第26話 新しい世紀が始まりました
某国の会議室。現在、多くの学者たちが集められていた。そこには各国の指導者も同席している。秘密の会合。20世紀初頭より発足し、様々な世界規模の問題を秘密裏に解決してきた。円卓のテーブルには優劣は存在しない。問題の解決が先決なのである。我々や先代は今まで多くの素晴らしいものを後世に残しきた彼らにはその自負があったのだ。
「21世紀も半ばに到達したが、ついに人類に衰退の兆しが見え始めた。戦争は減らず技術の進化は止まってしまった。世界規模で出生率もさがっている」
大国の大統領がいった。それに応えライバル国の大統領が話を続ける。ここでは敵も味方もないのだ。
「戦争を回避しようにも軍事産業の連中と軍人の意識が戦争に執着している。なにより民意が問題だ。戦争の気運、前世期の大戦前のような高まりを見せている。それと、最近では新たなウィルスが生まれたらしい。致死率が非常に高い」
円卓上のテーブル。中央にデータが映し出された。男が一人説明に入る。世界的な経済アナリストだった。
「今まで様々なアプローチを試みましたが結果はさんさんたる有様。意図的に軍事衝突を起こし、ガス抜きをするという施策では、激化する戦闘行為で国家がひとつ消え多数の難民を生むことになりました。経済協力や平和条約の締結も効果を得られない。協力者が居ないのです。必ずどこかのタイミングで出し抜こうとする企業や指導者が現れる。そして、それらに賛同する人々が後をたたないのです」
男の説明にテーブルに座る面々からは重苦しい空気がただよい始めている。万策尽きた。もうすでに色々と試してしまったのだ。そして、そのことごとくが失敗に終わっていた。
「このまま我々は滅びを迎えるしかないのだろうか。我々は次世代に繋ぐことはできないのだろうか」
誰かが呟いた。その呟きは会議にいる者だけでなく、世界の人々より零れた言葉でもある。
「私に妙案があります。今まで黙っておりましたが万策尽きたのであれば最後にやらせていただきたい」
立ち上がったのは、いままで一度も言葉を発してこなかった。暦法家であった。
ある国の街頭。ビルに備え付けられたモニターにはニュースが映し出される。
「いよいよ、20年後からは地球暦の誕生です。世界各地では様々な形で湧きあがっており・・・・・・」
そのニュースを遠くから眺めている男が居た。件の暦法家である。近くには彼の助手もいた。
「どうやら、試みは大成功のようです。新たな時代の幕開け、新時代の到来は世界中の人々に期待感をもった。様々な分野で活気があふれています」
助手は目を輝かせて言った。ノーベル賞を取ることはないかもしれない。しかし目の前にいる男は、まぎれもなく世界を救ったのである。
「経済は新たな時代の期待感で盛り返し、技術革新も目覚ましい。医療などの分野でも顕著に現れている。戦争も小規模な紛争程度で発展することもない、みな終末戦争を恐れているのだ」
どこかソワソワしてワクワクする雰囲気が街の至る所から感じ取れる。暦法家の言葉に助手はかねてより疑問に思っていたことを口にした。
「この後はどうするんですか。暦が変わった後は何が起こるのでしょう」
助手の言葉に暦法家はくつくつと笑いながら手元の煙草に火をつけた。
「この後なんて何も考えてはいないよ。四半世紀もすれば我々の世代の人間はいずれ死んでしまう」
一呼吸。暦法家の目は一瞬、憂いに満ちていた。
「そのあとはそうだな。まあ、後世の人にでも頑張って貰うことにしよう」
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