【連載】最低キャラに転生した俺は生き残りたい

霜月雹花

第一章

第1話 【ゲーム世界・1】

 聖剣勇者と七人の戦女。

 魔王を討つため聖剣に選ばれた勇者と、勇者と共に戦う為に力を与えられた七人の少女が戦うゲーム。

 ギャルゲーなのにストーリーがかなり作り込まれており、悪役キャラでさえも一人一人個性のある物語。


「なのに何で俺は、悪役キャラの中で一番人気のない最低キャラに転生してんだよ……」


 俺、堂島 仁どうじま じん

 交通事故で意識が飛ぶと、生前かなりやり込んでいたゲームの世界のキャラに転生していた。

 〝聖剣勇者と七人の戦女〟の世界だと気付いた時は、ベッドから飛びはねる程に興奮した。

 しかし、その次に自分の姿を見て気絶する程、俺はショックを受けた。


 ジン・フォン・ラージニア。

 前世の名と同じ名前のキャラだが、こいつはこのゲームの悪役キャラの中で断トツで人気が無く最低なキャラとして知られていた。

 ラージニア侯爵家の長男として生まれたこいつだが、色々と問題を詰め込まれたキャラだ。


「ってまて、今の俺は何歳だ? そこはかなり重要だぞっ」


 急いで俺は、この世界がゲームならと思い「ステータス」と小声で発した。

 すると、俺の前には透明のボードが現れ、俺の情報が詳細に書かれていた。


名 前:ジン・フォン・ラージニア

年 齢:12

種 族:ヒューマン

身 分:ラージニア侯爵家・長男

性 別:男

属 性:火・水・風・土・光


レベル:28

筋 力:442

魔 力:1036

 運 :76


スキル:【鑑定:2】   【状態異常耐性:2】【剣術:3】

    【魔力強化:3】 【火属性魔法:3】 【水属性魔法:3】

    【風属性魔法:3】【土属性魔法:2】 【光属性魔法:4】

    【魔力探知:4】

固 有:【成長促進】【異空間ボックス】

能 力

称 号:神童 加護持ち

加 護:魔法神の加護 武神の加護 剣神の加護


 12歳! って事は、まだ悪に堕ちる前の状態だ!


「ってか、流石。ゲームキャラの中でも屈指のチートキャラだな、この時点でこのステータスって……」


 ゲームキャラには、いくつか特殊なスキルを持ったキャラが何人か居る。

 その中でも、このジンというキャラは最強のチートキャラ。

 生まれた時点で今の持ってる殆どのスキルを持っており、神の加護も複数持っていた。

 そんなキャラが何故、悪役に堕ちたのか?

 それはこいつの環境がそうさせた。


 ジンの生まれは、ラージニア家ではあるが現当主が酔った勢いでメイドに手を付け出来た子供。

 その為、生まれた時から疎まれた存在だった。

 まだ女なら使い道もあったのだろうが、男であったジンは自分の過ちで作った父親からも嫌われていた。

 そんなジンは成長するにつれ、精神がおかしくなっていった。


 ジンが悪役に完全に堕ちたのは、15歳のゲームの序盤。

 婚約者であり、7人の戦女の一人。

 フローラから婚約破棄をされ、主人公に倒されたのがキッカケだった。

 この時、正直俺は二人の問題なのに勇者が入るのはおかしいだろとは思ったが、それが物語だから仕方ないと思い俺は主人公である勇者を操作していた。

 勇者に倒され、フローラを失い、家族からも捨てられた。

 それにより、ジンは悪の道へと進んで行った。


 その後、勇者は戦女達と共に成長をしていき、勇者達の前に悪役となったジンは何度も現れた。

 元の強さが高いジンは勇者達を圧倒し、魔王以上に世界に混乱を招いた。

 非道な行いは当たり前に行い、女子供でも容赦をしない。

 時には何の罪もない相手だろうと、嬉々として残虐な行いをしていった。

 その結果、ジンはこのゲームで〝最低最悪のキャラ〟として攻略サイトなどに書かれる事となった。


「でも、俺はまだその悪役に堕ちる前に転生出来た。これは、今からの物語を変える事ができるぞ……」


 そう思った俺は、気合を入れ行動に移す事にした。

 まず最初にやる事は、自分の能力を再確認する事だと思った俺は部屋着から着替え外に出た。

 使用人が一人も付けられていない俺は、離れでほぼ一人暮らしの状態。

 母親も既に数年前に亡くなっている。


「母親が居なくなったのも、こいつにとっては大きい傷だったみたいだしな……」


 家族から疎まれる中、一人だけジンに優しく接していた。

 しかし、流行り病で数年前に母親が亡くなり、ジンには一人も味方が居なくなってしまった。

 この話には続きがあり、本当はジンの母親は流行り病ではなく毒薬によって殺されたのが真実。

 後にこの話を知ったジンは、ラージニア家を潰したのは言うまでもない。


「さてと、それじゃあ色々と実験をするか。まずは、肉体の動きから確認するか」


 ジンは魔法系のスキルが多いが作中屈指のチートキャラの為、どちらも訓練さえすれば最強クラスに強くなれただろうと考察サイトに書かれていた。

 実際、勇者と剣で勝負した場面でも殆ど魔法しか使ってなかった癖に、勇者と互角に戦っていた。

 勇者とジン、二人の違いは聖剣に選ばれてるか選ばれて無いか、仲間が居るかいないかの2点。

 この二つが無かったらジンは勇者以上の強さを持っていると、開発元の会社が後に明かしていた。


 その後、体を動かして色々と分かった俺は、離れの家に戻り風呂に入り飯を食べながら今後について考える事にした。

 正直、このままこの場に居たら俺としても色々と嫌な事が起こるのは分かっている。


「確かジンに対しての扱いが酷くなって行ったのも、12歳を超えた辺りだからな……これは早急に家を出る算段を付けないとな……」


 そう思っていると、この家の呼び鈴が鳴り玄関に向かった。

 玄関の扉を開けると、そこには本館の執事長が立って居た。


「ジン様、旦那様がお呼びです」


「……分かった」


 そうだ!

 確か、12歳の誕生日を迎えた次の日にジンは当主に呼び出されていた。

 その時、ジンに家を出るか次男のストレス発散用の動く的になるかの二択を迫られた。

 この時、まだ外で生きていけないと思ったジンは苦渋の決断で次男の的になる事を決意して、それから三年間次男の的として生きる事になった。

 いやでも、本当にそう言われるか心配だな……ゲーム世界だったら、そうだけどここはゲームの世界であってリアルな現実……。


「ジン、お前に選ばせてやる。家を出るか、アルフォンスの遊び相手になるかどっちがいい」


 心配は杞憂だったみたいで、当主の他に正妻と長女と次男が居る中、俺は当主からそう言われた。

 よかった! ちゃんと、言ってくれた!


 心の中そう喜んだ俺は、凛とした表情で「家を出ます」と当主に向かって言った。

 その後、俺は本当に家を出るんだぞ? と脅されたが、理解していると言った。

 既に婚約者が居る身なので、その場で直ぐに出されるという事にはならず、婚約者の家に使いの者を出して事の顛末を説明をした文を出した。

 数日後、婚約者宅から了承と書かれた文が届いた。

 そして俺はラージニア家から完全に縁を切られ、一人となった。


「よっしゃあ! 自由の身だ!」


「……」


「……」


 ラージニア家から正式に出された日。

 家の前でそう叫んだ俺に、出て行くのか監視していた執事長と門番から、なんともいえない視線を受けた。

 俺はそれに対し何とも思わず、もう戻って来る事のない家を振り返らず去って行った。

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