お題:秋灯 ― 狐の集会 1

 11/5 お題:秋灯

【秋灯】しゅう‐とう  秋の夜長にともすともしび。  

【千両】せんりょう 常緑小低木。赤い実をつける。お正月の飾りによく使われる。




 ポカポカした小春日和の午後、家から離れた山際へ栗拾いにでかけた。コロコロ転がった栗のイガを靴で剥いていたら、どこからきたのか狐がジッとこちらを見ている。栗が欲しいのかしらと思って、ツヤツヤした実を積み上げて声をかけたら思いがけず返事があった。

「ありがとうございます。なにせ柔らかい毛なものですから、栗のイガとなるとお手上げでして」

 狐はそう言って丁寧にお辞儀をした。フサフサの尻尾に栗をすっかり埋めてしまうと、良いことを思いついたと手を叩く。

「今夜はね、枯れススキの野原で狐の集会があるんですよ。みんなでご馳走を持ち寄って秋の夜長を過ごすのです。どうです、ご一緒しませんか? なあに、心配は無用です。化けに関してはこれでもいっぱしの腕前ですから」

 狐の集会に人間がお邪魔して良いのかと心配したら、得意げにそう答えて胸を叩いた。

 夜に迎えにいくと言った狐を見送って家へ帰り、半信半疑のまま持ち寄りのために柿を用意して布団にもぐった。


 トントン、トントン、もぅし、迎えにきましたよ


 小さな音に目を覚ます。窓を開けると、こうこうと光る月に照らされた狐がニッコリ笑った。柿をポケットに入れて窓から庭に降り立つと、狐がススキを差し出す。

「これをズボンに挿してくださいな。尻尾みたいに。……そうです、そうです」

 そう頷いてから小さな葉を自分の頭の上に乗せ、お尻にススキを垂らした僕の両手を掴んで何やら唱えた。パチリと瞬きするあいだに、立派なカイゼル髭を生やした紳士となった狐が、僕のほうを満足げに眺める。

自分で自分を見てもススキをお尻に垂らしているようにしか見えないと心配したら、口を押さえてクスクス笑った。

「坊ちゃんも狐が化けた人間に見えますよ。さあ、灯りをつけて出発しましょう。夜道は暗いですからね」

 そう言うと尻尾をゆっくり振って狐火を出し、手に持った千両の実に火をまとわせた。青白い狐火が実の色を映してぼぅとした暖かい赤色に変わり、すっかり暗くなった夜道を照らす。

「夏の鬼灯提灯もいいですが、ゆらゆらする火を眺められますから千両もいいものですよ」

 コオロギの声を聞きながら千両の狐火を頼りに歩いていると、ススキの向こうからチラチラ灯りが瞬いている集会場が見えてきた。


「こんばんは」

「こんばんは、いい夜ですね」

「はい、とても」

「もう始めてますよ。こちらにどうぞ」

 ドキドキと心配する僕をよそに、狐が化けた尻尾のある紳士と尻尾のある角帯を締めた若さんが挨拶をした。案内された集会場には爺さまや、町娘が尻尾を生やして楽しそうに話したり、踊ったりしている。

「ね、大丈夫だったでしょう?」

 狐はニンマリ目を細めて耳打ちした。

 真ん中で輪になって踊る狐たちを取り囲むように、千両のかがり火が地面に挿してある。拍子を取る手やフリフリと揺れる尻尾の影は、縁日の夜店で見たクルクルまわる影絵みたいだった。

 狐が座ると隣から盃がまわってきた。トロリとした紫を飲み干し満足げに息を吐く。

「おいしい山ぶどう酒ですね」

「ええ、ええ。今年はいい山ぶどうでしたから」

「おや、ご自分でお造りになったんですか」

「はい。毎年造りますが今年はとくにできがよくて。そちらの方も遠慮なさらず、お飲みになってくださいな」

 差し出された盃を一口舐めるとぼぅと顔が熱くなった。

「おやまあ、もう赤い。いけませんね、代わりに私がいただきましょう。坊ちゃんはこちらの栗をお上がんなさい」

 嬉しそうに私の手から盃を受け取り、かわりに焼き栗を渡された。それで思い出し、ポケットから柿を取り出して盃をくれた爺様へすすめる。

「立派な柿ですなぁ。鳥につつかれて私どもにはなかなか手に入りませんから、ありがたいことです」

 お辞儀をし合う僕たちに挟まれた狐はまたクスクス笑う。


 ゆらゆら踊る輪を眺めるうち、お酒に弱い僕の頭もフラリフラリと揺れだした。狐のクスクス笑いがうつったのか、だんだんと愉快な気持ちが湧いてくる。

 尻尾を振って踊る影絵の幻想に引き込まれ、ふらりと立ち上がって千両の灯りに照らされた輪の中へ加わった。






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