第7話 投げ魔力をください!
ラビィの嘘に、先輩たちは即座に反応するよ。
『えっ、そうなのか!』『いやそれはない』『バレバレの嘘』『だめー』
騙され気味の人もいるけど、だいたいの先輩に見抜かれてしまったよ。
「待ってくれたまえ。アタシたちは被害者なんだ。反則行為の救済が必要だッ!」
ごく自然にラビィも眠り薬の被害者サイドで語ってるけど、黙っておくよ!
『眠り薬の証拠はあるの?』
あー、なんか難しいこと聞かれた!
反則を追求するなら、反則の証拠がいるってこと?
そんなのないよね……。
意地悪受験生が調子に乗って暴露してこなければ気付かなかったんだから。
もう一回問い詰めたところで――先生の前で言わせようとしたところで――素直に言ってくれるとは思えない。
「うちは魔法学園に入りたいにゃっ! 魔道士になりたいんよ! 先輩、力を貸して欲しいにゃ!」
ナナは自分の精霊石に必死で語りかける。
『熱意だけでは無理かな』『残念』『運のパラメーターも実力と言いますわ』
上級生たちの反応は冷たい。
突き放されたナナは瞳に大粒の涙を浮かべる。
傍らのリュックをぎゅっと抱きしめて、ぽろぽろと涙をこぼし始める。
「ママっ! ママ~~!」
ママの名を呼びながら泣き始めたよ。
『可哀想……』『いや、子どもか?』『心が弱すぎる』『でも可哀想ですわ』
先輩たちは……ちょっとだけ同情してくれたみたい。
「ママ~~!」
ナナの泣き声はママにすがる声ではなく――。
もっと深い悲しみをたたえたような声に聞こえた。
私は故郷の村の小さい子ども達を思い出した。
「先輩、聞いて欲しいだ――。私の故郷の村は、魔物に滅ぼされそうになってるよ。
子どもとお年寄りしか村にいなくなって……子どもはみんな『お母さんに会いたい』って泣いてたよ。普段はみんな我慢してるけど、こらえきれなくなって泣いちゃうときあるんだよ。きっとナナもそんな感じだと思う。
私は村で一番大きい子だから泣かなかったけど……。時々さびしくなって、母ちゃんの服の匂いを嗅いだりしてたよ。父ちゃんの服は臭いから嗅がなかったけど……。
父ちゃんは足も臭いからダメなんだ。久しぶりに家に帰ってきたときには、足を洗ってから家に入るように言うんだ。そうじゃないと家が臭くなるからよくないんだよ」
『何の話をしてるんだ?』
「私も何の話をしてるのか分からなくなってきたけど……」
『くすくす』『笑』
「うちの村の人は、長い話をしていると話があさってに行って帰ってこなくなる癖があるんだよ。私もたぶんそうなんだ。モコッチ村の血筋だ。でも私はそんなのんびりした村が大好きなんだ」
『故郷か……』『わかりみ』
「私は村を守るために魔道士を目指してるだ。私が受験するって言ったら、村中総出で応援してくれた」
私は傍らのリュックを開けてみせる。
入試の案内書で『野営の道具を持ってくること』って書いてあったから、テントとか鍋とか入っててパンパンだよ。
私の場合は特に荷物が多くて――。
それを先輩に一つ一つ見せていく。
「これ、餞別でもらった枕だ。これはマフラー。手袋ももらった。全部手作りだよ。村のみんなの気持ちがこもってるんだ。
あとピクルスの瓶。中身は食べちゃったけど、捨てられなくて瓶だけ持ってきたよ。
これはカボチャのヘタ。巨大すぎて重いから、もらってすぐ食べた。3日もかかったよ。3日目には飽きてきたから、チーズを乗せて焼いて味変したよ。そしたらすごくおいしくて、これは定番のレシピにしてもいいなって思ったんだ。
でもレシピ帳は家に置いてきたから、取りに戻るには3日かかるから、どうしようってすごく迷ったんだ……」
『また話が逸れてきた』『笑』
「だから私は村を守りたい! 村のみんながずっと一緒に暮らせるように!」
『強引に繋げてきた!』『笑!』『HAHAHA!』
「子ども達が泣かなくて済むように、みんなを守る力になりたい。先輩、そのための力を私に貸して欲しいだ……!」
私は精霊にお祈りするときのように手を組んで、先輩たちに願ったよ。
『くすくす』『意味は分からんけど気持ちは伝わる』
『支援。魔力:+30』『おもしろい。魔力:+50』
コメントに魔力の数字が入ってる。
精霊石がぽわっと光った。
先輩が
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あとがきというか、ハルカから補足
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村の事情について。
私の村は子どもとお年寄りしかいなくなって大変だったんだけど、旅の魔道士さんが来て魔物を討伐してくれたから、ひとまずは一息ついてるんだ。
村には大人もちらほら帰ってきて、畑の再建に手を付けてるだ。
でも、またいずれ
事情が長すぎて最初のほうしか伝えきれなかったよ。
全部説明しようとしても、たぶん話がまたあさってに行くから伝えきる自信がないよ。
だからここにちょろっと書いておくね。
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