恋に恋して人魚姫2
「ど、どうにか潜入することができた……」
海から出て数日。
リエラはルイーシャが居るであろう王宮へとやってきた。
海から出てきてから王宮に着くまでは簡単だったのだが、入ろうとする度兵士に止められまくったのだ。
確かに当然だろう。黒いローブを被った人物が塀を登ったり塀の下を穴掘っていたりするのだ。誰でも止める。
リエラは考えまくって貴族の令嬢のドレスを着てみた。そして、団体さんの中にこっそりと紛れ込んでみたらすんなりと入ることができた。今まで黒いローブをすっぽりと被っていたおかげで顔を見られていなかったのが功を奏したらしい。
よかったよかったと思い返しながら王宮の庭園のようなところを歩く。人気はなく目立たないところにあるから裏庭のような感じであろうか。
とりあえずルイーシャを探さないと、と兵士に気付かれないようにこそこそ歩いていると前の方から話し声が聞こえてきた。
「殿下ぁ。今日もお会いしたかったですわぁ」
「僕もだよ、マリアンヌ」
声のした方へ行ってみると桃色の髪の令嬢と金髪の男性が親しげに寄り添っているところだった。
(殿下? 金色の髪……。もしかしてルイーシャの言ってた王子様?)
だとしたら遅かった。
王子はルイーシャとは別の女性とすでに出会ってしまったようだ。
リエラは二人をじっと観察した。随分とベタベタイチャイチャしているようである。
「君が助けてくれたから今ここに僕はいるんだ。その真珠があったから君を見つけられた。これは運命だね」
「まあ、殿下ったら。この真珠は私たちを繋ぐものですわね」
(ん? 真珠?)
女性の胸元に真珠のブローチのようなものが付いていた。なぜだか目を引くそれに女性は私のモノだと見せびらかすように触れた。
「そうだとも。嵐の夜、海で溺れていたときこれが七色に輝いてとても楽になったんだ。これは僕の前に現れた運命なんだとすぐに気付いたね。……そういえば今は七色に輝いていないね?」
「え、ええ。ずっとピカピカ光っていると邪魔でしょう? 今は消しているのですわ」
「それもそうだね」
イチャイチャすることに忙しい二人はこちらに気づく様子もなく、お互いしか見ていないように去っていった。
リエラはため息をつくと王宮の渡り廊下を見る。
そこにはルイーシャがひっそりと佇んでいた。
「ルイーシャ!」
「っ!」
はくっとなにかを話すようにルイーシャの口が開いたが、そのまま諦めたように口を閉じた。
「あ、そうだったね。話せないんだった、ごめん」
その言葉にルイーシャは目を伏せて首を振った。
「ルイーシャ、もしかしてあの男の人が王子様?」
ルイーシャは少し考えるとこくりと小さく頷いた。
「そっか……。あんな場面見ちゃって辛かったね。もしかしてあの女の人が付けてた真珠のブローチがルイーシャが渡したっていう人魚の涙?」
ルイーシャはまたこくり。
「そんな……。なんであの人が……。王子が持ってないなら取り戻した方がいいよね」
「……」
泣くのを我慢するように顔が歪む。
とても大切なものだったのだろう。
「待ってて。取り戻してあげるね」
「ちょっといいですか!」
思い立ったが吉日とばかりにリエラはあの二人を探してその目の前に立った。
「な、なんだお前は」
「その女性に付いてる真珠のブローチを返してもらいたくて来ました!」
「な、何言ってるのよ」
うろたえる二人にお構いなくリエラはずいずいと近づく。
「そのブローチはここにいるルイーシャのものなんです。とても大切なものだから返してください!」
後ろに立つルイーシャは止めてとばかりにリエラのスカートを引くもリエラは気付かずに二人を見据えた。
「な、何言ってるの、これはあたしのよ! 変なこと言うのはやめてちょうだい!」
「そうだ、これは僕たちの大事なものなんだぞ! 奪おうたってそうはいかない。おい! 兵士、こいつをつまみ出せ!」
「え! ちょ、ちょっと!」
現れた兵士に両腕をがっしりと捕まえられるとズルズルと引きずられて行く。
「それにしても、お前ルイーシャと言ったか。これはお前の差し金か? 少し見損なったな」
「……」
「ごめん……」
あれから兵士にぺいっと放り出されたリエラは塀の外側で膝を抱えていた。
ルイーシャも追いかけてきてくれて今は二人芝生の上でしゃがみこんでいる。
「真珠のブローチ取り返せなかったよ。……それにルイーシャの差し金になっちゃった。……ごめんね」
しょぼんと落ち込むリエラにルイーシャはひとつ息を吐くと、そっとリエラの頭をなでた。
「ルイーシャ……」
半べそをかくリエラにルイーシャは仕方ないわねというように少し眉を下げて微笑みまたなでる。
「うう。ありがとう。ルイーシャは優しいね」
そう言うとルイーシャは真っ赤になって慌ててそっぽを向く。
その様子が可愛くてふふっと笑ったリエラを真っ赤な顔でチラッと睨むとぺしりと軽く額を叩いた。
「絶対、真珠のブローチ取り戻そうね」
そう言えばルイーシャはこくりと頷いてくれた。
しばらくの間二人は静かに芝生に座り込んだ。
それから、リエラは魔女の薬で黒猫に変化するとあの女性、マリアンヌを見張った。
見れば見るほど不可思議な行動をしている女性だった。
ある日はルイーシャがお茶をしているとそこへやって来ていきなりティーカップを掴むと自分へとかけた。
「きゃーっ!」
「どうしたんだ! マリアンヌ!」
「こ、この方がいきなりお茶をかけてきましたの。私、びっくりして……」
「なんだって。おい、マリアンヌになんてことをしたんだ!」
叫び声に気づいてやって来た王子はルイーシャを睨みつける。ルイーシャは急いで首を振るもやってないと信じてもらえなかった。
またある時は、ルイーシャが歩いていると側にマリアンヌがやってきて突然倒れた。
「ひ、ひどいですわっ!!」
「マリアンヌなにがあったんだ!」
「こ、この方がいきなり押してきましたの。私、怖くって……」
「また、お前か! マリアンヌに謝れ! なにか言ったらどうなんだ!」
「……」
首を振ろうとも信じてなどもらえなくルイーシャは俯いた。
「フシャーッッ!!!」
「ぎゃーっ!!」
「この黒猫もお前の仕業か!」
しょぼん。
今日も今日とて芝生の上で小さくなる。
そんな落ち込んだ黒猫を今日もルイーシャはなでた。
「にゃあ……」
『ルイーシャ……』
自分が一番落ち込んでいるであろうに。
いつもルイーシャがされていることを見て落ち込んでいるリエラをルイーシャは見つけてこうして慰めてくれるのだ。
(とっても優しい人なのに)
誤解されるのがとても悔しい。
早く誤解を解いて真珠のブローチも取り戻せるようリエラは心に誓った。
(あれ?)
なんだか今日は王宮内の様子がおかしい。妙に賑やかなのだ。
「今日は殿下の婚約者のお披露目か」
「ようやくですね。どうやらお相手は溺れた殿下を助けたお方なのだとか」
「いやー、めでたいですなぁ」
「今日はいい夜会になりそうですな」
(えっ! 王子の婚約! そんな、そしたらルイーシャは……)
恋が叶わなければ泡となって消える。人魚姫にかけられた呪いだ。
そんな結末は迎えさせない。
リエラは急いで王宮へ向かった。
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