お題:神隠し ― 神隠しの子と炭焼きの子 1
11/9 お題:神隠し
ある山間の小さな村にツタという子がおりました。
その子の母親は、その子が生まれて二年経つ頃に死んでしまい、その一年後に新しい姉と母親がやってきました。
母親が死んでからたまに面倒をみてくれていた人でしたので、その子は戸惑いながらも嫌がりはしませんでした。けれど、その人は母親になってから、その子に冷たくなりました。三つ上の新しい姉も意地悪してきます。それでも父親は優しかったので我慢していました。けれど、新しい母親が弟を産んでからはすべてが弟のものになりました。父親の優しさも祖母の関心も弟と、弟を大事にする姉に向きます。
寂しくて
意地悪な姉が遊びの輪からツタを締め出すので遊び相手もいません。近くにいれば意地悪されるので、ツタは一人山へ通うようになりました。
いつものように一人で山をうろついてるとウサギを見つけました。
驚いて逃げ出すウサギをツタは追いかけます。逃げたほうへ走って行くと小さな湧き水のほとりに出ました。ウサギは見失いましたが、走って喉が乾いたツタは岩肌を流れ落ちる水を両手で受けて飲みました。
「お前、どこの奴だ? 一人か?」
突然の声に顔を上げると見たことのない男の子がいました。
「あっちからきた。一人だよ」
来た方を指差して教えると、男の子は眉をひそめます。
「お前いくつだよ? 小さいのに一人じゃ危ねぇだろ。一人で山に来ちゃだめだ」
「…………だって、……いじわるされる。それに六つだからへいきだよ」
「……そうか」
「ねぇ、あそぼ」
「え、うん、そうだな」
「……えへへ」
とても嬉しそうに笑うツタに、男の子は優しく笑いかけました。
コナラと名乗った男の子とツタは草笛を吹いたり、草の実を投げ合ったりして楽しく遊びました。
楽しい時間はあっという間に過ぎます。まだ明るい夕方、男の子はツタに帰るように言い、村が見える山の際まで送ってくれました。けれどもっと遊びたいツタはコナラの袂を掴んで離しません。
「まだ帰りたくない」
「明るいうちに家に帰るんだ。危ないだろ」
「……また遊んでくれる?」
「うん。だから明るいうちに帰りな」
「またね! また明日!」
「また明日」
コナラは袂をひっぱるツタの頭を撫でて、返事をしました。
こんな嬉しいことはいつぶりでしょう。嬉しさに頬を染めたツタは元気に手を振り家へ帰って行きました。
家にいるあいだも、コナラを思い出せば悲しい気持ちが薄まります。
そうして毎日山へ行きコナラと遊びました。会えないこともたまにありましたが、その次に会ったときにはきまってツタの好きな遊びをしてくれます。
コナラと2人でいるときだけ、ツタは笑っていられました。
ツタが七つの春の夜、また閉じ込められた牛小屋の板の隙間から外を眺めていました。真っ暗な中、かえるの声が響いています。
なんで私だけここにいるのかな。それは、いらない子だから。
ふとそう思いました。いいえ、ずっと思っていました。悲し過ぎて知らない振りをしていただけなのです。
なんだかとても息苦しくなり、牛小屋の戸をでたらめにガタガタ揺らすとカタンと音がしたあとで、つっかえながら開きました。心張り棒が外れたのです。
そのまま外へ飛び出して、通い慣れた山へかけていきます。白く光る明るい満月が足下を照らしてくれました。
いなくなってしまいたい。さびしい、かなしい。
涙で濡れた目は星を映してキラキラ輝きました。
無我夢中で走って山の中へ分け入り、しばらくして暗さに気づきました。木々の隙間から見えるわずかな月明かりは、ツタまで届きません。いつもの山なのにどこにいるかもわからず、急に恐怖が押し寄せました。闇雲に走って何かにつまづいて転び、
こわい、たすけてコナラ! たすけて!
***
朝になり、ツタを呼びにきた姉が一番に気づきました。母親を呼び、母親は父親を呼びました。外聞が悪いからと祖母が言って、家族だけでツタの行きそうな場所を探しましたが見つかりません。腹が減ったら帰ってくるだろうと待ちましたが、とうとう夕方になり村人へ相談することに決めました。
何人もの村人たちが山を探しまわり、ツタの
次の日もその次の日も戻らないツタは、神隠しにあったのだということになりました。
ツタが冷たくされていたのは村人も知っていたので、継子いじめが過ぎて連れていかれたのだとヒソヒソ噂され、残されたツタの家族はたいそう肩身の狭い思いをしたそうです。
神隠しだと家族が諦めたあとも炭焼きの息子であるコナラだけは探し続けましたが、小さなツタはついぞ見つけられませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます