第69話 【金塊の使い道・3】


 そうして城に帰宅した俺は、姫様の所に向かう前に汗を流す為にシャワー室に向かった。

 その向かう途中、訓練終わりのクロエとバッタリ会った。


「おかえり、ジン君。意外と早く帰ってこれたね」


「ああ、鍛冶師の人も頼んだ物がこんなに早くできるなんてって驚いてたよ。それで、今度また行こうと思ってるからその時はクロエも一緒に行かないか?」


「うん、その時は行ってみるよ。ジン君が物凄く楽しみにしていたっていう鍛冶師さんが、どんな人なのか知りたいし」


 楽しみだな~、というクロエに「俺も合わせるのが楽しみだよ」と言った。

 その後、シャワー室で汗を流し終わった俺達は姫様の所へと向かった。

 そうして部屋に入れて貰った俺に、姫様は「用意できたの?」と聞かれた。


「はい、無事に用意出来ましたよ。これを見たら、姫様は必ず驚くと思いますよ」


「へ~、ここにきてもそんな自信なのね……それじゃ、その私を必ず驚かせるっていう物を見せてくれるかしら?」


 そう姫様から言われた俺は「はい」と返事をして、リーザに作って貰ったツルハシを取り出した。

 すると、姫様はそのツルハシを見ると顔を顰め「何それ」と言った。


「ツルハシです。でも、ただのツルハシじゃないですよ」


 そう言って俺は姫様にツルハシをよく見てくださいと言って、ツルハシをよく確認してもらった。

 そんな姫様は顰めた顔のままツルハシを見つめ、その出来栄えに脳裏にある鍛冶師が浮かんだのか徐々に顔の様子が変化しだした。

 ふふっ、やっぱりこの時代の姫様もリーザの事を知っているな。

 だよな、だってあれだけの実績を持つリーザを姫様が放っておく筈がない。


「嘘、でしょ……ねえ、ジンさんこれを作った製作者って……」


「ええ、姫様が考えている通り〝リーザ・ガフカ〟。ガフカの工房で作ってもらいました」


「ッ! 嘘嘘嘘、あの人は自分が気に入った相手にしか作らないのよ!? 王族相手でさえ、無理って突っぱねる人なのよ!」


 姫様はリーザが製作者だと言うと、驚き焦った顔でそう言った。

 姫様のこんな顔、前世も合わせて初めて見たよ。


「姫様、リーザが少し前に出した依頼の事、覚えていますか?」


「そう言えば、リーザが金塊を欲しがってるって……でも、それは特別な金塊で……って、ああッ!」


「そうです。昨日見せた金塊、あれはリーザが求めていた〝特大サイズ〟の金塊です。俺はそれをリーザの店に持って行って、このツルハシを作って貰ったんです」


 そう答えを話すと、姫様は驚き立ち上がっていたが大きく深呼吸をして座った。


「まさか、あれだけ大事なヒントを貰っていて気付かなかったわ……ジンさん、金塊を見せた時から試していましたね」


「姫様なら知ってるかなと思っていたんですけど、知らない様子だったので賭けに出たんです。事前にリーザの事を気にしてるかどうか、ユリウスさんから教えて貰ってたんで」


「……凄い性格してるわね。王族相手に」


「でも少し楽しかったですよね? いつも暇してるから、偶にはいいかなと思いまして迷惑でしたか?」


 そう俺が聞くと、姫様は「いいえ、楽しかったわ」と満足した様子で言った。

 そんな俺と姫様のやり取りをジッと待っていたクロエは、俺の服の裾を軽く引っ張った。


「ねえ、ジン君。さっきからリーザ、リーザって姫様と言ってるけど、誰の事なの?」


「あ~、クロエは知らなかったな、まあ簡単に言うと凄い鍛冶師が居て王族相手でも自分が気に入らないと依頼を受けない人がいるんだ。そんな人に俺がツルハシを作って貰ったから、さっき姫様はあんな顔をして驚いたんだよ」


 そう俺がクロエに教えると、クロエは「そんな凄い人がいるんだ」とそんな反応をした。


「それにしても、まんまとしてやられたわね。ジンさんがあまりにも挑発してくるから乗ってみましたけど、まさか本当に驚くなんて思いもしなかったわ」


「流石に王族を挑発するのはどうかなって思ったんですけど、最近俺達の話もネタが底ついて来て姫様を楽しませる事出来てないかなと思って、何か出来ないかなと考えた末にやった事なんですよね。昨日はあんな挑発してしまい、すみません」


「良いわよ。私も乗っかっちゃったしね。でも一つ忠告しておくけど、私以外の王族にはやらない方が良いわよ? 私は楽しさをとって何も言わなかったけど、他の王族は違うから」


「はい、面白好きの姫様にしかいません」


 そう俺がニコリと笑みを浮かべながら言うと、姫様は「次も、楽しみにしてねわ」と嬉しそうにそう言った。

 それから姫様は、リーザの作品を見るのが久しぶりだと言って、ツルハシをもっと確認させて欲しいと言った。


「良いですけど、危ないので手に持ったりしないでくださいね? 姫様を怪我させたりしたら、流石に俺の命の保証はないんで」


「分かっているわよ。触れないから安心して」


 そう言って姫様は、ジックリとツルハシを見始めた。

 その後、就寝時間ギリギリまで俺達は帰して貰えず、明日も見せて欲しいと姫様に頼まれた。


「あの姫様があんなに食いつくって、本当に凄い鍛冶師さんの作品なんだね」


「まあ、何年も前から作って欲しいって頼んでるけど、リーザが断ってるらしいからな」


 俺の言葉にクロエは「凄いねその人」と、リーザの王族相手にも変えない態度に対してそう感想を言った。


「……ここだけの話、リーザって基本気に入った相手にしか作品を作らないと言ってるけど、王族相手にはもっと厳しく判断して、今まで王族で作って貰った相手は片手で足りる数しかいないらしい」


「えっ、それじゃあ姫様がリーザさんに作って貰うのって……」


「相当難しいと思う」


 そう言うとクロエは、後ろを振り返り姫様の部屋の扉を可哀想な眼で見つめた。

 それから俺達は自分達の部屋に帰って来て「おやすみ」と言って、それぞれの部屋に入った。


「遂にリーザのツルハシを手に入れた。これで鉱石採取も出来るようになったぞ……後、必要な物が揃えたら、そろそろ王都から姿を消す準備を始めないとな」


 本編開始まで三年あるとはいえ、悠長に構えていたらまた主要キャラと出会ってしまう。

 出来るなら国を出たい所だが、多分もう色々と関係を作ってしまっているから、あまり遠くには行けないだろう。


「せめて王都から離れる位はしておかないとな……」


 そう思いながら俺は計画を練りつつ、ベッドに横になり眠りについた。


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