第53話 【元婚約者・3】


 そして一週間が経ち、俺は王城から借りた馬車でルフィオス家へと訪れた。

 本編では一度も来る事が無かった婚約者であるフローラの家に、こんな形で来るとは思わなかったな……。

 そう思いながら俺は、ルフィオス家の敷地内に入れて貰い客人用の部屋に通された。

 フローラは後ほど来ると従者に言われ部屋で待つ事数分、部屋の扉が開きフローラが現れた。


「……こうして会うのは初めてですね」


「そう、ですね。元々婚約関係だったのに、不思議ですね」


 フローラの言葉に俺はそう言うと、フローラはコクリと頷き真剣な眼差しで俺を見つめて来た。

 ちょっ、待てこの感じノヴェルさんの時の同じだぞ!


「ジン君、ごめんなさい!」


「ッ!」


 俺の予想通り、フローラは俺に対し頭を下げて謝罪して来た。


「フローラさん、頭を上げて下さい。今日来たのは、謝罪をされに来たんじゃなくて話をしに来たんですから」


 そう俺はフローラに言い、一先ず向かい合う様にそれぞれソファーに座った。

 12歳のフローラはゲームで見る事無かったが、この歳からここまで整った顔をしていたのか。

 母譲りの青い瞳に、父譲りの銀の髪を持つフローラは、ゲームでトップに入る人気キャラだ。

 外見だけでなくフローラはキャラとしても強く、序盤から仲間になり最終盤面まで使えるフローラは多くのゲーマーから人気があった。


「それでフローラさん、どうして俺と話がしたいとノヴェルさんに頼んだんですか?」


「……手を差し伸べる事も出来ず、ジン君を見捨てしてしまった事、婚約者なのに寄り添えなかった事をお父様にジン君の事を聞いて、謝りたかったんです」


「別に、フローラさんが謝る事じゃないですよ。全部、俺の家の問題ですし、逆にフローラさんに迷惑が掛かってなかったのか俺はそれが心配でした。あんな境遇の俺と婚約者でしたから」


「特に嫌な思いはしてませんでした。ただ寂しい時はありました」


 フローラは少し恥ずかし気にそう言い、そんなフローラに俺は心の中で「可愛いッ!」と叫んだ。

 正直、俺はフローラと会う事を拒もうとしたのは、俺も前世ではフローラ推しの一人だったからだ。

 そんな奴が現実世界で、目の前にフローラが現れたらどうなると思う? 興奮で思考がおかしくなるに決まっている。

 俺は今、何とか転生してから鍛えて来た精神力で何とか持ち堪えているがいつ決壊するか自分でも分からない。


「その、それはすみませんでした……」


「あっ、いえ! ジン君が謝る事じゃないですよ。ジン君は、家から出たくても出れない状況だったとお父様から聞いてますから」


「それでも、婚約者としての行動が出来ていなかったのは事実ですから」


 そう俺が言うと、フローラはアタフタとして「か、顔を上げてください」と先程俺が言った言葉と同じ言葉を発した。

 その事にフローラは言った後に気付き、俺と視線が合うと俺達は笑い合った。


「フローラさん、これで過去の事は一旦終わりにしましょう。過去は過去ですから、これからについて話しをしましょう」


「……そうですね。こうして今、ジン君と楽しく会話も出来ている事に神様に感謝しないといけません」


 フローラはそう言うと、手を合わせて感謝の言葉を口にした。

 それから俺とフローラは、俺が冒険者になってからの事を話したり、フローラの趣味の話をしたりして楽しい時間を過ごした。

 そしてフローラは習い事の時間になったらしく、フローラと交代する形でノヴェルさんが部屋に入って来た。


「ジン君、フローラと会ってくれてありがとう。あの子の笑顔、久しぶりに見る事が出来たよ」


「えっ、ずっと話してる時笑ってましたよ?」


「ジン君との婚約を破棄してから、フローラはずっと笑ってなかったんだ。最初は病に伏せていた婚約者であるジン君の見舞いに、一度も行けなかった事に対して落ち込んでいたんだが、ジン君の話を聞くや自分の行動をずっと責めていてね……」


 最近は眠る事さえままならなくて、睡眠不足が続いていたとノヴェルは言った。


「今日、ジン君と話せたことであの子の中に溜まっていた悩みが消えたんだろう……ありがとうジン君、あの子と会うと決断してくれて」


 そうノヴェルからお礼の言葉を俺は貰った。

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