休日のお昼は
柚木 潤
休日のお昼は
私達二人の休日のお昼は、焼きそば、オニギリ、カップ麺など、簡単なもので済ませていた。
主人が私を気づかっての事なのだ。
私は結婚してからも、毎日のように朝から夜遅くまで仕事に向かっていた。
「休みの日くらい簡単でいいんだよ。」
そう言う主人の優しさにいつも甘えていたのだ。
一緒に買い物に行くと、新作のカップ麺や定番の赤いきつねをカゴに入れてくる主人。
そして、よく力説していたのだ。
「あのアゲの甘味と柔らかさがたまらない。
そう思わないかい?」
赤いきつねは子供の頃からの好物のようなのだ。
買ってくるたびに熱く語ってくるから、私は笑いながら「はいはい」と言って、お湯を入れてあげるのだ。
そんな私達にも二人の子供ができ、しばらく二人でカップ麺を食べることが遠のいていた。
忙しくても、私がなるべく子供達に手作りを食べさせたいと思ったからだ。
主人は夜食にたまに食べていたが、以前のように二人で食べる事がなくなってはいたのだ。
・・・そして、幸せな4人の生活は長くは続かなかった。
突然主人が病気で亡くなったのだ。
下の子はまだ3歳になったばかり。
呆然とする暇もなく、私は子供達のために仕事、家庭と頑張って走り抜けてきた。
そうするしか無かったのだ。
そして、下の子が小学生になった頃だった。
「ねえ、ママのことはよくわかるけど、パパってどんな感じなのかな?
だって、何にも覚えてないんだもん。」
私は今まで主人のことを、以前撮ったビデオや写真を一緒に見ては話をしてきたのだ。
だが、この子の言っている事はそういうことではないのだ。
主人がどんな人だったのかを知りたいのではなくて、自分にとってのパパという存在がどんなものなのかを知りたかったようなのだ。
私は言葉に詰まった。
私はそれを伝えるすべが無いのだ。
私は主人の代わりにはなれないのだ。
下の子は私が困っていると感じたのか、すぐに違う話をしはじめた。
まだ小学校に入ったばかりの子に、余計な気を使わせてしまったのだ。
子供達は何も言わないが、きっと主人がいない事で寂しい思いをしてきたのだろう。
上の子と違って、この子に主人の記憶は全く無いのだ。
2〜3歳当時の事を覚えていなくても当たり前なのだが、私にはどうすることもできないのが辛かった。
そしてそれ以来、下の子がその話をする事はなかった。
ある時、いつものように休日のお昼ご飯を考えていたら、子供達がカップ麺が食べたいと言い出したのだ。
そう言えば、この子達に食べさせたことが無かった。
たまにはいいかもと、3人でスーパーに買いに出かけたのだ。
すると、下の子が赤いきつねに目をつけたのだ。
以前からCMを見て気になっていたようなのだ。
私達はそれぞれ食べたい物を手に取り、家に帰ってみんなで食べることにした。
「ママ、休みの日くらい、簡単なご飯でいいよ。
みんなでのんびりしようよ。」
以前主人が言っていたような言葉が二人から聞けたのだ。
子供達はいつの間にか、私を気遣う言葉が出るくらいに大きくなっていたのだ。
そして、赤いきつねを食べながら力説している子がいたのだ。
「このアゲ、甘くて柔らかくておいしいね。
絶対また買わなくちゃ。」
私はつい笑ってしまった。
だって、主人そっくりな顔をした下の子が同じようなことを言っているのだもの。
「パパとおんなじこと言ってる。」
「え?そうなの?」
二人は興味津々で主人のことを聞いてきたのだ。
私が今、出来る事をしよう。
主人の代わりはできないし、主人がどんな人だったかを子供達に伝えるくらいしかできないのだ。
でも、それができるのは私しかいないのだ。
そして、私は続けた。
「その時パパはねー」
3人でその場にいない主人を笑ったのだ。
いや、近くにいたのかもしれない。
主人の写真を横目で見ていたら、笑っているように見えたのだ。
休日のお昼は 柚木 潤 @JUNMM
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます