第23話 【フィアリス姫・1】
姫様から指名依頼を受ける事にした俺達は、数日後遂に王城へと向かっていた。
「じ、ジン君。き、緊張で手が……」
クロエは王城に向かう途中、緊張で震えている手を俺に見せて来た。
「心配するな、俺も緊張してる。仲間だ」
「そ、そこは大丈夫だって言ってほしかったよ~」
俺の言葉にクロエはそう言ってくるが、それは無理な話だ。
だって、俺が今から会いに行こうとしているフィアリス姫はゲームでの最重要キャラの一人。
タイトルには〝勇者〟と〝7人の戦女〟の二つしか出ていないが、その2つの役職以外にもう一つこのゲームでは重要キャラが何人か登場する。
その中でもこれから会うフィアリス姫は、ゲームにとって最重要といっても過言ではない程の功績を遺す〝聖女〟の役割を担うキャラだ。
ヒロイン候補ではない為、ゲームでは勇者と結ばれないのだが、ヒロイン達と同等クラスにゲームでは功績を残していた。
「ねえ、ジン君やっぱりやめるとかって無理だよね?」
「まあ、そうだな。既に王家の方に通達が行ってると思うからこの時点で逃げだしたら、冒険者生活に大きく影響するだろう。だから、もう大人しく我慢するしかない」
そう俺が言うと、クロエは深呼吸をするが直ぐに「うう、やっぱり緊張するよ」と言った。
それから少しして、俺達が乗っていた馬車が王城の前に到着した。
デュルド王国、それがゲームの主な舞台であり俺達の住む国の名。
国土は大陸の3分の1程あり、大国の一つ。
自然豊かで鉱山もあり、ダンジョンもあるといった誰もが暮らしやすい国。
そんな国の王族は民に優しく、民から慕われている。
「初めまして、ジンさんクロエさん。私はデュルド王国王女フィアリスと申します」
「銅級冒険者のジンです」
「同じく、銅級冒険者のクロエです」
王城に着いた俺達は、既に待っていた王女様の従者の方達に姫様が待っている部屋まで案内された。
フィアリス姫、年齢は俺より3つ上の15歳。
ゲーム開始時点では18で綺麗な女性だったが、既にこの時から女性として完成しきっているという印象を抱いた。
「ここは私専用の私室みたいな場所ですので、あまり緊張なさらなくても構いませんよ。ある程度の言葉遣いでしたら、誰も聞いてませんから許します」
俺の事はさておき、平民出身のクロエの事を考えてそう言ってくれたのだと直ぐに理解した。
そんな姫様の言葉に俺とクロエがお礼を言うと、早速呼び出した本題に入ると姫様は言った。
「本題、その冒険の話を聞きたいと言う内容でしたが。本当にその理由で呼び出したのですか?」
「あら? 私が嘘の内容で呼びたしたと?」
「……正直、あの理由で呼び出すなら他の冒険者もいます。年代が近いからというのであれば、俺達以外にも候補に入る者はいたと思います」
ずっと疑問だった事を、俺は言葉遣いに気を付けながらそう聞いた。
「……そうですね。確かに他の候補の方もいました。ですが、あなた達程面白味は感じはありませんでした」
「面白味ですか?」
「ええ、クロエさんは冒険者登録して半年程、ジンさんに至ってはまだ一月も経ってないのに鉄級冒険者へと昇格したと耳にしました。それから私はあなた達に興味を持ち調べて貰ったの、そしたら本当に面白いなと感じる事がいくつか出て来たわ」
宿屋は人気のない強面の店主の所で一括で数十日分を確保、登録して直ぐにパートナー登録、元貴族で訓練した姿を見た事が無いのに剣術と魔術の技術が高い。
「……それ全部、俺の事ですよね」
「ええ、ジンさんの事だけでもこれ程、面白い話題がありました。そしてクロエさんも中々に、面白い人物だなと思いこの場に呼び出した。それが本当の理由です」
……そう言えば、思いだしたぞこの姫様の設定!
長い時、王城生活をしていて暇になり、時折面白い人物を探し出しては自分の手元に置く変人姫様!
何でこんな重要な事を俺は忘れていたんだ!?
間違いなく、この依頼は受けるべきじゃなかっただろ!
「あらあら、ジンさんどうしたのですか? そんなにこの部屋は暑いですか?」
焦って汗をかいた俺に、ニコニコと笑みを浮かべながら姫様はそう言ってきた。
「あっ、いや、そんな事はありませんよ。ただ少し緊張してしまって……」
「あら、そうでしたか。確かにクロエさんも先程から、置物の様に固まってますからね」
「……ハヒ」
挨拶からずっと無言だなと思っていたが、緊張でガチガチに固まっていたのか……。
チラッと隣のクロエを見ると、もう真っ白に燃え尽きかけていた。
いや、クロエお前の話題今の所ないじゃん! 狙われてるのずっと俺なんだが!
そう叫びそうになった俺だが、姫様からの視線を感じて前を向くとニコッと笑みを浮かべられた。
「それでジンさんの事で一番気になった点が一つ。ジンさんが元ラージニア家の長男という情報は間違いないのでしょうか?」
「本当です。といいますか、王家ならその辺りの情報は確実に入手できるんじゃないですか?」
「ええ、冒険者のジンさんの情報は本当に入手するのに苦労したと文句を言われましたが、貴族のジンさんの情報は比較的簡単に手に入れる事ができました。その中で一つ、気になった事があるんです」
姫様はそこで一拍置くと、真剣な表情で俺の事を見て来た。
「どうやってそれ程の力を身に付けたのですか? 貴方は存在を疎まれ、閉鎖的な場所で12年間暮らしてきた筈。それなのに王城で警備している者と同等の力を持っていますよね?」
「才能です」
「……才能、ですか?」
「ええ、家に居た頃は証明したとしても意味がない。だったら、いつか家を出た時に自分を守る為に使おうと亡くなった母と決め、密かに訓練をしていたんです。そして一月ほど前に、父アルベール・フォン・ラージニアより家に残るか出て行くかの二択を迫られ家を出る事を決意したんです」
才能と言い切るの少し恥ずかしかったが、勢いに任せて俺はそう説明をした。
そして俺の言葉を聞いた姫様は、難しい表情をして、どうにか内容を飲み込もうと唸り「……分かりました」とそう口にした。
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