竜宮城から帰ってみたら数百年後の未来だった俺は得た知識を駆使して無双してみたんだが2
チン、と軽快な音がして扉が開いた。
恐怖の小箱から解放されたリエラはフラフラと降りてきた。
「お嬢さん、大丈夫ですかな?」
「は、はひぃ」
目はクラクラで足はガクガクだがどうにか自分の足で歩く。
「ここが最上階ですぞ。この先に待っておりますからな」
「話し合いしたい人のこと?」
「その通りです」
少し歩くと立派な扉があった。
おじいさんは扉を叩くと部屋の主の了解を得てから開いた。
「邪魔しますよ」
「おお、久しぶりじゃのう。鶴田」
「そっちこそ、相変わらずですな。浦島」
部屋の主は部屋の奥の立派な椅子に腰掛けていた。
「うらしま……?」
「おお、そちらが例のお嬢さんかのう? 初めまして、儂は浦島太郎じゃ。一応この株式会社竜宮城の代表取締役をやっておる。よろしくな」
にこやかに話すのは仕立てのいいスーツに身を包んだ高齢の男性だった。
「えっ! 浦島太郎っ? あなたが!?」
すでにおじいさんではないか。どういうことだ、玉手箱を開けてしまったのだろうか。
「え、え、もう玉手箱開けちゃったの?」
「玉手箱? おお、お嬢さんはその事を知っておるのか」
「そんなものもありましたなあ」
「え! もうおじいさんになっちゃったあっ!」
革張りのソファに座り和やかに話すおじいさん二人と慌てふためくリエラ。
すでに一話が終わってそうな予感に疑問がいっぱいだ。
「玉手箱ならあそこじゃ」
「へ?」
浦島太郎は指差した。差した方向を見ると飾り棚に玉手箱らしき箱が綺麗に鎮座していた。
箱が開いている様子もなく紐を解いた形跡もない。
「あれ? 玉手箱開けてないの……?」
「ああ、開けるのをすっかり忘れておった」
「は?」
ぽかんと口を開ける。忘れてた? 浦島太郎って確か陸に上がってすぐ玉手箱を開けてたんじゃなかったっけ?
間抜け面をさらすリエラに浦島太郎は腕を組んでひとつ頷いた。
「うむ。玉手箱を知ってるなら儂が竜宮城へ行ったことは知っておるか?」
「は、はあ。竜宮城に行くことは知ってるというか……。もう行ったんですね」
「そう。儂は若い頃虐められていた亀を助けたのじゃ。そのお礼にと亀は儂を背中に乗せた。あやつめはあろうことか海の中へどっぼん。と、しおった。儂、溺れるかと思ったよ。息できるならはじめっから教えてほしいもんじゃな」
「はあ、確かにいきなりどっぼんはビビりますね」
「なんやかんやあって竜宮城へ着いた。そしてなんやかんや楽しんだ」
「なんやかんや……」
そこら辺はざっくりなのか。
「そして陸へ帰ることになったとき竜宮城の乙姫が玉手箱をお土産に渡してくれたのじゃ。決して開けてはならぬと言ってな」
「ふむふむ」
「亀に連れられて陸に上がった儂はびっくり。景色が様変わりしておったからの。陸に上がってみれば数百年たってたのじゃ」
「なるほどー」
「そして驚きすぎて玉手箱のことを忘れた」
「え!? 忘れたの!?」
すっかり忘れちゃうのものなの!? そうか、だからまだ話が終わってなかったのか。
「そして儂は歩いた。時は高度成長期。たどり着いた先で儂は決意した。竜宮城で得た知識を使ってこの世界で生き抜いてみせると」
「うんうん」
「そしてネジ工場を設立した」
「なんでネジ?」
竜宮城関係なくない?
「はじめは大変じゃったがのう。ここにいる鶴田や他の従業員たちと汗を流してがんばった。なにより竜宮城で得た知識が役に立ったのじゃ。乙姫には感謝しておるよ」
「ねえ、ホント竜宮城ってどんな場所なの」
海の中に巨大工場でもあるのだろうか。
乙姫を思い出すかのように目を細めて遠くを見る浦島太郎に問いかけずにはいられなかった。
「そしてそのネジ工場は大成功を収めいくつもの事業を展開してな。今では国内有数のグループ企業に軒を連ねたわけじゃ」
「すっごい壮大」
いまじゃ大企業の社長さんか。まさか浦島太郎が歳取るとこうなるとは想像できなかった。
「それなら浦島太郎さんは玉手箱を開けずにおじいさんになったんだ」
「うーむ。そうじゃのう。開けるなと言われとるから開けてないだけだからのう。竜宮城から帰ってきて五十年は経っておるかのう」
普通に歳取っただけだった。五十年経てば誰でもおじいさんおばあさんになる。
「な、なるほど」
これはどうすべきかと考える。玉手箱開けたところでおじいさんがおじいさんになるだけじゃないか。まさか更に年取って骨になるとかは困るなとうんうん唸っているとバタンと勢いよく扉が開いた。
「浦島ァ! ついにワシはやったぞ!」
ズカズカと入ってきたのはこれまたおじいさんだった。
目つきが鋭く偏屈そうな顔立ちのおじいさんは亀の甲羅のようなものを背負っていた。
「おお、亀田。どうしたのじゃ」
「フン、あのにっくき兎工業㈱の宇佐田に勝ってやったのよ。あやつワシに愚鈍だ愚鈍だと言うとったが本当に愚鈍だったのはどちらじゃったかのう。なーはっはっはっは!」
「あの、どうしたんですか」
「なんじゃこの娘は」
「この前話しとったじゃろ。業務提携を組みたいと話していた娘さんじゃ」
「ああ、あの話のな」
ジロジロ見てフンと鼻を鳴らした。
「儂はこの社の開発担当顧問じゃ。ライバル会社の兎工業とは開発合戦をやり合っておっての。この前この背負っている小型ジェットで宇佐田とジェット競走して勝ったのじゃ。それはもう圧勝じゃ! ざまぁみろ! だーはっはっはっは!」
ふんぞり返って笑っている。彼はきっと兎と亀の亀なんだろう。兎から勝利をもぎ取ってきたようだ。
「そりゃ、すごいのう。社でも表彰するか」
「そんなもんいらんわ。兎工業に勝つのなんかこれからは普通になるのじゃからな」
高笑いをずっとしている亀田を横目にリエラはずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「それで私はなんでここに連れてこられたんですか」
「おお、そうじゃった。お嬢さん、お嬢さんの織る布は非常に素晴らしいと聞き及んでおる」
「ええ、それは素晴らしいものでしたぞ。調べましたが、耐久性、防水性、通気性、保温性に優れておりしかも羽のように軽い」
「はあ、材料は羽ですから…」
熱弁を振るう鶴の恩返しのおじいさん――鶴田にリエラは小さく言葉を挟んだ。
「そして、お嬢さんは裁縫技術も優れていると見受けられます。これはもうあの計画にぴったりなものかと思いますぞ!」
「あの計画?」
「そうじゃ、企業を大きくするという野望を成し遂げた今、儂たちは新たな目標を掲げた」
「目標?」
おじいさん三人は頷く。
「宇宙へ行くのじゃ」
「宇宙……」
リエラはごくりと息を飲み込んだ。
そうか、宇宙か……。
「ってなに?」
そう、リエラは知らなかった。
「む、そこからじゃったか……。宇宙とは簡単に言えば空の果てじゃ。空よりも高く高く進んだ先にあるものよ。見た目で言えば星空に近いかの。なかなかたどり着くことはできぬ場所じゃ。そして空気や重力はなく人間が住むには適しておらん」
「え、なんでそんなとこにわざわざ……?」
「それがロマンよ」
「ロマン……」
なるほど? 人が行くことのできない場所に行くのはロマンなのか。
リエラはおじいさんたちから更に宇宙について詳しい話を聞いた。宇宙にはロケットという乗り物で行くらしい。
宇宙とはとても不思議でとてもわくわくするものだった。
「すごいね宇宙! 楽しそう」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
「うん! がんばってください!」
「なにを言うておる。お前さんもその仲間となるんじゃよ」
「はえ?」
仲間の数に入れられていて思わず間抜けな声を出してしまった。なぜだ、ただ布を織っただけなのに。
「な、なんでですか? 私もやるの?」
「お前さんの技術はとても素晴らしい。あの布は過酷な宇宙でも耐えられそうな素材じゃ。お嬢さんにはぜひ宇宙服の開発に携わっていただきたいのじゃ」
「はあ……」
「儂たちと宇宙を目指そうじゃないか!」
「え」
「なっ!」
「ええ……」
「なっ!!!」
「は、はい……」
圧が凄かった。
百戦錬磨のおじいさんの圧に勝てずリエラは頷くしかなかった。
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