第18話 四姉妹と混浴させて下さい!

 舞の予想はほとんど外れなかった。


「くかー……くー……」


 若菜父は完全に酔い潰れて、寝てしまっている。

 ふすまで仕切られた“男子スペース”のほうの布団で、大の字になっていびきをかいている。


「布団二つ占領してるんだけど、どこで寝ればいいんだろうな、俺」


 父は二つの布団を横断するように寝転がっているし、強引に動かすのも気が引ける。

 ま、絆奈の布団で寝ればいいか、と鳴爽はごくあっさり結論を出す。


「いい気分で寝てるだろうし、起こせないよなあ」


 鳴爽は父に布団をかけてやってから、部屋を出た。


「お父さん、どうです?」

「ああ、よく寝てるよ。あれは朝まで起きないな」


 部屋の外では、浴衣姿の絆奈が待っていた。

 二人で並んで旅館の廊下を歩いて行く。


「舞さんの予想、少しだけ外れたな。ご老人方と盛り上がるかと思ったら」

「せっかくの家族旅行ですから。邪魔をされては困りますよ」


 絆奈はニコニコ笑っていて、機嫌がよさそうだ。

 最近、ツッコミを受けてばかりなので、そんな絆奈が珍しい。


 父は知り合いとの話は温泉で切り上げ、夕食は四姉妹とオマケと一緒に取った。


「まあ、酔い潰れたことに変わりはないけど、娘のお酌で飲んで潰れるのは最高なんじゃないか?」

「たった四杯で潰れてしまいましたけどね……」


 夕食の席では、四姉妹が代わる代わる父にビールを注いでやっていた。

 可愛い娘たちのお酌で飲む酒は最高だろう。


 父は緩みきった笑顔で、次々と飲み干して――

 ばたりと倒れた。


 父に肩を貸して、部屋まで運んだのはもちろん鳴爽だ。


「つーかお義父さん、普段は一滴でも潰れるくらい弱いんじゃなかったか?」

「そうですけど、私たちのお酌なら別みたいですね。気分良く飲んでたじゃないですか」

「ふぅーん……」


 鳴爽は、わずかに首を傾げてから。


「あんなにハシャいでるお義父さん、初めて見た」

「私も久しぶりに見ましたよ。ウチは父親をぞんざいに扱うような家ではないですけど、それでも父との距離は子供の頃とは違いますから」


「ま、喜んでたし、よかったんじゃないか」

「お父さんが家出のお詫びって話でしたけど、私たちがサービスしちゃってましたね」

「旅行代はお義父さんの金だからな。少しはサービスしてもバチは当たらないだろう」

「ええ」


 話しながら、目的の部屋に到着。


 もちろん――家族用の貸し切り風呂だ。

 家族用といっても、別に家族でなければならないわけではないらしい。

 カップル同士が使うことも問題ない。


「あ、あの……本当にここに?」

「うん」


「うんって……鳴爽くん、動じなさすぎじゃないですか?」

「そんなことない。柔道の全国決勝よりは緊張してる」

「それもどうなんでしょう……?」


 可愛い女子との貸し切り風呂は、全国大会決勝と同じくらい重要だ。

 いや、鳴爽の最終目的を考えるならこちらのほうがより大事だと言えよう。


 四人姉妹との風呂は一度経験済み。

 しかし、今回は――


「ふう……やっと絆奈のおっぱいも見られるのか。長かったなあ」

「そんなに長くないですよね!?」

「絆奈に告ってから、一年経ってるんだぞ」

「うっ……で、でも、告白をOKしてからはまだ一ヶ月も……」


 ぶつぶつ言いながら、絆奈は貸し切り風呂の引戸をトントンと叩いた。

 戸には“貸し切り中”の札が下げられている。


「あ、絆奈さん……鳴爽さんもどうぞ……」

 戸が少しだけ開いて、乃々香が顔を覗かせた。


 きちんと鍵をかけてあったようだ。

 酔っ払いが貸し切り中の札に気づかずに突入してくる可能性もあるので当然だが。


「入りますけど、いいんですよね?」


 絆奈が断りを入れつつ中に入っていき、そのあとから鳴爽も続く。

 脱衣場には、もう乃々香の姿はなかった。

 浴場のほうに素早く移動したらしい。


「姉さん、普段はにぶいのにたまに動き速いんですよね」

「乃々香先輩も謎が多い人だな」


 浴場への出入り口は、磨りガラスになっていて中ははっきり見えない。

 だが、既に舞たち三人がいるようだ。


「ワクワクするなあ」

「この前、お風呂は一緒に入ったじゃないですか」


「タオルと水着の有り無しで全然違うだろ! 天国と地獄くらい違う!」

「この前も大サービスしてあげたのに、地獄呼ばわりはいかがなものでしょう……?」

「よし、脱ごう」

「話をどんどん進めますね、いつものことながら」


 絆奈は呆れながら、鳴爽から離れたロッカーの前に移動する。


「あの、こっち見ないでくださいね? 浴場まではタオル巻きますからね?」

「わかってるって。レディの脱衣を無遠慮に眺めるほど失礼じゃない」


「できれば、外に出ていてほしいくらいですが……」

「大丈夫だ、服を脱ぐ衣擦れの音だけで充分だ」

「なにがなにに対して充分なんですか……」


 鳴爽は、まだ呆れている絆奈からは視線を逸らしたままだ。

 横目で見るようなセコいマネもしない。


「で、では……私は先に行ってますね。鳴爽くんもタオルくらいは巻いてきてくださいよ」

「わかってる。俺のを見せるのが目的じゃないからな」

「私たちを見せるのも目的じゃないですからね?」


 ささっと絆奈が小走りに浴場へ向かい、戸を開け閉めする音が聞こえた。


 鳴爽は服を全部脱ぎ、タオルを腰に巻く。

 自分の身体に見せられないところなど一つもないが、これくらいは女子への礼儀というものだろう。


 絆奈はああ言っていたが――

 言うまでもなく、四姉妹の裸を見るのが目的だ。


 タオルでも水着でもないとなると、濁り湯で実は隠しているというパターンだろう。

 まさか、都合良く湯気ジャミングが起きたり、謎の光が差し込んだりするはずがない。


 鳴爽は、落ち着いて引戸を開けると――


「おっぱいじゃん!」


「第一声がそれですか!?」


 打てば響くような美しいツッコミは、もちろん絆奈だ。


 だが、実際におっぱいだった。


「ちょ、ちょっと……見すぎじゃないですか?」

「俺が見すぎることくらい、予想はついてただろ」

「力強く言い切りますね……」


 絆奈は濁り湯の中にいた――

 だが、湯の中で立っているので、腰から下のあたりがかろうじて隠されているだけだ。


 上は腕で胸を隠しているだけで、水着もタオルもない。

 もちろん、湯気ジャミングも謎の光もない。


 若菜絆奈という美少女の白い肌と、隠している腕で持ち上げられているGカップのおっぱいがあった。


「絆奈、バンザイしよう」

「む、無理です!」


「正直、絆奈の肩を外してでもその腕を下げさせたい……」

「そんな暴力的な人でしたっけ!?」


「もちろん、そんなことはしないよ。絆奈、手を繋ぐくらいはいいよな?」

「この状態で手を差し出したら、胸が丸見えじゃないですか!」

「むしろ、胸以外が丸見えだけどな」


「ううっ……お姉さん、もうお湯に浸かっていいですか?」


「心外だね。あたしが無理矢理立たせてるみたいに」

「裸を見せるなら自分が代表して……って、絆奈さんから言い出したのに……」

「ボク、もうお兄さんには一回見せてるし、また見せたっていいよ?」


 絆奈の後ろでは、舞と乃々香とみつばの三人が湯に浸かっている。


 三人ともタオルなどは巻いていないし、水着も着けていない。

 胸が半分ほど覗いているが、おそらく全裸だろう。


「まさか本当に四人とも裸とは……オチがついてないですよ、舞さん」


 オチがほしかったわけではないが、まさか四人が素直に裸を見せてくれるとは。


「もう出し惜しみするのもめんどくさくなってきたよ。なんか、どうせ最終的には鳴くんに見られそうだし」

「そ、そこまでわたしは割り切ってないけれど……」

「お兄さんにはパパもお世話になったし、もうおっぱいくらい見せたって全然いいよ!」


 ばしゃっと音を立ててみつばが立ち上がる。

 ぷるっとBカップの中学生の胸があらわになる。


「み、みつば! だから、そんな簡単に胸を見せてはいけません!」

「きー姉、率先して見せてるくせに……お兄さん、ボクのおっぱいも見たいよね?」

「そろそろ、見るだけじゃ済まなくなるような」


「わーっ! そ、それ以上のことをするなら私にしてください! 妹は許して!」

「そんな、俺をワイセツ犯罪者みたいに」


「そのとおりじゃないですか……? 女子四人が裸で、そこに突入しちゃってるじゃないですか」


「とりあえず、かけ湯をして入ろうかな」

「無視ですか!」

「いや、絆奈の言葉より今はおっぱいしか目に入らないし聞こえない」

「おっぱいのなにが聞こえるというんですか!」


 鳴爽は洗い場のシャワーでさっと身体を洗い流す。

 さっきの入浴で身体は洗っているので、これくらいで充分だろう。


「ふう……美人四人との風呂は最高すぎる!」

「それは最高でしょうね……」


 鳴爽が湯に浸かると、絆奈も慌てて座り込むように濁り湯で身体を隠した。

 一瞬、胸を隠していた腕が外れ、鳴爽はその瞬間を見逃さなかった。


「ピンクか……」

「なにがですか!?」


「まあまあ、今日はじっくり見ていいから。鳴くんへのサービスだからね」

「う、うん……見てもいいけど、旅行が終わったら夢だと思ってほしいけど……」

「ボクは覚えててもいいよ。なんなら、何度でも見せて忘れる隙もないようにしちゃうよ」


「ええ、言われるまでもなくじっくり眺めさせていただきます!」


「本当に鳴爽くん、遠慮しないですよね……」

「ラブコメの主人公じゃあるまいし、見られるときに見ないわけがないだろ」


 舞はFカップの胸が半分以上見えていて、少し動くたびにぷるぷる震えている。

 乃々香のEカップも舞や絆奈と比べると小さいだけで、一般的には充分に大きいほうだ。

 みつばは湯に浸かり直しているが、おっぱいは完全に見えたままだ。

 小さいけれど、張りがあって柔らかそうで、見応えがある。


「しかし、こうして四人の裸をまとめて見てると――」

「な、なんですか?」


 絆奈のGカップの胸は、頂点が見えるか見えないかの絶妙さ。

 見せたいのか見せたくないのか、難しいところだ。


「いや、バリエーション豊かでいいなあ。基本、みんな胸でかいけど、舞さんは全体のバランスよくて、乃々香先輩は背が高くて細いし、絆奈はおっぱい凄すぎるし、みつばちゃんは未熟な身体つきがいいな」


「なにを堂々と講評してるんです……」


「…………」

「だから、黙ってじっと見るのやめましょうよ! い、いえ、見てもいいですけど、少しは遠慮を……」


 鳴爽は、絆奈、舞、乃々香、みつばと視線を動かしていく。

 胸だけでなく、その整った顔立ち、細い肩、白い肌、それに――


 やはり、この四姉妹は揃いも揃って並外れた美人でスタイルも抜群だ。

 みつばの胸が小さいのは、今後の成長が期待できるので、マイナスポイントではない。


 ただ――


 鳴爽は、四人の全裸をありがたく観察しつつ、なにか違和感にも気づいていた。


 なんだろう? 俺はなにが引っかかってるんだ?


 正体の見えない疑惑が浮かび上がりながらも、四人の裸に興奮して頭が回らない。


「ちょっと……? 鳴爽くん、のぼせてるんじゃないですか?」

「そんなことは……ない……」


「わーっ、のぼせてますって! 顔が真っ赤ですよ!」


「そりゃ、こんな美人四人と一緒にお風呂入ってりゃね」

「お、お姉ちゃん、のんきにかまえてる場合じゃ……!」

「ヤバいヤバい、きー姉、一緒にお兄さん抱えるよ! ボクらが若さで助けるんだよ!」


「がんばれ、若者たちー」

「わたしは腕力ゼロなので……」


「わ、私ですか……しょ、しょうがないです!」


 絆奈が近づいてきて、鳴爽を正面から抱えてくる。

 彼女の柔らかいおっぱいが押しつけられ、後ろからみつばも身体を密着させてきて、鳴爽を支えてくれた。


 小さなおっぱいの感触も、背中に伝わってくる。


 年少組二人に抱えられ支えられ、鳴爽はふと思う。

 この四姉妹は、どうして揃ってこんなに綺麗でスタイルもいいのだろうか?


 姉妹なのだから、揃って美人でも全然おかしくない。

 だが、なにかがどうしても引っかかる――

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