第74話 【ミスリルの使い道・2】


 それから俺達は一時間程、魔物で腕輪の力を試して城に帰宅した。

 帰宅後、姫様の部屋に行く前に汚れが付いた状態ではいけないので、シャワーで軽く汗と汚れを落とし、着替えて姫様の部屋に向かった。


「朝早くに何処かに行ってたみたいだけど、昨日言ってた準備の為だったのかしら?」


「ええ、その通りです。その準備が終わって、さっき戻って来ました」


「姫様、今回の本当に凄いですよ! 前回のよりも更に凄い物です!」


 クロエは腕輪の力が凄く、興奮気味にそう姫様に言った。

 普段と違うクロエの様子に姫様、少し戸惑ってるな……。


「まあ、早速そのアイテムを見せますね」


 そう言って俺は【異空間ボックス】から、ミスリルで作った腕輪を取り出した。

 一瞬、姫様は何で腕輪? といった様子で見ていたが、徐々にその腕輪の材料に気が付いて「えっえっ?」と混乱した。


「こ、これってまさか、いやでもこの辺じゃ採れないし……ジンさん、この腕輪の材料って」


「はい、そちらの腕輪の材料にミスリルが使われています」


「……」


 俺の言葉を聞いた姫様は、腕輪を一度、二度、三度と三度見して「嘘でしょ!?」と叫んだ。

 う~ん、物凄く綺麗な三度見だった。


「これって、本物のミスリルなの?」


「態々、偽物を持ってきませんよ。正真正銘、ミスリル鉱石が使われた腕輪です。なんなら持ってきて、少しだけ魔力を流してみたら分かりますよ」


 俺はそう言って姫様に腕輪を手渡すと、姫様は少しだけ魔力を腕輪に流しその腕輪が本物のミスリル鉱石が使われていると理解した。

 そして、姫様は驚いた顔をしたまま「どうやってこれを手に入れたの」と聞いて来た。


「昨日、帰宅してくるのが早かったですよね? あれ実は、ダンジョンでミスリル鉱石を掘るのに長時間集中して、探索が出来ないって判断して帰宅して来たんですよ」


「……おかしいと思ったわ。本当だったら今日帰って来る筈なのに、何処も怪我とかしてないのに早く帰って来たもの」


「ミスリル鉱石って、掘るのが滅茶苦茶難しいんですよね。少しでも気を抜けないから、一時間集中を続けたら、その後暫く歩く事すら出来ませんでしたから、それで流石にこの状態はヤバいってなって帰還する事にしたんです」


 そしてダンジョンから戻ってきた俺達は、ミスリルを手に入れたのでそれを加工してもらうためにリーザの元に向かったと続けて説明した。


「えっ、この腕輪もガフカの工房のアイテムなの? ジンさん、そんなに気に入られてたんですか?」


「まあ、ボチボチ関係は築けてますね。何でこうして、姫様に渡す分も作って貰えました」


 リーザに昨日頼んだのは、俺とクロエの分は確実に作って欲しい。

 リーザが良いなら、姫様や今後出来るかもしれない仲間の分も作って欲しいと伝えた。

 確実に作って欲しいと伝えたのは俺とクロエの分、それ以降の腕輪に関してはリーザが作ってくれるなら作って欲しいと頼んだ。

 本来リーザは目の前に来た相手の分か、それこそ自分が気になってる相手のアイテムしか作らないと設定に書かれていた。

 俺はそれを知っていたので、自分達の分以外はリーザに任せる形で頼んだ。

 その結果、リーザは3つも余分に作ってくれて、これはあのミスリル鉱石の限界で作れる量だった。


「えっ、ちょっと待って今私に渡す分って言った?」


「はい、その腕輪は姫様にプレゼントする用です。リーザが作ってくれないなら、渡せませんでしたけど無事に作ってくたので」


「……いえ、そもそも何で私に渡す前提での話なの?」


 俺達からミスリル鉱石の腕輪を渡される事に疑問を抱く姫様は、意味が分からないといった様子でそう言った。

 まあ、姫様からしたらただの依頼主と冒険者の関係。

 少し親しくなっただけの間柄の相手に、何故ミスリルという貴重な鉱石を使った物を渡すのか理解が出来ないのだろう。

 まあ俺だって、そんな相手からこんな貴重な物を渡すと言われても同じようなリアクションをするだろう。


「お礼の品です。俺を依頼を出して匿ってくれた。最初は色々と怪しんでましたけど、姫様のおかげで外での俺の噂も大分収まって、また冒険者活動も出来る様になりました。それにこの期間のおかげで、俺もクロエも自分達の事を見つめなおしてより強くなることが出来ました。それらも含めてのお礼の品です」


「……だとしても、これは貰いすぎよ。いくら何でも、ミスリルを使った物をお礼として貰えないわよ。貴族でも、ここまでの贈り物は送ってこないわよ?」


 そう受け取れないと言う姫様に対し、俺とクロエは一貫した態度で「受け取ってください」と伝え。

 それから十数分間、姫様と俺達はどちらも折れる事無く、最終的に悩みに悩んで「分かったわ、受け取るわ」と言って姫様は腕輪を受け取ってくれた。


 ……よし、これで姫様の強化も完了だ! これでもしもの事が起きても、ある程度の事は姫様の力で対処できる。

 聖女様としての力もこの時代から大分備わってるみたいだし、そこにミスリルの腕輪があればゲームで活躍していた姫様とそう変わらないだろう。

 そう俺は内心ガッツポーズをしながら考え、腕輪を見つめる姫様へと視線を戻した。

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