第6話 配信の最初の挨拶どうする?


 上級生たちは私たちの配信に、戸惑いのコメントを投げかけてくるよ。


『試験は演習場に転移してやるはずだ』『11時スタートって聞きましたわ』『じゃあ何これ?』『フライング?』『チート行為?』


 私の瞳には次々にコメントが浮かんでくる。

 フライングとかチートとか言われて、決して歓迎されてる様子じゃないけど。


 でも、いい情報もらった。

 試験は11時スタートだって!


 路地の隙間を振り返り、魔法学園の時計塔を仰ぎ見る。

 時計の針は、10時30分。


 私の田舎には時計なんかないんだけど、ちゃんと時計の針の見方も勉強してきたから間違いないよ。


 11時までにはまだ時間がある……!


 実際、鉄柵越しの校庭を見てみると。受験生たちは転移の順番待ちなのか、乱れた感じで立って待機してる。


 いけるっ……!

 ここで先輩たちに応援してもらって魔力が手に入れば、試験に潜入することも可能だよ!


「でも配信ってどうやればいいの?」

 私はいきなりの本番で心の準備が出来てないよ。


「挨拶から入るんだ。配信は挨拶が基本って聞いた!」

 ラビィは多少の知識があるみたい。


 えー、でも具体的にどうやったらいの? どうするんだっけ?


「うちがやるにゃ! 本で読んだから知ってるにゃ!」 

 ナナは一歩前に出てきた。


 どうやら自信があるみたいだよ。ここはナナにお手本見せてもらおう!


「「…………」」

 私とラビィが固唾を呑んで見守る中、ナナは若干のタメを作り――。




「ぷんぷんハロー魔法学園♪」

 両手を左右にぶんぶん振った。




 こうするのかぁ~~~!


 先輩たちがどっとコメントを投げかけてきたよ。

『うわぁー古典出たよ』『めっちゃ古文書で見たやつ』『毎年見るわ』


 えぇーなんか不評みたい。でも挨拶の勘どころは掴んだよ。


「次、私が挨拶するね! 思い出したんだけど、私も受験勉強で挨拶の例文見てた!」

 私が手を上げて言うと、ナナとラビィは素早くうなずく。


「「…………」」

 ナナとラビィは期待のこもった視線で私を見てるよ。私は若干のタメを作り――。




「ぷん~ぷん~♪ ハロー魔法学園♪」

 両手を左右にぶんぶん振った。




『ちょっと言い方変えただけ!』『古典好きだな』『工夫なさすぎ!』

 先輩たちはツッコミのコメントを投げてくるよ。


 えっ、言い方の問題じゃないの?

 私が見た教科書だと、ぷん~ぷん~って書いてあったんだよ?


「あははははははは!」

 ラビィはお腹を抱えて笑い出した。そして私を指差して言う。

「きみ! ちゃんと先輩のコメント読んだのか? 古典はだめって書いてあるじゃないか。挨拶にはオリジナリティと新しさを求められてるんだよ」


「じゃあどうすればいいの?」


「まかせろ、アタシに。最高に新しい挨拶をやってやるっ!」


 最高に新しい挨拶! どんなのだろ!?


「「…………」」

 私とナナが期待して見守る中、ラビィは背筋を伸ばし、すうーっと息を吸って若干のタメを作り――。




「ぷんぷんハロー魔法学園♪」

 両手を左右にぶんぶん振った。




「同じじゃないの!」「一字一句同じにゃぁッ!」


 先輩たちも一斉にツッコんでくるよ。

『なんだこいつ』『おふざけがすぎますわ!』『いったい君たちは何者なんだ!?』


 その問いかけに、ラビィが挙手をして話し始めた。   

「上級生の先輩方――。アタシの話を聞いて欲しい……」


 私はさっと手を伸ばし、上級生に失礼がないように彼女の寝癖をなでつけた。


『なんか語りが始まった』『とりあえず聞きますわ』『寝癖すごいな』


「アタシたちは遅刻者だ。ライバル受験生の罠にはまって、眠り薬を飲まされてしまったんだ。アタシたち3人とも、悪い受験生のせいで受験出来なくなってしまった!」


『ああ~そういうやつ』『からめ手使う人、時々いるよね』『それで寝癖が付いているのね』


 先輩たちは納得してるけど、ラビィの話にちょっとだけおかしなところがあったよ。

 ラビィは眠り薬飲まされてないと思うけど……。普通に寝坊じゃないのかな?


「アタシは悔しいっ! 王国のために、民を魔物から守るために、魔道士になって貢献しようと思っていたのに! こんなところで卑劣な受験生の罠にかかってしまった! 悔やんでも悔やみきれない!」


 なるほど、ラビィはどさくさで自分も眠り薬飲まされて遅刻したことにしようっていうんだね。黙っておくよ!


『気持ちは分かる』『高い理想を掲げてたんだね』

 先輩たちは同情してくれてるみたいだよ。


「アタシは諦めたくない。この試験、あらゆる知略と謀略が許可されていると聞いた。だからアタシたちは魔法を使って遅刻を突破するんだ。先輩たちには、そのための魔力を恵んでもらいたい――」


『どういうこと?』

『?』

『知略と謀略?』

『知略と謀略は試験開始後の話じゃないの?』

『試験前に知略と謀略使うとか聞いたことないです』

『試験前に眠り薬使うのだって反則行為だよ』

『盤外戦術はだめですわ』

『魔法使うのはフライングだよ』


 あれっ、話の流れがおかしい!

 試験前の知略と謀略はダメなの?


 じゃあさっきの悪い受験生は? 眠り薬使ったってこと!? 反則行為だったんだ!?


 あっ、だったらやばい……!

 私たちが魔法使うのダメになる。


 私たちの手が封じられた……!?


 ナナと顔を見合わせて青ざめていると、ラビィが苦し紛れの言葉をひねり出した。


「先生に許可はもらっている――。相手も反則だったから、こっちも反則やっていいって言われた」


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