第3話 【装備を整える・1】

 翌日、朝食を食べた俺はある場所に向かった。

 その場所は〝商業区〟の裏通りの普通の民家の様な場所。

 店の看板はなく、知ってる者しかたどり着けない秘密のお店。


「珍しいの、こんな若い子が来るなんての~」


 店の扉を開け、中に入ると目の前にローブを被った老婆の声を発する人が立っていた。

 ここもゲーム通り……ゲーム画面で見た時は、ホラーかと思って一回悲鳴を上げたが今回は耐えれたな……。


「ほ~、儂のこの〝入店と同時に目の前に現れ驚かせよう〟作戦を破った者はこれで二人目じゃな、お主中々肝が据わって居るの~」


 カカカッと笑う老婆の様な声質の人物は、俺をジロジロと見ながらそう言った。

 俺の身長だとローブで隠してる顔が見れる為、折角老婆の様に見せかけているのに本来の姿を認識する事が出来ていた。


「……ここからだと、ハッキリと顔が見えるからその無理して〝怪しげな店の老婆〟の設定は止めても良いぞ」


「なッ!」


 俺の言葉に目の前の人物は、ビクッと体を反応させた。


「な、何の事じゃ? 儂はどこからどうみても、老婆じゃろ?」


「それは歳だけだろ? ここからだとハッキリ見えてるんだよ。その隠してる長い耳が」


 追い打ちをかけるかの如く俺がそう言うと、目の前の人物はプルプルと震えだした。

 そしてバッとローブを脱ぎ捨てると、中から凄く美人なエルフの女性が現れた。


「わ、私はこれでもエルフ基準だとまだ若いから! お婆ちゃんじゃないもん!」


「……じゃあ、何で老婆の格好をしてたんだよ」


「そ、それは……こんな裏通りで看板も立ててない、怪しい店に老婆の方が合ってると思って……」


「なら認識阻害の魔法でも掛けておけよ。俺みたいに身長が低い奴が来たら、普通に分かるだろ?」


「ここに来る人は、大体が大人で君みたいな子供は来たことがないんだもん……」


 シクシクと泣き始めたエルフの女性に、俺は少しやり過ぎたなという思いが出た。

 このお店、ゲームの中では中盤以降に使える店の一つ。

 日用品から魔道具、更には武器や防具も揃ってる何でも屋である。

 中盤から使えるこのお店、実は一度ゲームをクリアするとゲーム序盤からも入れる為、もしかしたら入れるかもと思い今日訪れた。


「う~、それで君の名前は何て言うの? どうせ、これからよく来るんでしょ? 私は、シンシアよ」


「ジンだ。よろしく頼む」


 互いに名前を名乗り俺とシンシアは握手を交わした。


「それでジンは何をしに来たのかしら? 見た感じ、装備が無いようだけど武器と防具を買いに来たの?」


「まあ、そんな感じだな。ただ持ち合わせはそこまで無いから、安い物を頼む」


「安い物ね~、うちのお店意外とどれも高価な物を取り扱ってるのよ?」


「これから稼ぐ予定だ。昨日、家を出たばかりで準備をしてる段階なんだよ。取り敢えず金貨2枚までなら出せる」


 そう俺が言うと、シンシアは「分かったわ」と言って店の奥へと装備を見に行った。

 それから数分後、シンシアは戻ってくるとカウンターの上に異空間からいくつか装備を取り出した。


「これ全部で金貨1枚で良いわよ」


 そう言うシンシアの前には、防具一式と片手剣と短剣が一つずつ並べられていた。


「……予算ちゃんと言ったよな?」


「ええ、これから顧客になってくれそうだしサービスしようと思ってね。こう見えて、私って結構人を見る目が良いのよ」


「シンシアが良いなら俺としても持ち合わせが無いから、断る理由も無いが……」


 実際、今の俺は金を極力使いたくない状態だ。

 剣か、前垂れ、どちらか一つでも購入出来れば良いかと思ってここに来たのに、こんなサービス有難みしか感じられない。

 俺はそう思い、まず防具が俺が着れるのか試着する事にした。

 素材は革製、鑑定すると〝リザードマン〟の革で作られた装備だと分かった。

 リザードマンは分類上、竜種である為、その素材で作られた装備は耐久性が高く更には通気性も良い為、暑い場所でも普通に着ていられる装備だ。


「ちょっとだけ大きいが、これ位だったらすぐに丁度よくなるだろう。シンシア、この防具一式と剣。有難く買わせてもらうよ」


「ええ、私も倉庫で眠ってた在庫が売れて良かったわ」


 互いに笑みを浮かべ、俺はシンシアに金貨を手渡した。


「どうする他の物も見て行く? ジンの事気に入ったから、今なら安く売ってあげるわよ?」


「良いのか? 今日会ったばかりの相手に、そんなサービスばかりして……」


「良いわよ。ここは私のお店だもの、それにジンに投資した方が良いって私の勘が言ってるのよ」


 訳の分からない事を言うシンシアを見て、俺はある事を思いだしていた。

 ゲーム時代、シンシアの店では偶にサービスされる時があった。

 大体は強力な敵を倒した後だったり、何か成し遂げた後だったりだったのだが……。

 まあ、深く考えても意味が無いだろう。

 ここはゲームに似ているようで、ゲームの世界ではない事は既に俺が体現している。

 ゲーム通りなら、俺はまずあの家から出る事は出来なかっただろうしな。


「まあ、シンシアがそう言うなら、その言葉に甘えさせてもらうよ」


 そう言って俺は、店の中を見て回る事にした。

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