第21話 あかない
目が覚めると、知らない部屋にいた。窓が1つしかない部屋で、何処かカビ臭く、薄暗い部屋だった。
どうしてこんなところに居るのか訳が解らない。酒を飲んで帰路についていた所までは覚えているのだが、そこから先の記憶がなかった。
今何時か確認しようと携帯を探したのだが、見当たらない。
「先ずはここからでよう」
部屋の隅にあったステンレス製の扉に近づいた。
ドアノブをひねりドアを押す。しかし扉はあかなかった。押して駄目ならと引っ張ってみる。やはり、扉はあかなかった。どうやら鍵がかかってるようだ。
置かれてる状況から推理したところ、どうやら閉じ込められたらしい。
そう思うと、頭がズキズキと痛みだした。恐らく殴られたのであろう。そして、気絶している間にここに連れ込まれたに違いない。
状況が理解できた所で心当たりを考える。
俺は某国の特殊工作員、簡単に言うとスパイだ。
俺を恨んでいる奴は多いだろう。国家から民間人に至るまで恨みの種類も様々に考えられる。
直近だと、ある国の大使のスキャンダルを出版社にリークしている。世間から大きな反響を呼び、その大使は失脚した。この大使は次期大統領候補と称されていた人物だった。安定の地位からの失脚。これは相当な恨みを買っている筈だ。
いや、もしかしたら身内の可能性もある。
つい先日、自分の国の同業者を公安に売ったのだ。その同業者は敵対する国家から賄賂を貰い情報を横流ししていた。それを知った俺は、その同業者を徹底的に調べ上げ、動かぬ証拠と共に公安へと突き出したのである。その同業者の仲間が俺を恨んでいる可能性も十分考えられる。
次に考えられるのは、敵対する組織によるもの。これが一番有り得る話かも知れない。そう考えると、これから待っているのは拷問だ。拷問に耐えたとしても、次は自白をさせる為の薬を打つだろう。そして俺の持っている情報を引き出すのだ。
見せしめに殺されるか、情報を聞き出し用済みになった所で始末されるか、どちらにせよ、むごたらしく殺されるのが想像できる。
その前になんとかしてここから脱出しなければならない。
扉が駄目なら次は窓だ。
窓を開けてみる。数センチ程の隙間ができたが、それ以上はあかない仕組みらしかった。これでは、ここから逃げ出すのは難しい。
待てよ、 この窓なら割れるかも知れない。窓全体の大きさからして、割ってしまえば、脱出するのは容易だろう。
そうと決まれば、窓を割る道具が必要だ。
部屋の中を物色した。乱雑に散らかっていたので、探すのも一苦労だ。
だが、いくつかの物をどけると、鉄パイプを見つけることができた。これなら窓を割るには持ってこいだし、いざというとき武器になる。俺はこの手の道具を武器として扱う事にも精通していた。
こんなものを部屋に残しておくとは、閉じ込めた奴らあんがい間抜けかもしれない。
鉄パイプを窓に向かって振りかぶった。ガツンという音がする。しかし、窓にはひびが1つも入らない。
窓ガラスに鉄線が入っていたのである。叩いても割れないのは、この鉄線が邪魔しているからだ。
テコの原理は応用できないだろうか。まず鉄パイプを窓の端に引っ掛けそれを引っ張る。
駄目だ。つっかかりが無く、鉄パイプが外れてしまった。全く効果が無い。
こうなったらやけである。窓を何度も叩く。叩くたびに大きな音がするが、ここで捕まっているよりはマシだ。
すると、扉の方で音がした。俺が目覚めた事を閉じ込めた奴らに気づかれたかも知れない。俺は鉄パイプを正眼に構えて扉の方を向いた。
「あんたこんなところで何してるの」
みると農家風の老人が扉をあけて立っていた。
「何って逃げ出すんですよ。鍵が掛ってたから窓から逃げ出そうとしてたんです」
老人は、それを聴くとやれやれと呆れた顔になった。
「何わかんない事言ってんの。さては酔っ払いだな。どっから忍び込んだのか知らんけど、別に鍵なんてかかってないだよ」
そういうと、老人は扉に手を掛けて横に引っ張った。すると、ガラガラと音がして扉がスライドする。
なんてことはない、扉だと思っていたそれは引き戸だったのだ。
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