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 さてどうしたものかと部屋の片隅で入り口をにらめつけながら思案していると、いつの間にか意識を手放してしまっていた。気が付くと入り口の前に薄茶色の袋がまた落ちていた。拾って袋を開けるとやはり食パンが入っていた。武者振むしゃぶりついて平らげると袋は先程と同じように青白い燐光を放って雲散霧消した。何だか身体からだの芯が温まる。空腹なんて感じていないのに袋を開けるとかじりついてしまうのはおかしいな……。

 便意を感じて大便をした。便が底に跳ねる音はやはり聞こえてこなかった。済ませてから扉を振り返るとまた袋が落ちていた。腹は減っていないのでそのままにしておいた。袋を放っておいてうろうろしていると、どういう訳か袋が気になって仕方なくなってくる。気のせいに違いないと思って扉に背を向けて横になる。意識を取り戻したのは口の中に広がる餅のような食感を堪能している最中だった。

 食べたい、食べたくて仕方ない。食べ終わると次はいつか次はいつかと室内をうろうろし始めて扉の下部から眼が離せなくなった。うろついたりうつぶせに地べたに張り付いて待ち構える。一分が一日にも一月ひとつきにも感じられる、きっとまだ十分も経ってないだろう。


 そう言えば袋が落ちていたのは扉を振り返った時だったなと思い出した。扉に背を向け振り返る、落ちていない。背を向け……振り返る、落ちていない。扉がえられている壁と平行になるようにうつぶせに寝転んで左に奥の壁を見て右に扉の小窓を見る。数秒から数十秒様々な間隔で左右に首を振っていると段々とまぶたが重たくなってきた。何十回目だったろう、音もなく小窓が独りでに開いてパンの入った薄茶色の袋が滑るように室内に入ってくるのをたのは。朧気おぼろげだがそこまでは覚えている。

 再び気が付いた時、先に目覚めていたのは歯と舌だった。嚥下えんげする度に身体の奥底から熱くなってきた。咀嚼そしゃくと共にこう思うようになった、扉の向こうに行けばもっと食べられる、と。


 扉の向こうに行くにはどうすれば良いのか、相変わらず鍵は扉の下部の小窓から届かない位置に落ちていた。扉は硬そうな木製、突き破れるのでは? 

 そう思ったので右肩から体当りしてみた。音は出なかったが手応えはあった。右肩がじんじんする。それから何度も何度も体当たりを繰り返した。数回やって痛みに耐え切れなくなって来たら肩を変えたりした。少しずつ扉が悲鳴を挙げだした。

 何度か肩を変えた何十回目かに木が折れる小気味良い音と同時に扉を突き破った。勢いを余らせて扉だったものの向こう側へとつんのめる。硬い床の冷たい感触、扉の破片、血塗れの布切れ、身体を起こすと見た事がある光景だった、ぶら下がった裸の豆電球、正面には扉。

 そして右奥の隅に……薄汚れた布をまとった薄っすら痩せこけた白髪しらが交じりの中年男。

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