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 背中に生ぬるさと指先にぬめりを感じて気が付いた。目を開けて指を見てみるとさび色の血だった。上体を起こすと一二歩先に先程まで中年男だったものがバラバラに切り刻まれて置かれていた。胴体から首と四肢が刎ねられて前方にWの字状に置かれ、よく見ると頭の前に指二本くらいの赤黒い肉の塊が置かれていて、それが舌だと理解するまでに時間を少し要した。更によく見てみると男は口の中に舌ではない肉塊を咥えさせられていた。達磨だるまになった胴体の股座またぐらに在るべき突起が付いていない事を発見して私は腹からこみ上げてくるものを男の舌の前にぶちまけた。


 一頻ひとしきり吐いて胃の中が空っぽになってからようやく私は思い出す、首を絞められ意識を失う前に黒ローブの仮面が中年男の首をねた事を。部屋の中を見渡してもそんな影は微塵みじんもなかった。アレはなんだ? 死神か? それも気になるが、これからどうしようかと思案を巡らせ始めた。


 新たな部屋への扉の下部からは変わらず鍵が見えた。私は中年男の刎ねられた右手を握って鍵に伸ばした。上手い具合に硬直した指に引っかけて鍵を引き寄せる事に成功した。鉄か真鍮しんちゅうか解らないが金属製のほとんど線状の鍵を鍵穴に差し込むとガチャリと扉が開いた。扉を押して私は新たな部屋に足を踏み入れる。

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