす予定なので」
そうゼフに言った後、俺も会議室を出て行き色々あって疲れたので部屋に戻り、姫様が帰宅するまで少し横になる事にした。
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