第22話 【銅級冒険者の二人・3】

 翌日、ギルドでクロエと合流した俺はこれからについてフィーネさんとリコラさんと話し合いを行うことになった。


「銅級冒険者といえば、新米枠から抜け出した一人前の冒険者と呼ばれています。ですので、このランクからダンジョン攻略の入場が可能になります」


「ダンジョン! ダンジョンだってよジン君!」


 ダンジョン攻略という言葉に、クロエは興奮気味にそう言った。


「前から銅級になったら行くって、楽しみにしてたもんなクロエは」


「うん! だって、ダンジョンといえば夢が沢山詰まってる場所なんだよ? 今はそこまで苦しくないけど、一攫千金も夢じゃないって言われてるし」


「まあ、その分危険も沢山あるけどな」


 この世界のダンジョンの造りは、基本的に難易度ごとに分かれている。

 ダンジョンとは、神が作った試練場。

 神が造ったダンジョンは、人間の〝欲〟を利用した罠が多くあり、その罠でこれまで多くの者達が命を落としている。


「ジンさんの言う通り、ダンジョンは危険が沢山あります。しかし、私共はジンさんとクロエさんなら無事に攻略ができると思っていますよ。ジンさんの戦闘能力と、クロエさんの感知能力。その二つは、他の冒険者よりも高いですから」


 そうフィーネさんが褒めると、クロエは嬉しそうに「えへへ」と笑みを浮かべた。


「まあ、今後はダンジョン攻略を主に活動するという感じですかね? そうなると普通の依頼の方は、どうするんですか?」


「そこに関しては今までとそこまで変わりはないですね。ダンジョン内の魔物や採取物の依頼に変わる感じです。ただ今までみたいに、人を避けた依頼を出す事は困難になります」


「あ~、まあそこに関しては仕方ないですね。ダンジョンに行くなら、人の眼が何処かしらあるのは分かってるので」


 今までは依頼先に冒険者が居ないか確認してもらって、その依頼場所に向かい仕事をしていた。

 しかし、これからはダンジョンという冒険者が多く活動している場所に向かう為、人の眼を避ける事は不可能に近い。


「多少目に入れられる程度なら、まだ誤魔化せる可能性もありますからね。そこら辺は、自分で頑張ります」


 正直な所、既に多少は俺の噂は流れている可能性もある。

 毎日こうしてギルドにやって来ては、パートナーをつけてコソコソと冒険者活動を勤しんでいる。

 そんな怪しい奴を情報が大事な仕事である冒険者が、放っておくはずがないだろう。

 その後、話し合いは進み今後について大体の事が決まった。


「それでは今後はダンジョン攻略を主軸に、探索メインの日と依頼を受ける日をやっていく流れで大丈夫でしょうか?」


「俺はそれで構いません」


「私も大丈夫だよ」


 フィーネさんの締めの言葉に俺とクロエは、そう返事をして話し合いは終わった。

 さてと、それじゃ良い時間だし、昼飯でも食べに行こうかな? そう思い立ち上がると、フィーネさんから「待ってください」と呼び止められた。


「……何か前にも同じような事があった気がするんですけど」


「安心してください。今回は、ギルドマスター関係ではありません」


 一瞬、アスカの事かと思い探りを入れると、フィーネさんからそう否定された。

 ただ俺の嫌な予感は、まだ薄々と感じている。


「本日の早朝にとある方から、ジンさんとクロエさんに〝指名依頼〟が入りました」


 指名依頼とは、腕の立つ冒険者が依頼者からこの人が良いと指名され本来の報酬金に特別手当が出る依頼の事。

 それが俺とクロエに出たという事に対して、俺とクロエは正反対の態度をとった。


「指名依頼って、あの指名依頼ですか!」


「何で俺達に指名依頼が来るんですか……」


「「えっ?」」


 クロエは〝指名依頼〟が入った事に対して喜び興奮し、逆に俺は指名依頼が入った事に何故と疑問を抱いた。

 そんな俺達は互いに見合って、なんでそんな態度何だ? という視線でお互いに見合った。


「この場合、どちらの反応も正しいですので一先ずお話を聞いてもらえますか?」


 そうフィーネさんが言うと、これまでジッと待っていたリコラさんが書類を出して今回の〝指名依頼〟について説明を始めた。


「今回〝指名依頼〟を出した方、それはこの国の姫様のフィアリス・フォン・デュルド様です」


「「ッ!?」」


 依頼主のその名に、俺とクロエは今度は同時に驚いた。


「な、何でお姫様が?」


「はい、そちらなんですが……すみません。私共も詳しい内容は知りません、今朝方姫様専属の従者の方がいらしまして、ジンさんとクロエさんに対して依頼を出したいと仰られまして」


「ジンさん達が来るまでに何があったのか、他の者にも頼み調査してもらったのですが何も分からず、しかし王家からの依頼という事で無下に断るのはと……」


 フィーネさんとリコラさんは「すみません」と謝りながら頭を下げた。

 まあ、国のトップからの依頼を自分達の判断で断るのは酷な事だろう……。


「頭を上げてください。フィーネさん達が謝る事はないですから、それでその依頼の内容ですが何て書いてあるんですか?」


「依頼の内容ですが。姫様が外の話を聞きたいらしく、冒険者であり同年代のジンさん達の冒険話を聞きたいと言う内容です」


「……話をしにいくだけなんですか?」


「そう書いています。依頼時間も半日程度と書いております」


 不思議な依頼に対して、俺とクロエは頭を悩ませた。

 初の指名依頼、依頼内容は意味の分からない内容だが、報酬は流石王家というべきなのか話だけで金貨数枚を払うと書いてあった。


「クロエ、滅茶苦茶怪しいし何かありそうだけど、どうする?」


「初の指名依頼だから断りたくはないし、相手が王家だから変に目を付けられるのも嫌だけど……本当に怪しいよね……」


 それから小一時間悩み、最終的に俺とクロエはこの依頼を受ける事に決めた。

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