第2話 【ゲーム世界・2】
家から出た俺は、王都の貴族区から市民区へと歩いて向かった。
ラージニア家の家があるのは、領地の領主宅と王都のタウンハウスがあり、俺が居たのは王都のタウンハウスの庭の隅に作られていた家だった。
これがもし、領地の方だったら色々と困る所だったが、王都の方で俺は安心した。
「すみません、冒険者登録に来たんですけど、ここで大丈夫ですか?」
「はい、こちらでも登録は受け付けていますよ」
市民区の一角にある大きな建物。
冒険者達の集い場、冒険者ギルドへと俺は足を運んだ。
物語でもかなりこの施設は使われていて、金策やキャラとの出会い等々重要な施設の一つでもある。
登録の仕方は知っていたので、俺はサラッと登録用紙に書き込み、ギルドカードを手に入れた。
「依頼は受けて行きますか?」
「いえ、今日は登録だけにしておきます。装備も揃っていないので」
「そうですか、鍛冶屋をご紹介しましょうか?」
「知り合いのお店に行く予定なので、大丈夫です」
受付嬢からの提案をやんわりと断った。
ここで紹介される鍛冶屋は、確かに腕はいいのだが物語を知っている俺からしたら使う予定の無い鍛冶屋でもある。
「まずは宿屋だな……」
ゲームでも宿屋はいくつか出てきており、その中でも金額が安く設備が整ってる宿屋を思い出しながら向かった。
そして辿り着いたのは、火竜亭という名の食堂と宿屋が一緒になっている場所。
この宿は、シャワーが付いている数少ない宿屋。
ただ一つだけ悪い点なのは、この宿屋の店主が顔が怖い事位だろう。
そのせいで、この宿屋は設備や食事の味は最高なのにも関わらず、他の宿より少し人が少ない。
「連泊予定だが開いてる部屋あるか?」
「空いてるよ。何処が良いか選びな」
顔が怖い上に話し方もそっけない店主からそう言われた俺は、端の部屋を選び10日分のお金を支払った。
俺が持っていたお金の半分だが、ここは必要経費だと割り切って支払った。
シャワー使い放題、朝晩の二食が付いてくるんだ他の宿に比べたら総合的には安い。
「取り敢えず、住処は決まったな。次にする事は、装備の調達だけど正直金が足りないな……」
装備が無いからと依頼を断ったが、装備を揃える金が今は乏しい状況だ。
魔法の力でごり押しで金策しようと思えば出来るが、それだと目立ってしまう。
悪目立ちすれば折角自由の身になれたのに、変な奴等に絡まれたら意味がない。
「どうするのが正解なんだろうな……」
溜息を吐きながら俺はベッドに横になり、取り敢えず夕食まで寝る事にした。
「何だお前、金に困ってるのか? 10日分も一括で払ったから、金持ってると思ってたが」
夕食の時間になり、下におりて食事をしながら考え事をしていた。
すると店主から声を掛けられ悩みを言うと、そう不思議そうな顔をして言われた。
「住処は大事だからな、この場所以外に値段以上な場所は無いから、確保を優先したかったんだよ」
「うちはいつでも空いてるが、そう言ってくれると嬉しいな」
俺の言葉に店主は照れた顔をして、俺はその顔を見てブルッと震えた。
「強面の奴が照れた顔するなよ。より怖いぞ……」
「……人が気にしている事を言うんじゃねえよ」
照れていた店主は、俺の言葉にギッと睨みつけてきた。
「装備に心もとない、目立ちたくない、でも実力は確かにあるんなら、一つ頼みたい仕事がある」
「何だ?」
「ここ最近、市場に肉が少なくなっていてな予備の肉が少なくなってるんだよ。ギルドに依頼を出そうかと思っていた所だ」
「成程な、肉はオークか?」
俺の質問に店主は他の食用の魔物の肉なら、何でも良いと言った。
食用として出回っている肉は、基本的にオークかボア肉。
高級肉として、上位種の魔物の肉もあるが、店主が求めているのはオークかボア肉だろう。
そうして店主から個人依頼を受けた俺は、そのまま宿を出て行き王都の外へと向かった。
ちなみに店主の名前もゲームと一緒で、〝リカルド〟という名前だった。
「さてと、早速こいつの能力を使わせてもらうとするか」
ジンのスキルの一つ、【魔力探知】はその名の通り魔力を探す能力。
これを使えば目的の生物、食用の魔物を探す事も可能。
「……早速群れを見つけた」
俺は早速探知に引っかかった場所に向かうと、そこには五匹のボアが日向ぼっこをしていた。
先手必勝。
俺の姿を視認出来ていないボアたちに向けて、俺は魔法を放った。
放った属性魔法は、風。
他の能力と違って一瞬で殺しきれて、肉を傷めないと考えた。
「上手く一発で殺せたか」
頭部を刈り取られたボア達は、絶命して血を流し倒れていた。
そんなボア達を俺は【異空間ボックス】の中へと入れて、次の獲物を探す事にした。
「この調子なら、依頼分は直ぐに達成できそうだ」
その後、俺は調子には乗らず自身の力を試しながら、オークやボアを狙い狩りを続けた。
そして気が付くと、既に陽が落ちてきており、辺りが若干薄暗くなっていた。
「やべっ! 夕食の時間が!」
色々と実験をしていたせいで、時間が過ぎてる事に気が付かなかった俺は急いで王都へと戻り宿へ向かった。
「遅かったな、もう少し遅かったら夕食は無しだったぞ」
「あ、あぶね~。折角、金払ってるのにもったいない事する所だったぞ……」
そう言いつつ俺は、食堂の席に座り食事が届くのを待つ事にした。
数分後、店主は美味しそうな匂いを出す料理を俺の前に用意された。
「滅茶苦茶美味そうなのに、何で俺以外に人が居ないんだ……ああ、店主の顔が怖いからか」
「良いから、黙ってくえ!」
あまりにも美味しそうだった為、店主を茶化すと店主からそう怒鳴られてしまった。
「ふぅ~、美味かった。あんな上手い飯、家に居た頃も食べた事無いぞ」
「そりゃ、どうも。それでジン、依頼の方はどうだ? 三日間猶予はあるが、少しでも狩って来たんなら貰いたいんだが」
「ああ、ギリギリで帰って来たから渡す暇が無かったな、一応依頼分はもう狩って来たぞ」
「なに?」
店主は俺の言葉に、ギョッとした顔となった。
「……お前、もしかして〝収納系〟のスキル持ちなのか?」
「正解。ちなみに能力で入れた物は時間も止まったままだから、新鮮な状態で保存されているぞ」
「なッ! お前、そんな希少なスキル持ちなのに何で貧乏なんだよ……」
「色々あるんだよ」
店主からの言葉に俺は、そうジト目で睨みつつ言って依頼分の肉を渡した。
「一応、依頼分以上に肉はあるがどうする?」
「倉庫に余裕もあるし、俺が買い取って馴染みの奴等に売るから、買い取れる分は買い取るぞ」
「かなり量があるが大丈夫か? 店で使うって言っても、人少ないのに使えるのか?」
「これでも一応馴染みの客は居るからな? 今はそいつらが王都から離れてるから、いつも以上に寂れた宿なんだよ」
「成程な、人が居ないのに店が成り立つわけも無いからな」
店主の言葉に納得した俺は、取り敢えず倉庫に入る分の肉を店主に渡して金に換える事が出来た。
これで装備を整える分くらいには金の余裕も出来た。
「しかし、よくよく見るとどの個体も綺麗に倒されてるな……」
「風魔法で一発で倒してるからな、見つかる前に倒した奴も居るから死んだ事すら知らずに肉塊になってる奴もいると思うぞ」
「魔法で一発? ……上位の魔法職の奴等なら分かるが、新米冒険者がそれをやるって、お前本当に今までどういう過ごしをしてたんだ?」
「冒険者の個人情報の詮索はご法度だよ」
ニヤッと笑みを浮かべながら俺はそう言って、宿の客なら使えるシャワーで汗と汚れを落として借りてる部屋に入った。
部屋に入った俺はベッドに横になると、疲労が溜まっていたせいか直ぐに眠りについた。
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