第25話 【フィアリス姫・3】

 慌てた様子で弁明する王様を見ながら、俺は心の中で叫んだ。

 何で次から次へと、ゲームでの重要キャラと会うんだよ!

 俺が何をしたっていうんだ!

 家から追放されたから生きる為に冒険者になって、さっさと王都から出ようと思ってただけなのに……。


「それで、お父様はどうしたのですか? 今はお仕事の時間では?」


「昼食の時間を忘れて仕事をしていてな、今から食事にでもと思って部屋を出た所なんだが……その様子だと、儂が一緒は難しそうだな」


「あら、良いですわよ。クロエさんとジンさんには、これからも王城に足を運んでもらう予定なので、早めにお父様に慣れて貰っておいた方がいいですわ」


「「ッ!」」


 姫様の言葉に固まっていたクロエと俺は、ビクッと反応して信じられない者を見るかのような眼で姫様を凝視した。

 そんな俺達の反応を見て王様は考え、平民と一緒の食事何て普通なら断るだろうと俺は安心していた。


「そうだね。一緒に食事させてもらおうかな、儂も空腹で限界だしフィアリスが良いっていうなら参加させてもらうよ」


「ふふっ、それは良かったですわ」


 王様が参加すると言うと、姫様は俺の方を見てニコリと笑みを浮かべてそう言った。

 絶対、姫様俺を困らせる為に王様を食事に誘っただろ……。

 それから俺達は王様と王様の補佐官であり、この国の大臣のベルトス・フォン・ボルトロック様を加え食堂へと向かった。


「じ、ジン君。何でこんな事に……」


「全部姫様のせいだ……」


 食堂に着いた俺達は、グッタリとした状態で楽しそうに喋る貴族様達を見てコソコソと言い合った。

 王族貴族様方は、優雅に食事をしているが俺とクロエは中々喉に通らず、美味しい筈の料理だが食べるのが辛い状況だった。


「そう言えば、フィアリス。冒険者方との話はどうだった」


「私の知らない世界の事を、私と年齢が変わらない方達が体験してるのを聞いて書物に掛かれていない物語を聞いているようで楽しい時間でした」


「そうかそうか」


 姫様が満足した顔でそう言うと、王様はニコニコと笑みを浮かべながらそう言った。

 そういや、この王様ゲームでも娘のフィアリス姫の事を溺愛していたな……。

 ゲームでの王様は、魔王の存在に気を張っていて今より更に威圧的なキャラだった。

 しかしそんな威圧的な王様が唯一顔が崩れるのが、娘であり溺愛しているフィアリスの前だった。

 姫様が勇者と共に魔王討伐に行くといった際は、裏で血の涙を流すほど行かせたくない思いをしていたと設定話に書かれていた。


「娘に楽しい話を聞かせてくれて、冒険者方よありがとう」


「は、ハヒッ」


「いえ、それがご依頼でしたので、国王様からお礼を言われる程の事ではありませんよ」


 王様からのお礼の言葉にクロエは失神しかけたので、代わりに俺はそう王様に言った。

 すると、王様は俺の言葉にニコリと笑みを浮かべた。


「今の言葉は王としてではなく、一人の父としての言葉として受け取ってくれ」


「……分かりました。ですが、平民に対してその様に直ぐにお礼等言わないでください。彼女の様になる可能性もあるのですから」


「ふふっ、君が居るからお礼を言わせてもらったよ。これでも相手の事を見て、話はしてるからね」


 王様は姫様が俺を獲物と定めた時の様な視線を、俺に向けて来てブルリッと体を震わせた。


「王よ。あまり揶揄わないように、彼らは王家が呼んだ客人なんですから」


「すまんすまん。つい、フィアリスが彼を揶揄ってる姿を見て面白いと思ってしまってな」


「だからといって、王がしていい訳ではありませんよ」


 ベルトス様からそう怒られた王様は「気を付けるよ」と反省した様子もなく、そうベルトス様に向けて言った。

 ベルトス様はそんな王の態度を見て、溜息をつくと俺に対して「すまないね」と言った。


「そう言えば、君の事を調べてる際に一月程前に家から出されたというのを見たのだが、それは本当なのか?」


「本当です。一月前に父から、家から出る様にと言われまして今は平民と同じような暮らしをしています」


「ふむ、調べでは婚約者も居たのに、その婚約を破棄してまで家から出されたらしいが。何かあったのか?」


 王様の視線を見るに、虚偽の申告がないのか確認をしたいような視線だった。

 ……成程な、偶然を装ってこの食事会に参加したんじゃなくて、最初から〝俺の事〟を聞きたくて開かれた物だったんだな。

 そう俺は思い姫様の方を見ると、ニコニコとした笑みを浮かべていた。


「……それは王様としての質問でしょうか?」


 改めて王様へと顔を向けた俺は、最後の確認としてそう尋ねた。

 王様はそんな俺の考えを読み取り、緩い雰囲気だったのを引き締め俺へ眼を向けた。


「そうだ。元ラージニア家長子ジン・フォン・ラージニアに対し、一月前に起きた出来事を話す事を命ずる」


「分かりました」


 王様からの言葉にそう返事をした俺は一月前に起きた出来事、姫様にも話していなかった話も含めてこの場で話した。


「……それはほぼ、監禁生活ではないか」


「母が居た頃はまだ平気でしたけど、母の死後はまあ辛かったですね。だから、二択を迫られた時に家から出る事を決意したんです」


 王様の言葉にそう俺が返すと、隣に座っていたクロエが「ジン君は、悪くないのに酷いと……」と涙を流していた。

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