第73話 【ミスリルの使い道・1】


 翌日、朝早くから俺はクロエを連れてリーザの店へと向かった。

 朝食も食わずに出てきたから腹が減ってな……そうだ肉串屋のおっちゃんの店に、久しぶりに行ってみるか。


「クロエ、朝食も食べずに出て来ただろ? 少し腹ごしらえしに行ってもいいか?」


「うん、良いよ~」


 クロエから許可を貰った俺は、いつもやってる出店の所へ向かった。

 ……あれ? ロブじゃなくて、何で女の子が店をやってるんだ?

 看板は同じのだから、ロブの店が潰れたとかじゃなさそうだけど……。


「なあ、ロブのおっちゃん今日は居ないのか?」


「すみません。父なら先日階段から落ちてしまって腰を痛めてしまって、今は療養中なんです」


 父って事は、この子はロブの娘なのか?

 ゲームでは登場して無かったから、どんな子なのか気になってたが父親に似ずに結構可愛いんだな。


「階段から、大丈夫なのか?」


「階段といっても、5段ほど上がった所からだったので命に別状は無いんですが、歳のせいもあって腰にダメージが大きかったみたいで」


「あ~、成程な」


 そうロブの娘から聞いた俺は、取り敢えず数本串肉を購入してその場を去った。


「さっきの所、ジン君よく行ってるの?」


「ああ、俺が家から追い出された時、まだ金が無い時に肉を貰ってな。それから、小腹が空いた時に通ってるんだ。あの店というか、あの店の店主に恩を感じてな」


「そんな事があったんだ」


 クロエにロブとの出会いを話しながら、俺達はリーザの店へと歩きながら串肉を食べた。

 そしてリーザのに店に着いた俺達は扉を開けて中に入ると、カウンターの所にリーザが待っていた。


「時間通りね。もう頼まれてた品は出来てるよ」


 リーザそう言うと下から木箱を取り出し、カウンターの上に置いた。

 そして木箱の蓋を開け、俺とクロエはその中身を確認した。

 今回リーザに頼んだ品、それはミスリル鉱石を材料の一部に使った腕輪。


「わ~、凄く綺麗。これ私も付けていいの?」


「ああ、クロエも頑張ってくれたからな、それに腕輪はいくつかあるみたいだからな」


「あの量、全部腕輪にするってなったらこれだけの数になったけど良かったの? 武器とか防具に使わなくて」


「今の所、そっちに投資しなくても十分の物を着けてるからな。それにこっちの方が俺達には重要だから」


 今回作って貰ったミスリル鉱石が使われた腕輪は、ゲームでも登場していた。

 ゲームでの効果は、魔法の威力が上がるとシンプル。

 この世界でも同じなら、良い強化アイテムの一つになる。

 俺とクロエが両手分の1セットずつ付けても、まだ3セット分も残ってる。


「あれだけのミスリルでこんなに作れたんだな」


「本来はここまで作れないけど、ジン達の持ってきたミスリルの純度が良くて一つに使う分を節約できて5セット作る事が出来たのよ」


「成程な……なあ、クロエこの腕輪付けてるとなんか魔力の通りが良くなってないか?」


「うん、私もそれ感じてた。なんだかいつもの感覚じゃないよ」


「確かあたしが聞いた話だと、ミスリルを装飾品として付けてたら魔法の力が上がるって聞いたね。その時は半信半疑だったけど、その感覚が本当なら実際に魔法の威力が上がってるかもね」


 そうリーザから聞いた俺は内心、この腕輪はゲーム通りの性能をしてるかもと思った。

 それからリーザの店での用事を済ませた俺達は、また面白い物が手に入ったら来ると言って店を出た。

 そして、クロエがどうしても魔法を使いたいと言って来たので、王都の外に出て実際に魔法を使って検証をする事になった。


「わ~、凄い凄い! 本当に魔法の威力が上がってるよ~ジン君!」


 クロエは自分の魔法が一気に成長した感覚を味わい、嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振って喜んでいた。

 俺はそんなクロエに「怪我しないようにな」と注意しながら、俺も魔法を試す事にした。

 ゲームでは〝全ての魔法〟の効果や威力が向上していたが、こちらの世界でもそのままなのか検証しておこう。

 それから俺はクロエが魔法の威力で楽しんでる間、使用可能な魔法で色々と検証を行った。


「……性能は完全に同じだな」


 その結果、腕輪の力はゲームとそのままという事が分かり、心の中でガッツポーズをした。


「ジン君、検証終わったの?」


「ああ、終わったよ。この腕輪、本当に凄いな。魔力を使う行動に対して、今まで以上に効果を出すようだ。本当に凄い物が出来てしまったな」


「うん、そうだね。でも、こんな凄いの私達が持っていてもいいのかな……」


「良いに決まってるだろ、俺達が見つけた鉱石なんだから」


 凄い物を手に入れたしまったクロエは、先程までの喜びから一転不安そうな顔をして腕輪を見つめていた。

 俺はそんなクロエに安心させるように言い、気分を変える為に実戦で試そうと提案をして俺達は魔物が出る場所に移動する事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る