帝国歴741年 初頭 グッドゲーム

 将棋においては完全な詰みになる前、もう駄目だと分かると同時に投了を宣言することが多い。


 負けたら腹を斬る謎の文化を持つ国だからか、返せぬと分かった手筋を進める時間と体力が惜しいからかはさておき、プロの対局であれば玉を取られて終わることはない。


 これは三人の財源であるTCGでも奇妙な相似性を見せ、負けが確定した場合は投了するのは珍しくない。


 先行で完全に盤面を制圧される、ないしは手札が枯れる、デッキに解答となる〝銀の銃弾シルバーバレット〟が入っていないなどで、どうしても勝てない相性のデッキや勝ち筋を失って投了をするのは、どのような媒体でも散見される。


 敗者は自ら進んで盤面を下りるのが、ある意味で美しいからだろうか。


 だからこそ、何もないならリーサル詰みだがよろしいか? という文言は煽りになるのだ。


 なのでアウルスは、後ろに竜鱗人の令嬢を伴いながら――理力の民以上に死なれると困るので、縋り付いて下がって貰っていた――はよ降伏しろと、三方から袋だたきにされて壊滅していく走狗を睨む。


 大勢は決した。予備戦力の追加投入がないということは、もう手がないのだろう。気持ちよくLPを0にして勝たせてやろうなんて気遣いで、詰みの状態で手番を回してくるプレイヤーもいるけれど、今そういうのは誰も求めていない。


 兵士と探索者は、その殆どが儚い定命なのだ。傷つけば治るのに時間がかかるし、例外なく死は不可逆の破綻である。カード一枚で墓地から簡単に出張してくれるわけではないのだ。


 陣形は壊乱しようとも、極厚の盾と長い槍を持つ重装歩兵は依然として脅威である。槍の間合いを活かせぬ混戦によって圧倒的な不利を被ろうと、個々の盤面で傷を負わせるか相打ちに持ち込む諦めの悪さは性悪としか言えぬ。


 どうあろうと気持ちよくは勝たせねぇぞ、という対戦相手のねじくれた性根を感じずにはいられない状況を見せ続けられるアウルスは、堪ったものではなかった。


 もう終わりは見えている。攻勢に晒されながらも逆撃の勢いを失わなかった探索者の意気は凄まじく、長柄の間に自分の体をねじ込んでまで攻撃していく様は、酸鼻極まる戦場の中で美しくすらあった。


 それにカリスも短時間しか余裕がない中で、きちんと自らの指揮下にある兵士を銃兵として錬磨させていたようだ。盾を構えられたら、銃をぶっ放して吹き飛ばし、隣の仲間がトドメの銃剣を繰り出す様など、ある種の舞踏めいてすらいた。


 完全にリーサルだ。詰んだ筈だ。


 「ありませんグッドゲーム、だろ。早う、早う……」


 ガッツポーズを取っていた手が握りしめられ、爪が掌を傷付ける。


 損害が能う限り少なく終わって欲しい。社長の願いは、偏にそれのみ。


 スカッとしたい訳ではないのだ。月末ランクマッチと同じで、さっさと最上位に上りたいだけ。時間を稼いで粘るような真似をされては堪らない。


 確かに数こそ多いが、探索者も兵士も容易に補充が効かぬし、自我を持った人間だトークンではないの。大事に大事に育て上げた、愛すべき耐久消費財達。勝ちが決まった戦の始末で消耗されては困る。


 経験という万金を積んでも買えぬバフを受けた勇者達を、一人でも多く手元に返して欲しい。俯瞰してみれば地図上の染みに過ぎぬとも、彼等は決して代替可能な存在ではないのだから。


 「ん……?」


 じりじりと炙られるような心地で戦場を見つめていたアウルスだが、ふと異変に気付く。ギルデリースが灯してくれた光の下で、何かが動いたのだ。


 動いたのは、要塞の残骸だった。最初は微動程度であったそれが大きくなり、遂には地を低く揺らす地震が如き揺れとなり、会館の天井から煤や埃がパラパラと舞った。


 「いや、待て、待て待て待て……」


 異変に気付いているのは、戦場で殺戮の興奮に浸って尚も冷静さを失わなかった僅かな者だけ。


 数体の走狗を纏めて叩き斬っていたバグバドグルズ、味方の背を庇って胸甲の傾斜で槍を受け流していたブレンヌス、そして右の剣で叩き潰し、空いた左手で奪った盾を使った打擲で重装歩兵をスクラップに造り替えていたカリス。


 最後に、後ろで状況の推移を見守っていたアウルス。この四人だけが、殆ど終わりが見えた前線以外に意識をやる余裕があった。


 「ド畜生がぁぁぁぁ!!」


 吹き飛んでいく、僅かに残っていた要塞の名残。


 そして、瓦礫と粉塵を突き破って姿を現すのは、〝体高10m〟はあろうかという巨体の異形。


 「家賃に手ぇ出すヤツがあるかぁぁぁぁ!!!!」


 それを何と形容すれば良いか、瓦礫を押しのけて這い出てくる異形に対して、明確な表現ができる者はいなかった。


 人と蟹と蝦蛄を足して三で割り損ねたような、奇怪にして醜悪極まる外見。あり得ざる巨大さの走狗は、本来どの深度のボスとして設定されていたのだろう。


 あるいは、もう何もかも知ったことかと、迷宮での運用を想定していない特大の理不尽をぶつけてきたのやもしれぬ。


 どうあれ、最後まで皇帝のコブに蓋をするべく残骸になり果てても残っていた要塞を破壊して現れた走狗は、気色の悪さも巨大さも正しく弩級の理不尽。


 薄青い装甲は粘液に塗れて理力の光の下でテラテラと不気味な光を反射し、胸部に半ばめり込む形の頭部は人の形をしているが、眼窩からは甲殻類のような柄の付いた副眼が飛び出しており、より悍ましさを掻き立てる。


 差し渡し2mは下らない三本指の油圧グラップルめいた腕が、這い出すのに邪魔だった瓦礫を粉砕した。そして、巨大な二本の主腕の下には、小型の腕が六対備わっており、それらは瓦礫を粉砕する槌や、土砂を掬う重機のシャベルを思わせる。


 胴部とも下肢とも区別しがたい下半身に肩幅より扁平に広く、大きく不揃いな足と細く奇妙な足が密集して生えており、いよいよ以て帝国人の感性を負の方向に逆撫でる。


 ここでいっそ、耳が割れそうになる吠え声でも上げてくれれば良いものを。甲殻が擦れる音を立てながら、不気味な沈黙を湛えて聳える姿が恐ろしくてならない。


 「い、いかん、止まるな! 止まると死ぬ……」


 やや遅れて会館の銃兵や走狗と肉弾戦を繰り広げていた者達も、最期の最期、家賃まで吐き出した特大の課金に唖然とする。


 どれだけ優勢でも攻撃側が倒せる時に押し切れないと、敵に反撃の機会を与えてしまう。全力で殴りかかれば息が上がり防御に手が回らず、盤面では有利なのに殴り返されて死ぬという珍事がたまに起こりうるのだ。


 これを専門用語でガバ、あるいはプレイミスという。


 往々にして簡単な足し算引き算の誤りによって引き起こされるそれは、攻撃宣言を終わらせてしまってから気付くもの。


 だが、これは誰の落ち度であろうか。普通、あの神託を貰い、満を持して重装歩兵が襲いかかってきたならば、今が命の懸け時だと思うだろうに。


 さしもの勝利と闘争の女神も予想しなかったに違いない。


 アホが家賃すら浪費し、天井まで突っ張ってこようなどと。


 いや、これまでを含めて運命の岐路だったのやもしれぬ。


 ただ結果だけが全てであるが、曖昧な物言いをしておけば、後から何とでも解釈できるにしても酷すぎはしないかと、アウルスは膝から崩れ落ちそうになりつつも耐え、叫びを上げる。


 「止まるな!! 戦え! まだ諦めるなぁぁぁぁ!!」


 驚くのは分かるが、戦うのを止めてくれるなと。走狗は脅えも戸惑いもしないのだ。止まれば殺されてしまう。勝ちが決まった盤面が揺らいでしまう。


 こんな、ゲーム外からカードを持ち込んで勝利しようとする、子供でもやらないような無法で負けては誰も納得がいくまい。


 「大丈夫ですよ、アウルス」


 声は嫋やかに、しかし遠ざかりながら軽やかに。


 「貴方の勝利の女神は、私ですもの」


 竜は優しく、会館の中では音速を出さずにかけ出した。颶風が戦の名残と残骸を撒き散らして吹き飛ぶ中、御曹司が指を伸ばしても掠りさえしない。


 リウィアは、必要とあらば果断に動ける女性なのだ。


 どれだけ懇願されていようが、あの伏し目の令嬢が前に出ている中、戦えるのに戦わない理由なぞ、何処を探そうと、理性の全てを攫おうと思いつかぬ。


 大事にされるのは乙女として悪い気分ではなかったが、彼女は財宝を護ろうと討って出た竜なのだ。


 損なわれそうになって、手を、いやさ爪を出さずにいられようか。


 まず竜の淑女は、一息に上空へと飛び上がった後、一瞬で最高速度まで増速しながら、僅かに残った戦列歩兵のど真ん中に蹴りの形で飛び込んだ。


 靴が破れても構わぬと筋力と爪を強化し、正しく竜もかくやの形に変えた蹴撃は、直撃した個体を呑み乾した缶のように押し潰す。着地の余波で四方の敵が弾け飛び、それらが最高高度に至って墜落するまでに、7度振るわれた竜爪が薄紙を裂くように無数の走狗を食い散らかした。


 しつこく教えられる、自壊しない制御された本気だ。まだ昨夜の大暴れで抱え込んだ疲労が、性質の悪いヒモ男のように居座れど令嬢は踊りを止めぬ。


 凄絶な破壊の横槍に、やっと正気を取り戻した者達は、できる限りの反撃を始めた。


 目の前に敵がいる者は打ち倒し、遠い者は銃を放つ。


 重装歩兵の壊滅は決定的となり、統制だった射撃が醜い出来損ないの走狗へと浴びせ掛けられた。


 だが、10mもの巨体ともなると、さしもの大口径弾でも役者が足りぬ。キチン質かと思いきや、靱性と堅牢さを兼ね備えた装甲は貫徹できず、そもそもの体格差より効いているかは疑わしい。


 まるで蚊柱に踏み込んだくらいの鬱陶しさしか感じていないような足取りで前に出た異形は、同様に邪魔な虫を払うかの如く鋏を〝横薙ぎ〟に振るうべく、大きく腕を振り上げる。


 アウルスは悲鳴を上げかけた。


 軍勢相手への最適解を容赦なく取るんじゃないと。全体火力によって、丁寧に整えた盤面を「最初っからやろう。な?」なんて消し飛ばされるのを目の当たりにして、正気でいられようか。


 「主は我等が味方をし、我等を助け、我等が仇への願いを聞き届けられるであろう!」


 甲高く戦場に響き渡る読経は、凜とした響きを伴って一枚の障壁を成した。


 声音は戦場においても震えを帯びることはなく、一切の迷いを打ち捨てて状況を俯瞰した老爺から奏でられていた。


 「「我等は人に拠らず、また主に縋るだけに非ず」」


 儚き壁は、僅かに遅れて独唱から二重奏になった声により、多層の閃きを見せる。


 最も早くバグバドグルズの詠唱に声を合わせたのは、意外なことに此度の防衛戦が初めての戦であるギルデリースであった。


 「「「諸々の敵が我等を囲もうとも、我等が祈りは揺るがじ」」」


 彼女は、この短くも永い濃密なる戦の中で成長しているのだ。後ろで見守っている誰かに、頼ってくれと見せ付けるように。


 おっかなびっくり、嫌われるのが怖くて目を開けることにさえ脅える乙女の辿々しい献身が、朗々とした祈りには込められていた。


 「「「主の御名において、我等は囲む者共を討ち滅ぼす」」」


 右の薙ぎ払いが基点から障壁に阻まれ、積層構造の七色に輝く幾何学の陣形を砕きながらも鈍っていく。懸命な祈りによって練り上げられた理力式が、砕ける端から再構築されて壁の厚みを保ち、勢いを削いでいるのだ。


 「「「主は我等が力、我等が歌、我等が救い、そして我等は救いの礎石とならん」」」


 速度が鈍るにつれて障壁の破壊はとまり、遂に拮抗して縫い止められる。


 「「「全ては主の教えの斯くあれかし」」」


 驚くほどの粗雑さで押しつけられようとした破滅が止まったことを皆が喜ぶが、五人がかりの理力式でやっと一撃を戒めただけだ。


 敵は曲がりなりにも人型をしている。一つとめただけでは、まだ足りぬ。


 割れて砕けた障壁に突き刺さったせいで、引くも進むも適わなくなった右腕を見ても、異形の巨体は何の感情も発露させぬ。使えなくなったら使える方をと、ただ残った左が淡々と振り上げられた。


 祈りを聖歌として奏上するという形式上、一つの理力式から次の理力式に繋げるのは困難が伴う。そして、信仰が真摯であることが悪く働いたのか、自分の肉体に干渉する式はともかく、外界に力をもたらす理力式の行使は多重展開ができぬ。


 あわやというところで、聖歌の旋律に轟音が割って入る。鋼が拉げる交通事故めいた轟音は、翼を目一杯伸ばしたリウィアが、振り下ろされる寸前の左手に激突した音だ。


 片腕だけで数トンを下ることのない大質量を制止するには小さすぎる令嬢なれど、肉体の自壊を覚悟した突撃は不条理を物理的に叩き潰す。鋏に取り付き、恥も外聞もなく伸ばした翼が大気を孕んで、恐ろしい巨軀と拮抗してみせた。


 「はっ、はは、これは、とても食べられそうにはありませんわね……!!」


 肉体の限界を超えて隆起した四肢の間で、反作用を受け止めた反動か鱗と皮膚が裂け、血潮が飛び散っても令嬢は気にすることなく爪の一本を掴み、本物の蟹を解体するのと同じ要領でもぎ取ってみせる。


 この異形に大した知能はないのだろう。痛みを感じている様子もないが、攻撃のため振るおうとした左右の腕が拘束されていることに不愉快そうに身動ぎするだけで、眼前の斃しやすい敵から処理するといった合理的行動は見せぬ。


 それもそのはずだ。何も考えずとも無比の戦闘力と巨体で以て、前進するだけで全てを蹂躙トランプルできるのだから、逆に難しく考える能力が要らぬのだ。ただただ突っ込むか、勢いが足りぬにしても殺されず立っているだけで戦場を制圧できる。


 リウィアは死を覚悟した全力でも、片腕の拘束が限界だと悟る。質量差が大きすぎて、竜の血を引く者の膂力でも抗いきれない。況して、ここからどうやったら死ぬのかという予想すら立たぬ。


 抵抗できても、殺しきれぬとあれば会館に籠もった者達にできることはない。あとは、軍が参集しようが〝ただの絨毯〟にしからぬ巨体で文字通りに帝都を〝掃き清めて〟いけば終わる。


 採算は怪しくとも、120年前とは比にならぬ怨嗟と恐怖、魂の数々が迷宮に吸い込まれ、更に帝都の壊滅はより大きな混乱を引き起こし、全てを失伝させるであろう。


 そして、帝都の完全失陥から外交上のパワーバランスは崩壊し、世界を巡る魂の循環は混迷を極めよう。


 されど、それは端から想定されていない三人組の横槍がなければの話。


 「まさか、本当に使うことになるとはねぇ……」


 混戦の中から抜け出したのは、一人の低地巨人。彼女の手には、実際に目の前に置かれてみれば、何かの冗談かプロップとしか思えない代物が握られているではないか。


 「ったく、何がジョークグッズよ……」


 成人男性の倍はある巨大な掌に調整された銃把の上には、いっそ頭が悪いと言い切れるほどに野太い銃身と簡単な機構だけが備わっていた。


 むしろ、低地巨人が握っていなければ、銃と判別することすら困難であっただろう。辛うじて形だけが信号弾を打ち出す銃に似ているといった有様。


 その銃身……いや、最早砲身と呼ぶ方が相応しい得物の口径は、なんと〝20mm〟


 人間が独力で扱うことは困難ということもあり、前世地球においては銃ではなく砲に区分される巨大さは、戦車を除く大半の航空・地上兵器に対応可能というイカレ度合い。


 少なくとも単発機構にしてみたり、大きな銃口制退器コンペンセイターを装備していたり、全体を鋼の削り出しによって最高の硬度に保ってみたりなど、設計者の努力が各所に凝らされてはいるが、どこをどう切り取ったって悪ふざけの塊だ。


 面白い物を作ることが性的欲求より強い鉄洞人が、作れそうだから作ってみたという、この世の誰に装備できるのかという渾身のネタ。なまじっか専用の固定台に据えてみれば、ちゃんと撃てたし壊れなかったというのがなお性質を悪くしてくる。


 つまるところ、射手が死ななきゃ〝理論上実用可能〟という、実用性の欠片もない拳銃……いや、拳砲の砲身を支える銃床には銘が掘られていた。


 クエレッラ。帝国語においてシンプルな〝苦情〟を意味する銘は、製造者であるベリルのちょっとしたお茶目のつもりなのだろうか。存在自体がお笑いの代物に、更に反応に窮する外連まで挟んでくる友人の酔狂さが、Cにはよくわからなかった。


 どうあれ、三人は世界の地上げ屋に物理的にクレームを叩き付けに行く集まりなので、これ以上効果的な物はあるまい。


 低地巨人は巨体に見合わぬ俊敏さで、地面に先端が半ば埋まっている歩脚を駆け上り、侵入者を打ち払おうとする副腕を逆に掴んで、鉄棒の要領で跳ね上がる。


 猿もかくやの軽業で巨体を舞わせた軍事担当は、巨体の顔面の前まで達した瞬間に狙いを付ける。


 あまりに馬鹿馬鹿しい代物であり、弾も一発しか用意されていなかったので――さしものベリルも、作るだけ作って冗談で終わらせるつもりだったらしい――試射などしていないが、不思議とカリスにはイケるという確信があった。


 戦に血潮を沸き立たせる低地巨人の本能が囁くのだ。これは良い物だぞと。


 「……はい、王手詰みグッドゲームっと」


 気の利いた言葉が思いつかなかったのか、カリスは短い言葉を添えて引き金を引いた。


 そして、全てが弾け飛ぶ。巨大な走狗の額に突き立った弾丸は、表面を鋼鉄で被甲されていたことで装甲を容易くかち割って、内部を飛翔しながら構造を攪拌しながら破壊する。巨体を進む内に貫通力を失った弾丸は体内で跳弾し、内部を徹底的かつ無慈悲に掻き混ぜた。


 一方で、凄まじいリコイルを受けたカリスも吹き飛び、先に殺され尽くした走狗の亡骸に受け止められていなければ、受け身も取れていなかったので大怪我をしていたであろう。


 終ぞ声を上げることなく異形は悶え、そして静かに崩れて動かなくなった。


 直後、天を突くのは蒼く透き通った光の柱。かつて要塞だった廃墟の中央で口を開けていた虚から、何処までも伸びていく光を知っている物は、二晩の狂騒が終わったことを確信した。


 四層を突破した時と同じだ。絡め取られた魂、形而上学的熱量が世界に還っていく。


 最後にいいオマケを貰えたものだ。この神秘的な光景を目の当たりにして、一体誰が疑おう。


 氾濫が終わったことを…………。 


【あとがき・補記】

 端的に言って書き溜め分が尽きました。

 なので、暫く更新ペースはおとなしめになるかと思います。


 グッドゲーム:一種の礼儀作法。良い試合だったね、と広く通じる英語でたたえ合う言葉だが、投了の言葉でもある。略してggとのみチャットすることも屡々。

 一般的に接戦の末に捲られた側が賛辞を送るか、どこからか凄まじい電波を受信して作ったとしか思えぬ珍奇なデッキに分からん殺しを食らった時、普通ならば出すのが極めて困難なカードがプレイされた時にも口にされる。

 尚、どこがグッドゲームだよボケ、と言いたくなる先行制圧をした上で口にすると、後手への酷い煽りになるので用法には注意が必要でもある。

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