第43話 【学園へ・2】

 移動後、護衛の俺達は姫様の近くで式を受けて、再び教室へと戻って来た。

 始業式、ゲームではカットされていたから内容は分からなかったけど、前世の物とあんまり変わらなかったな。


「姫様、この後は何かあるんですか?」


「例年通りなら、今日は始業式だけで終わりの筈よ。終わりだったら、あなた達を連れて学園を案内しようと思っているわ」


「姫様が案内してくれるんですか?」


「ええ、その方がジンさん達も良いでしょ? それに私と離れたら護衛の意味もないですしね」


 そう姫様から言われ、確かになと納得した。

 その後、担任の先生が戻ってくると少しだけ連絡事項を述べると、今日はこれで帰宅しても良いと言われた。

 

「ジュン君、凄いね。王都にこんな凄い学園があったなんて、私初めて知ったよ……」


 クロエは姫様から案内されて色々見て回った後、そう感想を言った。

 俺もゲームである程度知っているとはいえ、実際に見て回ってこの学園の凄さを感じた。


「ここまで学生の為に動いた当時の王は、本当に民衆想いの人だったんだろうな」


「王族の中でも特に民を思う方だったと、お父様が言っていたわ。私が生まれる少し前に老衰で亡くなったらしいのだけど、もう少し早くに生まれていたらその方の話を直に聞けたと思うと正直悔しいわ」


「確か、今の王様の祖父でしたよね。姫様が生まれるまで生きていたって、それヒューマンにしては長寿でしたね」


「なくなる少し前まで得意の剣術を披露していた程、体力のある方と聞いてます。亡くなったのが今でも信じられないと、偶にお父様やおじい様が言っていますわ」


 会って色んな話がしたかったと、姫様はそう言うと学園の案内に戻った。

 流石に一日で全てを見て回る事は出来ない為、今後通るであろう場所や主要施設だけ案内してもらい俺達は王城へと帰宅した。

 帰宅後、一応護衛の仕事は学園内だけなのでそこで一度、仕事は終わりで自由行動の時間となる。

 外出も自由に出来るのだが、特に用事もない俺やクロエは王城の訓練施設を使わせてもらって体を動かす事にした。


「ねえ、ジン君。この間、ユリウスさんと戦った時に思ったんだけど、もう少し魔法を訓練した方がいいかな?」


「……」


 クロエのその質問に対して、俺は少しだけ悩んだ。

 ゲームでのクロエは、自分の事しか信じないタイプの人間だった為、今の様な斥候スキルだけでなく魔法や剣術、終いには暗殺に向いたスキルなども習得していた。


「そうだな、出来る様になっておくと作戦の幅も広がるとは思う。今後、直ぐに仲間を増やす予定は無いし、訓練をしておいて損はないと思うな」


「……そうだよね。うんっ! じゃあ、魔法の訓練頑張ってみる」


「俺も手伝える事があれば手伝うから、何でも言ってくれよ。まあ、俺は独学でやってるからちゃんと教える事が出来ないから、訓練相手くらいにしかならないけどな」


 そう言うとクロエは「それだけでも有難いよ!」と言って、まずは自分で考えて訓練をすると言って人がいない所で魔法の訓練を始めた。

 クロエが魔法の訓練を始めたのを見届けた俺は自分の訓練もする為、訓練用の剣を借りて素振りから始めた。

 この世界に転生して来て俺は今まで実戦で訓練をしてきたから、こうやって敵が居ない状況で訓練をするのは何気に初めてだな。


「……敵が居た方が緊張感があって、訓練になってたかも」


 素振りを終え、脳内で敵をイメージしながら剣を振っていた俺は、そう言って汗をタオルで拭いた。

 今の訓練も別に悪い訳では無いがイメージでしかないから、危機感によって生まれるあの緊張感が無く長く続けれそうにない。


「おや? ジン君、一人ですか?」


「……ユリウスさん」


 不満な気持ちを感じつつ訓練を続けていると、ユリウスが訓練場に現れ俺に声をかけて来た。


「遠くから見ていたのですが、訓練に不満を感じてますよね? 剣に気持ちが乗ってなかったので、分かりますよ」


「流石、剣聖ですね。ユリウスさんの言う通り、ちょつと不満を感じながら剣を振ってました」


「それは何故なのか、聞いても良いですか?」


「実戦を経験してから実戦形式でしか、最近は訓練をしていませんでした。そのせいで、緊張感が全く出なくて訓練に直ぐに飽きてしまっているんです」


 見破られた手前、俺は正直にそうユリウスに話すと「成程……」とユリウスは言うと、何故か訓練場の壁にかけられている訓練用の剣を持って戻って来た。

 この流れ、マズいな……。


「それでは、私が相手になりましょう。まだ今日は剣を振っていなかったので、丁度体を動かしたいと思っていた所なんですよ」


 そう笑顔を浮かべて言われてしまい、マズい逃げないとと心の中で考えた。

 このまま戦えば更に、俺はユリウスに気に入られてしまう。

 そう考えた俺は断ろうと思ったのだが、俺の口からは正反対の「やりましょうか」と試合の申し出を受けてしまった。

 ああ! 俺の馬鹿! 今の訓練続けたくないって一瞬考えたせいで、試合受けちまったよ!


「ふふっ、断られると思ったのですが受けてくれるんですね。嬉しいです」


 うぐっ、そこまで見破られている何て……ユリウスの勘の良さを侮らない方が良さそうだ。

 そう考えながら俺とユリウスは、審判役を兵士の一人に頼み模擬戦闘を始めた。

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