第75話 【ミスリルの使い道・3】


「見れば見るほど、この腕輪凄く綺麗ね。流石、ガフカの工房で作られた作品だわ」


 姫様はそう言うと、手に持っていた腕輪を腕に嵌めて「どう? 似合ってるかしら」と俺達に見せて来た。


「ええ、似合ってますよ。装飾は少なめで作ってますが、良い感じに姫様に合ってると思います」


「姫様は普段アクセサリー付けないので腕輪があるだけでも、ちょっと雰囲気が変わっていいと思いますよ。凄く似合ってると思います」


 俺は簡潔に、クロエは姫様の雰囲気の変化を一緒にそう伝えた。

 俺達のそんな言葉を聞いた姫様は、「ありがとう」と嬉しそうに微笑みながらそう言った。

 それから俺達は昨日のダンジョン探索の出来事、ミスリルがどれだけ採るのが難しいかなどの話を姫様にした。

 そしてその日は、姫様に久しぶりに満足してもらえるまで楽しい話をして、本来の仕事を全う出来たなと満足した。


「ジン君、ちょっと良いかな?」


「ユリウスさん?」


 食事も済ませ、二度目のシャワーを浴びた俺は部屋に帰ろうとしていたらユリウスに呼び止められた。

 ……ユリウス、魔力でずっとここに居たの知ってたけど、もしかして俺を待っていたのか?


「先程、姫様の所に伺って来たのですが。あの腕輪、ジンさんが姫様に渡した物って本当ですか?」


「はい、やっぱり平民からの贈り物って駄目でしたか? その姫様にはお世話になったので、お礼の品でもと思いまして……」


「いえ、そういう訳ではありません。私も遠征に行った際は、姫様にお土産として贈り物を渡しているので良いのですが……あの腕輪の材料はミスリルですよね? あれはどうやって手に入れた物なのか聞いても良いでしょうか?」


 姫様に対して贈り物をした事で怒られるかと思ってたが、ユリウスが気にしていたのはミスリルの方か……。


「王都の近くにある岩石山のダンジョンって知っていますよね?」


「ええ、ゴーレムがよく出現するというダンジョンですよね?」


「はい、そこの20層付近の採掘場所でミスリルを見つけたんです」


 特に隠す予定も無かったので、ミスリルの発見場所をユリウスに俺は伝えた。

 するとユリウスは「岩石山……20層……」とブツブツと独り言を言い始めた。


「ユリウスさん?」


「あっ! すみません、その情報ありがとうございます」


 ユリウスは綺麗なお辞儀でそう感謝の言葉を述べると、それだけを本当に聞きに来たようで「おやすみなさい」と言って去って行った。


「……何だったんだ? まあ、ミスリルは希少鉱石だし気になっただけか?」


 そう思いながら俺は部屋に戻り、ベッドに横になって手を伸ばし腕輪へと視線を向けた。

 これがアレば今の能力でも、ある程度の魔物とは戦闘が出来る。

 それに噂の沈静化も大分済んだし、俺が冒険者に登録して数ヵ月の期間が出来た。

 これで今後、何かしら起こしたとしても今回の事よりかは騒ぎにはならないだろう。


「一番いいのは騒ぎにならない事だが、多分無理だろうな……」


 俺が持つゲーム知識の中には、いくつか偉業みたいな形でないと手に入れる事が出来ないアイテムがある。

 その中には俺が欲しい物もあって、どうしても目立つ事になってしまう。


「隠れて取るにも取れないからな……仕方ないと言えば仕方ないし、諦める事は出来ないからな」


 主人公だけが使える専用アイテムなんかも中にはあるが、その中に俺が欲している物は特にない。

 強いて言うなら、勇者の剣はかなり価値のある物だが、あれは勇者の印がある者じゃないと扱えないと言う設定がある為、俺が持っても意味がない。

 だがそれ以外の有用なアイテムを出来るだけ手に入れて、もしもの時に備えておきたい。

 そんな事を考えながら、俺は眠りについた。

 翌朝仕事の準備を終えて、いつもなら居るユリウスの気配がしない事に気付いた俺は姫様にユリウスは何処かに行ったのか聞いた。


「今朝、私の所に来て暫くお休みを欲しいって言って来たのよ。ユリウスが休みたいっていうの珍しいから、今は特にユリウスが必要な時でも無いから許可したけど、何処に行くかまでは聞いていないわ」


「そうですか……」


 姫様にも何処に行くか伝えずに行くって、ユリウスには珍しい行動だ。

 姫様一筋剣聖のユリウスが、姫様を残して消えるなんて……。


「もしかしてユリウスさん、ミスリルを取りに行ったんじゃ」


「えっ、何でユリウスがミスリルを取りに行くの?」


「昨日、廊下で俺の事を待っていてミスリルの事を聞かれたんですよ。それで岩石山のダンジョンで手に入れたって言った時に、何か雰囲気が少しおかしかった気がして」


 俺がそう言うと、姫様は「ユリウスがそんな事を……」と悩んだ表情となった。

 それから姫様は暫く悩むと、ユリウスの実力なら岩石山のダンジョン程度なら、一人でも大丈夫、姫様は自分に言い聞かせるようにそう言った。

 ユリウスの事を心配に思いつつも、気にしない様な素振りを見せ姫様はユリウスが申し出た数日間を過ごした。

 そしてユリウスが休みと言った最終日、ユリウスは帰宅する事は無かった。

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