第52話 【元婚約者・2】


 今回のこの話し合いの発端は、先日の俺の家を調べる事になったのがそもそもの原因らしい。

 ラージニア家がジンは体弱いと設定付け、生まれてから殆ど家から出さなかった。

 ただ家柄的にはラージニア家の長男、婚約相手として当時は色んな家から打診もあった。

 その中に後の婚約者となるルフィオス家もあり、結果的にジンはルフィオス家のフローラと婚約する事になる。

 だが婚約後もジンは家から連れ出される事は無く、家同士の集まりの際でさえジンは出されなかった。


「それが結局、数年間も続き結果的に病が治らないから婚約の破棄をしてくれと一月前に頼まれ、確かに一度も外に出れない程だったらと思い婚約破棄の手続きをした」


「……そしてその相手である俺が、元気に冒険者をしてるから話を聞く為に王城まで出向いたと」


 そう俺が言うと、ノヴェルは頷き真剣な眼差しで俺を見つめて来た。

 まさかゲームだと完全に最初から最後まで敵対していた相手と、こんな風に落ち着いて喋るとは思わなかったな……。


「ジン君、君の生きたこの12年。何が起きていたのか真実を話してくれないか?」


「……良いですけど、信じるか信じないかはノヴェル様に任せます」


 そう言って俺はジンの生きた12年間と、俺の持つジンの設定をこの場で話をした。

 その話を姫様とノヴェルは静かに聞き、全てを聞いたノヴェルは溜息を吐きつつ天井を見上げた。


「古くからある由緒正しいラージニア家でそんな事が起こっていた何て、私は近くに居ながら全く知らなかった……ジン君、すまない。近くに居ながら、何も出来なくて」


「ッ! の、ノヴェル様のせいじゃないですから! ですので、顔を上げてください!」


 ノヴェルは俺の話を聞き、自分が動けば良かったと感じたのか頭を下げて来た。

 そんなノヴェルに俺は驚き、顔を上げる様にお願いした。


「いや、私にも落ち度はあった。婚約者となった相手の家を信じすぎて、ジン君の見舞いに一度も行けてなかった。一度でも顔を会わせていれば、彼等の言い分が間違ってる事に直ぐに気付く事が出来た筈だ」


「いや、だからそこは俺の家族の問題で、ノヴェル様に悪い所はありませんよ!」


 ああ、そうだった! ノヴェルは貴族としての考えをを持つ人間で、貴族に反する行いをする者に対して嫌悪を抱くキャラだ。

 それでラージニア家が貴族として自身の子を捨てるような真似を、身近にいながら守れなかった事に自分も悪いと考えてるんだ。

 くそ、面倒だぞこの状態のノヴェルは……。

 本編でも一度、貴族の行いに反した時も面倒で主人公を操作していた俺はノヴェルの元気を取り戻す為に奔走させられた。


「ノヴェルさん、今後について話し合いをしたいと申し出たからこの場を作ったのですから、話し合いが進まないのでしたらこれで終わりますよ?」


 ノヴェル相手に姫様は、全く動じずにそう言った。

 そんな姫様の言葉を聞いたノヴェルは、ハッとした顔となると顔を上げて深呼吸をした。

 マジか、あの状態のノヴェルをたった一言で治すとは姫様は凄いな。


「す、すみません。少し、取り乱してしまいました……」


「気持ちは分かります。私もジンさんの過去を知った時は驚きました。ですが、今は驚く時ではないです。これからどう動くのか、それを考える為にこうして話し合いの場を作ったんですから」


「そうですね。ジン君もすまないね。折角、来てもらったのに元婚約者の父親が取り乱してしまってね……」


「まあ、その落ち着いたなら良いですけど……」


 何とか正常に戻ったノヴェルは、俺にも謝罪の言葉を口にしたので俺はそう返した。


「それでノヴェルさん、ジン君の話を聞いてこれからどうするおつもりですか?」


「一先ずは、国王と共にラージニア家の調査をしようと思います。これはジン君の為というより、自分の気持ち的にも貴族に反する事をする者達を許せないからですが」


「貴方ならそうするでしょうね。でもそれは態々ジン君と話さなくても、決めていた事じゃないの?」


「悩んでいた段階でした。ですが、話を聞いて私の予想以上でしたので動く事を決めました」


 ノヴェルは、真剣な眼差しで姫様を見ながらそう言った。

 そして今度は俺の方へと視線を向けて、何やら真剣そうな雰囲気を感じた。

 な~んか、嫌な予感がするぞ……。


「ジン君、予定が開いている日で良い。フローラと会ってくれないだろうか?」


「ふ、フローラさんとですか……」


「今日話した事は娘にも話す予定だ。多分、私の予想ではフローラはジン君と会いたいと言う筈だ。娘もジン君と話したいと言って、付いて行くと言ってたのを止めて一人で来たんだ。お願いできないだろうか、ジン君?」


 ノヴェルから真剣な表情でそう言われた俺は考え、思考を巡らせた結果。

 一度だけ会おうと決め、ノヴェルに「分かりました。会います」と言った。

 その後、フローラと会う日を来週の仕事が休みの日と決め、場所はルフィオス家と決まった。

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