第25話 3つ星シェフの料理店

 世界中の美食家を唸らせる料理店があるという。星の数は3つ星とも5つ星とも言われていた。

 男はどうしてもその料理店で食事がしたかった。彼もまた美食家の一人。食べずにか居られない、そんな気持ちで料理店を目指した。

 「最寄りの駅から徒歩2日。最初は誤植かと思ったが間違いではなかった」

 ガイドに連れられ道なき道を歩いてきた。山を登り谷を下り、川を渡ったところでクマに襲われそうになった。まさに決死の覚悟。途中でガイドにはぐれてからは、地図とコンパスだけが頼りである。引き返そうにも帰る道すら判らない始末。進むよりほかになかった。

 3日3晩過ぎてようやく、辿り着いた。小さな家。扉にはオープンの札が掲げられている。

 「いらっしゃいませ」

 店に入ると店員が声を掛けてきた。席に案内してもらう。机の上にはパソコンが1台置いてある。

 「さぞお疲れのようですね。メニューは一つしかありませんが宜しいですか」

 「ああ、構わない。なんでもいいから持ってきてくれ」

 今ならどんな物でも食べられそうだ。パソコンはこんな場所にも関わらずインターネットに繋がっていた。

 「お客様に直ぐにでも感想を書いてもらえるように用意しました」

 男がパソコンを動かすと、飲食店の評論サイトが表示された。ほかにもいろいろ調べようとしたが、そのほかの場所には繋がらなくなっていた。

 「今から用意しますのでしばしお待ちを。お帰りはどうなさいますか。私も食材を用意するために里に下りなければなりません。裏手にヘリポートがあるので良かったら一緒に乗って帰りませんか」

 店員らしき男はそう言って窓の外をみた。なるほど、店の裏手は整備され平らになっていて一台のヘリコプターが止まっていた。

 「是非、乗せてほしい。それから食事だ。できるだけ早く持ってきてくれ。腹ペコなんだ」

 男はそう言うと、テーブルに置かれた水を口にした。きちんとした水を口にしたのは半日ぶりだ。実にうまい。最高の気分だった。

 時間が過ぎていく、5分、10分。待てども料理が出てくる気配がない。客は男一人なのだ。それほど時間がかかるとも思えない。と、男が店員を呼ぼうとしたとき、目の前のパソコンに再び目を向けた。

 「目の前のパソコン。これ見よがしに評価せよと置いてあるが、評価しないとここでは料理が出ないのではないだろうか。店員、どこかで監視しているのかもしれない。それから料理がでるのか。よくよく考えれば、おかしなことだらけだ。ヘリコプターがあるのなら最初からそれに乗せてもらえれば、苦労せずともついたはずだ。ガイドもそうだ。途中から離れて行ったが、わざとなのかも知れない。店の入り口に彼の履いていた靴があったような気もする。店とぐるなのかもしれない。それから途中であったクマ。あいつももしかするとこの店で飼われているのかも知れない。妙に人に慣れていたからな」

 全ては、お膳立て。用意周到な罠だったのかもしれない。男はそう思った。

 そして、男はパソコンを使って星をつけた。最高評価。まもなくして、厨房から美味しい匂いが・・・・・・。

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