第36話 幕間3
苦しい。呼吸するたびに、肺が焼けつくような痛みを発する。
ここはどこだろう? 私はこんな場所で何をしてるんだろう?
周りには誰もいない。一人ぼっちだ。
暗い。何も、ない。寒い? いや、寒くない。暖かくもない。何も……感じない。
ここはなんだろう?
けれど息苦しさは考える暇すら与えてはくれない。
私は爪が食い込むくらい思い切り胸を鷲掴みにする。息苦しさが痛みに変わると、流れ出る血が開放感に似た安らぎを与えてくれる。
だがそれも一瞬だった。再び、堪えようのない激しい痛み胸の深いところからにじみ上がってくる。
やがて、あまりの苦しさに目の前がかすみ始めた。
視界の端が見たこともない透明な色で覆われて、やがて全てを覆い尽くしていく。
――私は死ぬんだろうか。
嫌だ。死にたくない。廃人も同然な私だけど、死ぬのは嫌だ。生きていて楽しいわけではない。むしろ辛いことばかり。今、この瞬間だって……。
どうして私は死にたくないのだろう。内に潜む漠然とした恐怖感?
わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。
その時、突然目の前が開けた。
目の前では制服姿の一人の少年が、白い着物を着た少女と談笑していた。
翔……くん?
また――あの夢だ。
私は彼の名前を知っている。何度も見る不思議な夢の中で出会った男の子。
知り合いでもないし、全く面識のない彼がどうして私の夢に登場したのかはわからない。そもそも現実ではなく夢の中での話なのだから、彼が現実に実体として存在しているのかすらわからない、不確かな存在だ。それにも関わらず、どうしてか私にはあの夢の中の出来事が本当にあったことのように思える。感覚的にはデジャヴに近いかもしれない。
息苦しさはもはやどこにもない。私を苦しめていた肺を焼くような痛みは、嘘のように消えていた。代わりに私が感じたのは異様な、どこまでも宙を漂うような感覚だった。
不意に白い着物の少女が私の方を振り向いた。
彼女は振り向きざま、不気味に微笑んでつぶやいた。
「次はあなたの番ですよ」
えっ――!
彼女がつぶやいた瞬間、視界がふやけたように変化し、少年と少女の姿は消えた。
◇ ◇ ◇
目を開けると、私はベッドの上にいた。
「夢……?」
嫌な夢をみた。久しく悪夢は見なかったのに。それに……。
着ていた肌着はじっとりと濡れていて、夢の陰鬱さを物語っているようだった。
少女の言葉が耳にこびりついて離れない。
窓の外は明けの空で、朝露に曇った窓ガラスを見つめながら、私はひとりごちた。
「私は、翔くんみたいにはなれない。この先も……ずっと」
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