竜宮城から帰ってみたら数百年後の未来だった俺は得た知識を駆使して無双してみたんだが3

 あれから宇宙開発部をさくっと立ち上げた浦島太郎は早速開発を始めた。

 しかし、宇宙開発のノウハウもあまりない状態での開発は難航を極めた。


「成果が出ぬと株主からもつつかれかねませんぞ。どうにか今期中にあらかたの成果を出さねばなりません」

「そんなもん黙らせとけ! 宇宙開発はまだまだこれからなんじゃ」

「そんな悠長なこと言ってはおられませんぞ」

「うるさいぞ、鶴田! 営業のお前がしっかりしとらんからじゃろ!」

「なんだと! もう一回言ってみろ亀田ァ!!」

「ちょ、ちょっと喧嘩はやめて!」


 言い争いも増えて現場はピリピリだ。

 宇宙開発は本体部分を亀田が総括し、宇宙服の開発はリエラが協力して作成している。営業は鶴田、全ての総指揮が浦島太郎だ。


 開発はひとつできれば他のところに不具合が発生しトライアンドエラーの連続だ。なかなか順調には進まない。

 そして、開発の危機は外からもやって来る。


「浦島、大変ですぞ! 大手銀行から融資の打ち切りを申し出されました!」

「大変じゃ、浦島! 兎工業から妨害されて機材の搬入が大幅に遅れておる! 予定が崩れるぞ!」

「どうしますか、浦島!」

「浦島!」

「浦島太郎……」


「ううむ……」


 浦島太郎は机にひじをつき手を組むと考えた。

 そしてしばらくの長考の末結論を出した。


「よし、融資を打ち切られたならば新たに銀行を設立すればいいじゃろ」

「はい!?」


 さっくりと簡単に答える浦島太郎にリエラは驚いた。

 そんなんでいいのだろうか。


「ないのなら作ればいいのじゃよ。なぁに、いつかは銀行も手がけてみたかったからの。これも好機じゃて」

「え。いいの? そんなんで」


 これが行動力のありすぎる大人か。早速問題解決のために人手を呼び動き出す浦島太郎に頭が下がる。


 そして、設立した竜宮城銀行は後にメガバンクへと急成長したそうな。



「それと、兎工業の妨害じゃったな。うちを敵に回すとどんなものか目にもの見せてやれ」


 浦島太郎はにやりと笑った。

 それからしばらくして、なぜだか兎工業㈱は不正が発覚し、株価が急落して窮地に陥った。しばらくはこちらに手出しする余裕もないだろう。


(権力のある大人怖い……)


 リエラはガクブルと震える。

 浦島太郎は権力と行動力の塊だった。

 とてつもなく素早く問題が解決していく様にリエラごくりと息を飲んだ。


 しかし、それでも開発は困難を極めた。難局に各々が頭を抱えた。


「なにか状況を打破できるものはありませぬかな……」

「フン、儂は開発をするだけじゃて……」

「ぬう、なかなかに進まぬものじゃな……」

「うーん……」


 頭を抱える。流れに流されここまで来たリエラだったがいつしか本気で宇宙を目指していた。

 どうにか叶えたい、この夢。


「あっ! ねえねえ、玉手箱開けてみない?」


 ふと、思い出した。『鶴の恩返し』も『兎と亀』も話が終わっている。――ちなみに鶴の恩返しは鶴(リエラ)が逃げ切ることはできなかったが……。

 終わっていないのは『浦島太郎』の玉手箱のくだりだけだ。それを開けてみればなにかが変わるかもしれないと思ったのだ。


「玉手箱? なぜそう思ったんじゃ?」

「煮詰まってるときに考えてもいい考えが出ないでしょ? なにかびっくりすることがあればいいんじゃないかなと思ったの」

「うーむ……」


 浦島太郎は社長室の飾り棚にある玉手箱を見た。


「それもそうじゃな。少し息抜きに開けてみるか」


 おじいさん三人は応接セットに座ると玉手箱を囲んだ。


「して、鶴のお嬢さんはどうしてそんな端っこに立っておるのじゃ」


 部屋の一番端にぺたりとくっつくリエラに浦島太郎は首を傾げた。


「いえいえ、おかまいなく」


 壁の一部となったリエラを放っておいて三人は玉手箱に向き直った。


「……よし、あけるぞ」


 浦島太郎は箱にかかっていた紐を解き、蓋に手をかけた。

 そしてゆっくりと持ち上げる。


 すると中からぼわんと煙が立ち上った。


「な、なんじゃっ!?」


(骨とおばあちゃんだけは……っ! 骨とおばあちゃんだけは勘弁してっ!)


 ぎゅっと目をつぶる。

 やがて煙が消えていくとリエラはそっと目を開いた。


(おじいちゃんたち、骨にはなって、ないね。私もおばあちゃんにはなってなさそう)


 煙が残る部屋を見回し自分の手を見て、状況が変わっていなさそうな様子にリエラはほっと息をつく。

 そして玉手箱の蓋を持ち上げたまま箱を覗き目を見開く浦島太郎が目に入った。


「なんと、これは……」

「ど、どうしたの?」


 驚き目を張る浦島太郎にリエラは近付いていった。


「これは……ネジ?」



『あんたもアタシもネジなんだよ』


 浦島太郎の脳裏に昔あの人に言われた言葉が思い浮かんだ。


 ――うらぶれた場末のスナックでタバコをふかす厚化粧の女が呟いた。


『いきなりだな乙姫。なんだよ、それは』

『分かんないかい? ネジは一本じゃあ役に立たない。だけどね、ネジがなけりゃ機械は作れない。一本一本が大事なんだ。それは同じさ魚も人間も、ね』


 snack竜宮城。そこのママ、乙姫は若い男にそう言う。


『ネジの質が良けりゃ機械の質もぐんと上がる。機械の耐久性を上げたけりゃネジの質も上げなきゃならない。ネジひとつにだって高度な技術が必要さ。あんたもなんな。質のいいネジにね』

『乙姫、アンタやっぱり諦めてないのか……』


 乙姫は目を閉じるとフッとタバコの煙を吐き出した。


『あの夢を叶えてやってくれよ、あんたとアタシが夢見たあの夢をさ――』



「……そうじゃったか、乙姫。質の良いネジじゃな」

「ん? どういうこと?」


 リエラは首を傾げる。話が全く見えない。

 なんで玉手箱の中身がネジなのか。


「ふっ、乙姫は愛いやつだったということよ。あやつ、絶対開けるなと言っておいてネジを渡してきおった。儂らの思い出じゃよ」


 なにかを思い出すかのように浦島太郎は目を閉じた。その表情はとても穏やかだった。


「そうじゃな、乙姫。基本に立ち返れということじゃな」


 よし、と思い切ると浦島太郎は立ち上がった。


「鶴田、亀田。あの日を思い出せ。ネジ工場を立ち上げた時のあの日の情熱をな」

「浦島……」

「うむ、そうじゃな」


 三人は強く頷いた。そうだった、あの時誓ったではないか。誰も成し遂げていない大きなことをしてやろうと。

 そう、今がその時だ。と三人は心をひとつにした。


「みんな……」

「お嬢さんもついてきてくれるじゃろうか」

「うん! もちろんだよ!」


 そして基本へ戻り開発を見直した。

 時にぶつかり合う日もあった。涙を流す日だってあった。

 それでも私たちの心はひとつだった。

 宇宙へ行く。

 そのために私たちは来る日も来る日も開発を進めた。


 ――そして、ついに。


「できた……。できたよ!」

「なんと遂に完成しおったわい」

「儂たちの夢が現実になりましたな」


「うむ。お主たち我儘な儂の夢についてきてくれて、ありがとう」


 完成したロケットを前に私たちは涙を流す。

 ついに夢にまで見た宇宙へ手が届くのだ。

 ありがとうと頭を下げる浦島太郎に私たちは晴れやかな笑顔を向けた。


「なにを言うておる。宇宙へ行くのは儂の夢でもあるぞ」

「何十年ともにしていると思っとるんですか。その我儘は儂たちの我儘にもなっとるんですよ」

「うん! 本当に夢が叶ってよかったよ」

「お主たち……」


 浦島太郎は全員を見渡し晴れやかに笑った。


「ありがとう!」






「さあ、準備はできたか。鶴のお嬢さん」

「はい! できました」


 リエラは宇宙服のヘルメットを抱えると敬礼をした。

 今、リエラは宇宙服を身にまとっている。

 そう、これからリエラはみんなの努力の結晶のロケットで宇宙へ旅立つのだ。


「さあ、みんなの希望を乗せて旅立つのだ」

「うん、ありがとう。浦島太郎さん、鶴田さん、亀田さん」


 みなはひとつ頷いた。もうそこに言葉はいらなかった。


 そしてリエラはロケットへ搭乗し発射のときを待つ。


『3、2、1……』


『GO』


 ゴゴゴゴゴ……と爆音と煙を出しロケットは旅立った。

 さあ、みんなの夢を乗せて宇宙へ――。




「鶴の娘よ、大気圏を抜けた。これからしばらく進むぞ」

「はい」


 一緒に搭乗した亀田がリエラに声をかける。

 空の果て。広い広いこの宇宙。


 リエラは窓から地球を見た。


「地球は、青かった……」


 ――おしまい』




 ブラァボォォォオ!! という声にリエラはびくりと身を揺らした。


『nice! nice! nice! Fooooo!』


 なんともテンションの声に我に返った。


「はっ! 私は今までなにを……」


 イエーイ! と叫ぶ狂いの図書を横目に意識が白く消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る