第51話 【元婚約者・1】


 ギルドでの報告会の翌日、仕事の休みの俺は昨日買った訓練用の道具を使う為に訓練場へとやって来ていた。


「お~、今日も訓練するのか? 折角の休みなのに休まないのか? 昨日も休みだったのに訓練場で訓練してたんだろ?」


 訓練場に行くと、よく顔を合わせている兵士にそう声を掛けられた。


「習慣になってるんでよ。下手に止めたら、ズルズルと止めそうなんで」


「あ~、成程な。兵士の中にも偶に居るよ。訓練を一日休んだら、次の日もってそんでいつの間にか同僚と差が開いてたりしてな」


「そう言う訳なんで、一応毎日訓練してるんです」


 そう俺が言うと兵士は、「そうか、まあ頑張れよ」と言って去って行った。

 兵士と別れた俺はいつもの場所に行き、訓練用の道具を取り出して訓練を始めた。

 昨日購入した訓練用の道具、それは魔力を込める事で重さが変わる棒の魔道具。

 何の為にこんな物があるのか最初見た時微妙に思ったが、訓練用と考えるとまあまあ使える魔道具だ。


「ジンさんそれ何ですか?」


 大分重く設定した棒を剣の様に振って訓練をしていると、ユリウスがやって来てそう尋ねて来た。


「訓練用の魔道具です。魔力を込めると重さが変わって、普通の剣で素振りするより訓練になるなと思って買ってきたんです」


「そんな魔道具があったんですね……」


 ユリウスは俺の魔道具を興味深々といった様子で、ジーと見つめて来た。

 そんなユリウスに俺は「振ってみますか?」と尋ねると、眼をキラキラとさせて「はい!」と大きく返事をした。


「まず普通に棒を持って、魔力を手に集中させると棒がその魔力を吸ってくれるので好きな重さで魔力を止めるとその重さで固定されます」


「おお、こんな感じなんですね! これ終わる時はどうすればいいんですか?」


「終わる時は棒の先にある印に魔力を流すと、中に入れた魔力が消えて重さも普通の重さに戻ります」


「成程、凄く良く出来た魔道具ですね。訓練用の重りはありますが、これは一つで色んな重さに変える事が出来て凄く便利ですね」


 ユリウスは魔道具を説明を聞き終えると、魔道具の感想をそう言った。

 それから少しユリウスは魔道具を使うと、満足した様子で「ありがとう」と言って魔道具を返してくれた。


「これは良い魔道具ですね。訓練用として兵士に導入するのも有りだと思いますよ」


「数が用意できるか分かりませんが、一応購入したお店の人に今度言っておきましょうか? 兵士の分を用意できなくても、ユリウスさんは個人的にも欲しい感じですよね?」


「はい! 私の分だけでも用意して貰えたら、有難いです」


 そう俺の言葉に言ったユリウスは、用事を思いだしたと言ってこの場から去り俺は訓練を再開させた。


「ジンさん、ちょっと良いですか?」


「んっ? はい、何ですか?」


 訓練を再開させて2時間程、集中して訓練をしているとメイドに声を掛けられ中断した。

 う~ん、良い感じに集中してたんだけどな……。

 そう思いつつ、俺は汗をタオルで拭いてメイドさんの方へと顔を向けた。


「フィアリス姫がジンさんをお呼びしておりました。ジンさんに御用のある客人が居ると仰ってました」


「俺に客ですか? ……はい、分かりました。直ぐに向かいます」


 メイドにそう言った俺は、急いでシャワー室に向かい汗を流して姫様の部屋に向かった。

 流石に汗臭いままで行くのはと思ってシャワー浴びたけど、そのまま行った方が良かったかな?

 向かう途中、そんな事を思いながら部屋に着いた俺はノックをして部屋の扉を開けた。


「すみません、遅れました」


「急に呼んだから仕方ないわ」


 急いできた俺に対し姫様はそう言い、俺は部屋の中に入り部屋に居たもう一人の人物の顔をみて固まってしまった。

 ……マジか、何でこの人がここにいるんだ。


「初めまして、では無いな。久しぶりだな、ジン君」


「……はい、お久しぶりです。ノヴェル様」


 ノヴェル・フォン・ルフィオス。

 俺の元婚約者フローラ・フォン・ルフィオスの父であり、ルフィオス公爵家の現当主。


「まさか、君がここで過ごしているとは思わなかったよ。ラージニア家からは、ジン君が病で倒れ日常生活も出来ない程になったから婚約を破棄してほしいと言われたんだけどな」


「あ~、いやその……」


 この人、作中でもかなりの怖いキャラだったけど、本物は更に怖い。

 身長190㎝ありガタイも良く、アンドルと殆ど変わらない体格をしている。

 そんなノヴェルは〝魔法剣士〟という作中でも数少ない、魔法と剣術を得意とするキャラだ。


「ノヴェルさん、ジンさんが怖がってますからそのオーラを収めてください。ジンさんは被害者なんですから」


 ノヴェルに怖がっていると、姫様が助け舟出してくれた。

 その姫様の言葉に、ずっと俺を威圧していたオーラが消えた。


「すみません、姫様。つい、ジン君から強者のオーラを感じて試してみたくなりまして」


「試すならまた別の機会にしてください。ジンさんにはお休みの中、ここに来て頂いているんですから」


「そうでしたね。すまないねジン君」


 ノヴェルは姫様の言葉を聞くと、そう俺に謝罪をしてきた。

 いや、マジで何でここにこの人がいるのか、それを早く聞きたいんだけど!?

 そう思いながら俺は姫様の方を見て、眼で訴えかけた。


「色々と混乱してると思いますので最初からお話しますね。最初に言っておくと、今回の事は私が事前に用意した事ではないとだけお伝えします。前回の事があるので、だまし討ちみたいな事はしないと決めたので」


「まあ、約束してくれましたからね……」


 姫様は自分がこの場をセッティングした訳ではないと、最初に弁明の様な事を言い最初から事の顛末を話してくれた。

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