第79話 【褒美・1】


 ユリウス捜索から翌日、王城の医師達の懸命な措置によりユリウスは無事に目を覚ました。

 あの時、俺の眼からは命に別状は無いと思っていたが、数日間睡眠せずに採掘していた弊害で脳や体の損傷があったらしい。

 発見がもっと遅れていたら、それこそ後遺症が残るほどだったと姫様から聞いた。

 発見が早く、治療も無事に済み、暫く安静に過ごしていたら元に戻ると診断されたと俺達は姫様から伝えられた。


「ジンさん、クロエさん、本当にありがとうございます。あなた達のおかげで、大切な部下を失わずにすみました」


 ユリウスの診断を聞いた後、改めて姫様から俺とクロエはお礼を言われた。

 平然を装っていた姫様だが、心の中では心配していてメイドさんの話によると、ユリウスが発見されたと聞いて涙を流していたと聞いた。

 今もこうして平然を装ってるが、化粧で隠してあるが目の腫れを隠しきれてなかった。


「ユリウスさんにはお世話になってましたから、当然の事をしただけですよ。それと、昨日伝えて貰った通りユリウスさんが見つけたミスリル。今は俺の収納スキルの中に保管してありますけど、お渡しした方がいいですか?」


「いえ、今はジンさんのスキルの中に保管していてください。万が一、移動させてる際に傷が付いたりしたら、ユリウスの努力が意味の無い物になりますから」


「分かりました。それでは、俺が責任をもって保管しておきます」


 その後、姫様は相当疲れている様子だったので、俺とクロエは直ぐに部屋を退出した。

 姫様って部下を思いやる人だとは知っていたけど、あそこまで心配に思う人だったんだな……流石、聖女となる人だな。


「ジン君、この後どうする?」


「そうだな……早い内からリーザに新しい武器を頼んでおきたいし、リーザの店に行こうかな」


「それなら、私も一緒に行くよ。私の武器も昨日の捜索で壊れちゃったし」


 捨てられた鉱石のゴーレムとの初めての戦いの際に俺の剣は壊れ、クロエの剣も30層を目指す際に現れたゴーレムによって折られてしまった。

 良かった事と言えば、最後に現れたゴーレムだった事だろうな……。

 もしもっと前の段階で壊れていたら、俺達の武器は予備の殆ど使えない剣しかない状況だった。


「ジン、それにクロエも何処か行くのか?」


 リーザの店に行くと決めた俺達は、門の前で荷物を卸してる兵士の集団の中からアンドルが現れそう声を掛けられた。

 アンドル達が卸してる荷物、あれはユリウスがダンジョンで掘り捨てていた鉱石だ。

 捨てられた鉱石のゴーレムの事を話して、放置していたら大変な事になるとユリウスを連れて帰る際に伝えていた。

 その話を聞いたアンドルは一部の兵士をダンジョンに送り、20層から30層にかけてユリウスが放置した鉱石を回収して、城に運びこんでいる。


「ええ、昨日の捜索で俺達の武器が壊れてしまったので新しい武器を作りに行こうとしてた所です」


「武器が壊れたのか? なら、回収してきた鉱石を少し渡すぞ?」


「いえ、大丈夫です。俺達も少し前に鉱石採取してたのでその時の残りもありますし、鍛冶師が良い鉱石を揃えていると思うので」


「そうか、それならいい武器作って貰ったら俺にも見せてくれよ。ガフカの工房に出入りしてる奴、知ってる中だとジン達位だからな」


 アンドルはそう笑いながら言うと、急に真剣な顔をして俺に頭を下げて来た。


「ユリウスを見つけてくれてありがとう」


「えっ、アンドルさん頭上げてくださいよ。皆、見てますから」


 そう回りに人がいるからと言うと、何故か周りで作業していた人達全員が俺とクロエに「ありがとうございます」と同じように頭を下げて来た。

 数百人の兵士達から、頭を下げられるてるこの異様な状況どうなってんだよ……。


「ダンジョンの変異魔物に関して、ジン達のおかげで直ぐに対処が出来た。あれらが放置されていたら、冒険者に沢山迷惑をかけていただろう。本当に感謝してる」


 その後もずっと頭を下げ続けられた俺達は、工房に行くからという言い訳を使いその場から走り去る事にした。


「マジで心臓に悪いわ、あんな所を王城関係者以外の人に見られてたら、酷い噂がたつぞ……」


「そうだね。あんな数の兵士さんに頭を下げられてる冒険者って、なにやったんだってなるもんね……」


 そう俺達は心配しつつ、それから十数分歩いて商業区にあるリーザの店へとやって来た。

 店の扉は開いていたが、店頭にはリーザの姿が無かった。


「あれ、リーザいないのか?」


「その声ジンかい? ちょっと、今作業してるから待ってな!」


 俺の声に気付いたのか、店の奥からリーザはそう叫んだ。

 それから少しして、リーザは作業を終えてタオルで汗を拭きながらやって来た。


「作業中だったのか、忙しい時に来て悪かったな」


「ただ暇潰しで作業していただけだからね。それで、今日はどうしたんだい?」


「武器を頼みに来た。俺達の武器が壊れちまってな」


 そう言って俺は自分の剣と、クロエの剣を【異空間ボックス】から取り出してリーザに見せた。

 シンシアの店で購入した物だから、悪い品じゃない事は直ぐにリーザは見抜き「どうやって壊れた?」と聞いて来た。


「変異したゴーレムと戦って、身を守る為に剣で受け止めたらポッキリとな、クロエの方はゴーレムとの連戦で剣に負担かけ過ぎて壊れた」


「成程ね……どっちの剣もまだまだ使える筈なのに、折れたのはそういう理由ね。酷い扱いしてた訳でも無さそうだし、主人を守れていい終わり方をしたのね」


 リーザは俺達の剣を優しく撫でながらそう言った。

 それから新しい武器はどんな物が良いのか、店にある武器を見て参考にしなと言われ、俺達はリーザの店にある武器を見て回る事にした。

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